その音で驚いた3人がこちらにやってきた。
「どうしたの、メイ? 大丈夫?」
「あ、魚」
イックスが声をあげた。
3人は一瞬にして状況を理解したようだ。
イックスも捕まえられなかったけど、モクは片手をさっと動かしたと思ったら、魚を獲っていた。みんなで拍手する。
モクは籠に獲った魚を入れた。
「魚もな、素手で持つと手を切ったりするんだ。捕まえるのは8歳以上にした方がいいかもな」
と言った。
慌てて怪我をしたのか尋ねると、怪我をしないように持ったから大丈夫とのことだ。
でもこの仕掛けはいいと褒められた。へへ。
くしゃみをしたら、ジークが魔法の風で乾かしてくれた。
と話をしているうちにまた1匹プールに迷い込んできた。わたしたちはみんなで目を合わせた。
結局、野ネズミ7匹と、魚5匹の収穫となった!
森を歩いているときに、実がなっているものはいくつか収穫してきた。食べていいものかどうか、先生に聞いてみよう。
帰りつけば、野ネズミもだけど、魚に大興奮だ。実も、食べても害もないものだそうなので、それを料理しようということになった。
今日の野ネズミも塩漬けにし、魚も2匹は今日のスープに使い、3匹は開きにして干した。
夕食作りまでは、自由時間だ。
「あ、メイ。魔法の練習してみる?」
ジークが言ってくれて、わたしはお願いすることにした。
裏庭に行く。
「魔を通した時のこと覚えてる?」
わたしは首を横に振った。前世を思い出す前のことは、記憶がはっきりしていない。
「そっか、じゃあ、魔力を感じてみるところからだな」
ジークに手をとらえる。両手をジークに繋ぐ。
「今から魔力を流すよ」
ジークの手から温かい何かが流れ込んでくる。
「何か、感じた?」
「あったかい」
「ふふ。それが魔力だよ。メイの中にもある」
わたしの中にも?
「それを体中に行き渡らせるような感じで」
またジークの手からあったかいものが流れてきて、どんどん大きくなってわたしの中を巡った。
あ、これわたしのだ。
わたしの魔力?
そっとジークの手が離れる。
「メイの属性はわからないけど。
僕は風が使える。さっきみたいに風で何かを乾かしたり。
風を吹かせる」
ひゅっと風がきて、わたしの薄いピンクの髪と遊んでいく。
「まず、風を出してみたらどうかな」
わたしは決意を込めて頷く。
わたしの中に巡る魔力を意識して。風よ吹け。
……何も起こらなかった。
「後はそうだな、火を出す。魔道コンロの火、あれを思い浮かべて」
火よ!
ダメだ。
「じゃあ、水は? 水を出すんだ」
水? わたしは指を出してその先に集中する。水よ。
あ、うそ!
水の小さな玉が生まれた。
「属性は水みたいだね。おめでとう、メイ」
「ありがとう」
1センチの水の玉じゃ何もできないけれど、わたしは魔法を使えるようになった。
すっごいことじゃない?
それから部屋に戻って、お昼寝をした。
毎日、森と川原と往復すれば、体力もついてくるだろう。
夕食を作るのに起き出せば、芋と葉物野菜がテーブルの上にあった。どうしたのだと尋ねれば、ミケアお姉ちゃんが今日は当番じゃないのにわざわざ来てくれて、昨日のノシシのお肉のお礼だと持ってきてくれたそうだ。
わたしたちは感動した。
ノシシのお肉だって、捌き方を教えてもらった、お礼にもならないお礼だったのに。
町の人と仲良くなるのはいいことかもしれない。ミケアお姉ちゃんに何かわたしたちで手伝えることがないか聞いてもらってもいいかもしれない。気分が上向きになってくる。
夜ご飯は豪華にできそうだ。お鍋にしよう。お魚と芋と野菜の入ったお鍋に、お肉を入れた炊き込みご飯。お鍋は残ったら、明日の朝はそれでスープができる。
なんて思った時もあったけれど、お鍋はすっからかんになりました。
みんな幸せそうな顔をしている。
ハーブがわさわさ生えているので、それでお茶にした。
みんなスーッとして不思議な味と言っているけれど、ご飯の後のお茶タイムを楽しみにするようになった。
次の日は、罠が大量だった。ノシシがそれぞれに一頭ずつ。野ネズミが5匹ずつかかっていたのだ。さらに魚も7匹。
モクが先頭に立ち、男の子たちで捌いてくれた。
みんなでノシシ1匹分は町に売りにいくことに決めた。野ネズミ5匹と魚5匹分もだ。
ミケアお姉ちゃんに、わたしたちでできるようなことがあったら声をかけてとお願いしてみたら、森での簡単な採集なんかを頼まれるようになった。
罠を仕掛けに、そしてそれを取りに必ず森に行くので、ついでにできるし、いいことづくめだ。
いずれ冬が来る。冬がきたら獣もかかりにくくなる。だから今のうちに冬の間越せるように食べ物を蓄えたり、お金を持っておく必要がある。
ノシシの肉を売りに町にきたときに、わたしはジークに尋ねた。地図を見られるところはないかと。ジークは冒険者ギルドにあるはずだけど、子供は入りにくいねと教えてくれた。
「地図を見たいの?」
「ジークはハッシュ領を知ってる?」
ジークとレイが鋭くわたしを見る。
「……お前なんでハッシュ領を気にするんだよ?」
レイが眉を潜めて言う。
「わたしの……未来にかかわることだから、知っておきたいの」
「……僕、知ってるよ」
「本当?」
「でもどうメイの未来にかかわることなのか、教えて欲しい。そうじゃないと教えたくない……」
そんなぁ。ハッシュ領のことを話すということは、前世の乙女ゲーのことも話すことになる。あまりに荒唐無稽な話を、信じてもらえる?
なぜかわからないけど、ハッシュ領のことは教えたくない場所らしい。
この顔からして、レイも知ってたんだな、きっと。
領主が秘密ギルドの長ってことは知られてないはずだけど……。
わたしはレイとジークをただ見上げた。