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第10話 協力

「野ネズミを取ろう」


 夕方前、孤児院に帰ってきたわたしは、みんなに提案した。

 野ネズミは繁殖力が高いし、脂肪を蓄えるボディだからだろう、いっぱいいるにもかかわらず、平均して高値で買い取ってもらえる。

 お酒で揉んでから、カラカラに乾かして携帯食として売れるので、需要がある。

 自分たちで食べるとしても、下処理さえちゃんとすれば、臭みも取れるはずだ。


 川原のカーブのところに取り残されていた籠のようなもの、それから紐を使って仕掛けを作った。カバンを探しにきたときに、いろいろ使えそうだと思っていたのだ。餌を奥に置いておいて、中に入ったら入り口が落ちて、出られなくなるタイプのものだ。

 それからもう少し大きな獣も想定して、こちらは落とし穴を拵えた。

 足跡があったんだよね。少し大きめの。ふんを探して、通り道を特定し、そのあたりに罠を仕掛けた。

 明日の朝が楽しみだ。

 川原で魚も取ろうとしたけれど、道具がないとそれは難しかった。


「でもさ、罠にかかったとして、どうするの?」


 それなんだよね。わたしは捌くことができない。

 マーサにもう少し大きな刃物を落とさないで持てるようになるまでと、教えてもらえなかったのだ。


「明日だったら、ミケアお姉ちゃんが来る日でしょ? 捌き方教えてもらえるかも」


 ナンがいいことを言った。町の娘さんなら、捌いたりできるかも。

 わたしたちはそれに望みをかけることにした。


 夜は雑炊。野草をいれこんで、ご飯と炊く。

 雑炊は思ったより好評だ。お腹があったかくなるし、水分でお腹も膨れる。



 買い出しでは院長先生が一緒だったからだろう。ずいぶんおまけしてくれたようだ。

 古古米も1日1回とし、野草などでかさ増しを心がければ、1週間分はありそう。


 金貨を半分ぐらい使って、食材、それから野菜の苗などを買った。

 これでどれだけ暮らしていけるかを確認したい。

 罠で野ねずみがとれたらな。お肉を買わなくてもタンパク質が取れる。

 森も近くにあるみたいだから、大地の恵みがいただける可能性がある。


 内職は刺繍がスタンダードだそう。これはレベルによって収入が変わってくるので、考えどころだ。下手すると、材料費の方が高くついて、マイナスになってしまう。だから、それは保留。




 次の日、朝早い時間に起こされた。どうにも目が開かないでいると、夜着のまま身体の大きい子に背負われて、外に連れ出される。

 野ねずみ用の罠が2つ。もう少し大きなケモノ用の罠が一つ。

 驚くべきことに、全ての罠にかかっていた。

 野ねずみは、2匹と3匹。それからノシシの小さいのだ。

 捌くより前に、仕留める問題があったけど、男の子の中に捌き方は知らないけれど、仕留めるのは見たことがある子がいて、ためらいなくスパッとやってくれたので助かった。

 生きていくためにきれいごとを言うつもりはないけれど、仕留めたり、捌くのは、前世の記憶があると大変馴染めないものであるのは間違いなかった。


 それより、森で見つけた野苺に興奮してしまった。熟していていい色だ。みんな何かしら持っていたので、手が空いていたのはわたしだけ。でも入れるようなものがなかったので、スカートの裾を持って、そこに野苺を集めた。

 小麦粉を溶いて薄く焼いて、野苺のジャムをかけたらどうだろう? 甘味だ! ぜひ食べたい。


 孤児院に戻ると、朝から抜け出したことを怒られた。せめて朝ごはんをいただいてからにしなさいと。

 わたしたちは心配をかけたことを謝った。


 1日の始まりは、まず掃除から。

 起きたらベッドを整え、自分たちの部屋の掃除をする。

 それから共有スペースや手洗いの掃除だ。

 教会跡なので、礼拝堂の掃除が一番めんどい。

 でも、女神様の像があって、それを見ていると心が落ち着いてくる気がする。

 掃除が終わったら、朝ご飯の用意だ。


 野苺はよく洗ってから、くつくつと煮た。甘い匂いが充満する。

 先生に生地を焼いてもらって、ジャムをかけていく。

 これが今日の朝食だ。

 朝ごはんは茹でた芋を半分とか、パンの欠片だったときもあったらしいから、今日の御馳走はみんな大喜びした。


 朝ごはんが終われば、その片付けや畑づくりや洗濯をして、ミケアお姉ちゃんがくるのを待った。

 お姉ちゃんが来てわたしたちが獣の捌けるかを尋ねると、彼女は自分は捌けないと言った。でもお兄ちゃんなら捌けるから呼んでくると行って、走って戻っていき、本当にお兄さんを連れてきてくれた。


 お兄さんは最初は仏頂面をしていたけれど、わたしたちが真剣に頼むと、丁寧にやりながら教えてくれた。

 主に男の子たちが覚えようとしてくれた。実はみんなまだ小さいし、失礼だけど興味本位だと思っていたので、その集中力に驚かされた。本気で彼らは学んでいた。

 それに引き換え、情けないことに、わたしは皮を剥ぐところでアウトだった。


 教えてもらったお礼に、ノシシの肉を少しお裾分けして、残りは塩漬けにした。塩をたっぷり買ってもらっといてよかった。

 ミケアお姉ちゃんは、野ねずみを料理したことはないと言ったので、わたしは下処理をしてもらった。昨日摘んだ臭み取りにもなる野草と塩を揉みこむ。今日使うのは2匹分で、あとは塩漬けに。

 料理をしている間に、男の子たちが罠を仕掛けにいってくれた。


 ご飯の支度ができたのに、レイだけ帰ってこない。

 他の子にレイのことを尋ねると、途中から別行動だったという。

 あたりも暗くなり心配していると、やっと帰ってきた。

 レイは心配した先生に素直に謝ってから、わたしに何かを突き出した。


 え?

 これ……。持っている手が震えた。ショルダーストラップが取れそうになっているけど、これ、マーサと一緒に縫った……。

 わたしは深緑色のカバンを胸にかかえた。湿っているところがあって、嫌な匂いもしていたけど、胸にいだいた。

 マーサ……。


「レイ、ありがとう」


「お、おう」


 レイはすぐにそっぽを向いた。


 お母様の指輪も戻ってきて、このカバンも手にすることができた。

 大切だとして探してきてくれた人がいて、よかったねと頭を撫でてくれる人がいる。わたし、ここでやっていけそうだと、前世を思い出してから初めてそう思えた。


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