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第14話 乙女ゲーのこと

 わたしは全てをレイとジークに話すことを決めた。


「わたしが今から話すことは、きっと信じてもらえないと思う。嘘だとか、作り話って思うと思うの。……先に言っておくと、わたしは嘘をついていない。でも証明することもできないから、それはどう思ってくれてもいい。

 なんでそんな話をするかというと、わたしがハッシュ領に行きたいから。なんか知っているんだよね、ふたりは。

 そこでしか、わたしはお金を用意する方法を思いつけない。だから行きたいの。行き方を知りたいし、知っていることがあるなら教えて欲しい。

 それから、わたしは話したくなかったんじゃなくて、きっと信じてもらえないと思うから話にくいってことを言いたかったの」


 ふたりは顔を合わせている。


「そう前置きされても、聞いてみないと、信じるとも信じないとも言えないけど。話してと言ったのは僕だから、話をしてくれたら、僕の知っていることを話す」


「俺も信じるかどうかは聞いてみないとわからないけど、でも聞きたい」


 わたしは頷く。


「わたしね、この人生の前の記憶があるの」


「人生の前の記憶?」


「そう。しかもこの世界ではなくて。こことは違う異世界」


「異世界?」


「魔法はないけど、科学っていうのが発展してて。爵位はない国だった。

 記憶があるのは舞台女優をやっていたところまでだから、そこらへんで命を落としたんだと思う」


 ふたりはうっすら口を開けている。


「その人生の記憶に、この世界のものがある」


「え?」


「どういう意味だ?」


「わたし〝物語〟で読んだの。ゲームもした、この世界のね」


 ふたりは?の顔している。そうだよね。


「その物語っていうのがね、シミュレーションゲームのスピンオフなの。

 ゲームは乙女ゲーで、あ、乙女ゲーっていうのは、女性が主人公になり、ゲーム内で恋愛を楽しむシュミレーションゲームのことを指すの。女の子が主人公になって攻略対象者の中のひとりと恋に落ちて、いろんなことを一緒に解決していくの」


「待て。……何を言っているのか、ひとつもわからない」


 レイが真面目な顔で言った。

 うーー、ゲームがない世界で、どう話したらいいんだろう。


「ええとね。レイが主人公だとしよう。するとね、アナウンスがあるわけ。レイは起きた。今日は天気がいい。そうすると選択肢が現れる。1、起き出して顔を洗う。2、二度寝する。どっちにする?」


「え? じゃ、2番。二度寝する」


「レイは上掛けをかけ直して、二度寝を決め込んだ。レイは街に行かなかったので聖女と会う事はなく、恋に落ちることもなかった。バッドエンド。……というふうに流れるわけ」


「1を選んだらどうなるの?」


 ジークに聞かれる。


「レイは起き出して顔を洗いました。院長先生が後ろからやってきて、レイに街までのお使いを頼みました。選択肢1、喜んで請け負う。2、いやいや請け負う。3断る。そうやって選択肢を選んでいって、物語ができていくの。それで恋愛に特化したものを恋愛シミュレーションゲームっていうのよ」


 ふたりはふむと頷く。


「いろんなゲームがあった。育成シミュレーションだったり、恋愛だったり。その乙女ゲーはね、孤児院育ちの明るく前向きで優しい女の子が主人公、つまりヒロインで。聖女の力に目覚め、魅力を振りまきながら王立の学園に入って、見目麗しい能力の高い攻略対象者なる男の子たちと会話をし、一緒に出来事を対処したりして、親密度をあげていき、恋も世界の危機も救ってしまう内容だったの」


「お前がその主人公なのか?」


「いいえ、わたしはたった一度だけ登場して、その時に死んでしまう役柄なの」


 ふたりが固まる。


「なぜわたしがこの世界がゲームの世界というのかとか、似ているのか全く違うものとか、本当のところはわからないし、どうしてなのかはわからないからそこは聞かないでね。

 とにかく、わたしが知っているゲームに出てきた、一度だけ出てきて死んでしまう子の名前と一緒だったの」


「……お前、死ぬっていつだよ?」


「なんで死んじゃうの?」


「17歳で、わたしは学園でヒロインと同級生なんだけど。

 ヒロインは聖女の力に目覚めたばかりで自分の力を信じられないの。

 彼女は伯爵家の養女になるんだけど、孤児院出身ってことがわかって、そんな子が聖女なんて信じられないといじめられたり、酷い中傷を受けるの。

 そのひとつね、髪の色が同じわたしが間違って刺されるの」


 ふたりはごくんと仲良く喉を鳴らす。


「それはうんと先のことだからいいんだけど。わたしはこれから起こることを知っているわ。ヒロイン周りのことだけだけどね。

 ポッサムの巣のこともそれで知っていたの。

 ひとつだけ、今わたしが6歳だから、できることがある。それがハッシュ領にいくことなの」


 わたしはとにかく説明した。話し方も何もかもめちゃくちゃだったけど、ふたりがわからないことを尋ねてくれたりしたので、なんとなく伝わったのかなとは思う。

 と思ったけど……。


「ちょっと今頭の中ぐちゃぐちゃで、信じるとは言えないけど、とても複雑な話を抱えていて、君が真剣なことはわかった」


 とジークは言う。


「俺も全部飲み込めたわけじゃねーけど。でも、お前が知ってることがこれから起れば、お前は嘘は言ってないことになるな」


 と、レイは言った。

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