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第13話 借金

 お肉屋さんのご主人に呼ばれた。買い取ってもらうお肉の査定が終わったので、その話はそこまでになった。かなり高額になったので、モクたちはご機嫌だ。

 わたしはジークとレイを盗み見た。

 どうしよう。ふたりに聞かなくてもハッシュ領を知る方法はあるだろう。

 でも何かいわくがあるなら、それも知りたいし……。

 でも荒唐無稽な話を信じてもらえるものだろうか?

 嘘ついてるとか、話したくなくて話を作ってると思われるのは悲しい。


 目の前でドンと音がして。

 モクが座り込んでいた。

 あ。ゴロツキのひとりに突き飛ばされたようだ。


「孤児院のガキが金持ってるなんておかしーだろ?」


 町の大人は心配そうにこちらを見るけれど、視線を送れば目を逸らす。

 町で幅をきかせているゴロツキみたいだね。


「おかしくありません。獣を狩ってそのお肉を売って得たお金です」


 わたしは通る声を意識して、大きな声で言った。


「ありゃ、初めて見る顔だな。小さいけど可愛い顔してんじゃねーか。髪の色も珍しーな。高く売れそうだ」


 売れそう? 髪を? わたしを?


「お前たち、何をしている?」


「バンリック様! いえ、この孤児院のガキたちが小金を稼いでるもんですから」


 新たに合流したのは、成人したての貴族のボンボンに見える。

 茶色の髪に、茶色い瞳。鼻は団子鼻。鼻以外特徴があるわけではないけれど、なんとなく嫌な目つきな気がした。

 バンリックってことは領主のご子息ってところだろう。

 その仲間、もしくはシモベのゴロツキ。だから大きな顔をしているんだ。


「ホーリーのところの孤児院のガキか。孤児院があるのも今のうちだけだ。かわいそうなことをしてやるな」


 そう言ってから歩いて行って、ゴロツキたちはその後にもみてをしながら追いかけていった。

 孤児院があるのも今のうち? どういうこと?

 モクをみんなで立ち上がらせて、怪我はないかを聞く。

 大丈夫でほっとした。怪我は怖いのだ。

 その後、わたしたちはダンジョン屋に走った。


「なんでぇ、お前たちか」


「ガウダスさん、領主の息子っぽい人が孤児院があるのは今のうちって言ってたの。何か知らない?」


 尋ねるとガウダスさんの眉根が寄った。


「言ってたのはどんなやつだった?」


「成人したてぐらいの男」


「背はそんな高くない」


 ジークとレイが言う。


「団子鼻」


「3男のメリケン様だな」


 特徴を告げれば、すぐにわかったみたいだ。


「ホーリーお嬢様と婚姻を望まれていてな」


 ええーーー、団子鼻が院長先生と?


「先生はオッケーしたの?」


「オッケー?」


「先生は婚姻に納得されてるの?」


「いいや。ご両親が断ったんだよ。それが亡くなってから、借金の証書が出てきたとかで。それが払えないなら、婚姻しろって言ってるんだ」


 ガウダスさんは、大きなため息をついた。


「お嬢さまは期限を決めてその間にその借金を返すって言ったんだ。それで孤児院を経営されているわけだが、隣の孤児院も潰れて子供たちを引き取って、黒字どころか金は出ていくばかりだろう」


 なんてこと。そんな状況なのに……居場所のない子供たちのために……。

 そしてその期限というのが今年の終わりだという。


「メリケン様はあの孤児院の土地を狙ってるんじゃないかと思うんだ。あそこはサンパウロとの両境。あそこで何か商売をしたいんじゃないかと、俺は思っている」


 そういうことか……。先生と結婚したら、すぐに孤児院を潰すだろう。

 そして土地が売りに出たら買うつもりだ。


「額が額だからなー。メリケン様も期限つきのそんな話が出たときに、絶対返せないだろうと思ったから待っていたんだと思う」


 わたしたちはお礼を言って、ダンジョン屋を出た。暗い気持ちで孤児院に向かった。


「みんな、このことは他の子たちには内緒にしよう」


 ジークが言った。みんな下を向く。

 それどころじゃないって感じだ。


「せっかく、獣を取れて。みんなもご飯が食べられるようになって、これからだって思ったのに!」


 モクが悔しそうに言った。


「期限は今年中って言ってたよね?」


「そうだけど……、どうして?」


「今年中にその借金が返せればいい」


「どうやって? ガウダスさんだって額が額だから何もできねぇって言ってたんだよ?」


「わたしに考えがあるんだ。みんな協力してくれない?」


 レイに腕を取られる。


「お前、無茶する気だろう?」


「そ、そんなんじゃないけど。先生に恩を返したいもの。みんなだって孤児院がなくなったら困るでしょ?」


 それはそうだけどと、言葉が繋げないでいる。


「まずは額が知りたい。先生の部屋に証書とか何かがあるはず。

 探す間、先生を引き止めておいて欲しいの」


 わたしは頼んだ。

 みんな顔を合わせてそれぐらいならと引き受けてくれた。


 帰ってからすぐに実行した。緊張して先生の部屋へと入ったが、引き止めてもらうまでもなく知ることができた。

 机の上にあった分厚い本。他は片付けられているのにそれだけ本といつも置かれていて不自然。中に挟まれていたのは証書で、5000万Gと記載があった。金貨1枚で10万Gだから金貨500枚だ。


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