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第8話 居場所

 わたしはポッサムの話は後でするから、今はご飯を作ろうと持ちかけた。


「メイは6歳よね? 食事の用意もできるの?」


 ナンに驚かれた。


「ちびっちゃいからできないことも多いけど、手伝ってもらえれば食事を作れます」


 もう一度だけ、院長先生から、わたしの持っていたお金で食材を買ったのではないのね?と確かめられた。

 わたしは何度も頷いた。



 まず古古米をお鍋にあける。全部炊いても全員だとお腹いっぱいまではならないね。芋と野草で量を増やそう。

 それから芋は少し手を加えて、マッシュして、カサカサパンを削ってパン粉にして焼き揚げしよう。コロッケもどきだ。


「それは何なの? 堅そうだけど」


「古古米です」


「ここまい?」


「古いお米です」


「古いおこめ?」


 え? お米知らないの?

 そういえば、実家でも米は出なかったことを思い出す。パンの方が一般的だもんね。

 わたしは食べられるから大丈夫だと請け負う。洗って浸水だ。


 大きいお鍋で野菜をゆでる。葉野菜はゆでてコロッケのつけあわせにするからくたっとしたら取り出してもらう。芋も一緒に茹でて柔らかくなったらとりだし、これはジークにマッシュにしてもらう。ナンには残りの野菜と茹で汁をそのままスープにしてもらった。


 そろそろ水を含んだかな? お米の鍋にかさましの芋と野草を一緒に入れる。

 お米を炊いていく。古古米でも、お酒があればふっくら炊けるんだけどな。炊き込みご飯にするから、そんな気にならないか。


 マッシュした芋に塩をして、院長先生にまるめてもらった。レイに固いパンをさらにボロボロにしてもらってパン粉にする。卵はないから、まるめてつぶした芋にパン粉の衣をつける。そして揚げ焼きしていく。


「うわー、すっごくおいしそー!」


 ナンが声をあげた。


「メイ、コメ噴いてるけど、これいいの?」


 ジークがお鍋を指差す。


「うん、大丈夫。カニ穴ができたら教えてくれる?」


「カニ穴って何?」


「うんとね、今グツグツいって泡が出ているのが、すーっておさまって、ところどころ窪みができるっていうか穴が開くから、そしたら教えて」


「わかった」


「メイ、焦げてきちゃったけど」


 今度は院長先生に確かめられる。コロッケがこんがり狐色。


「もうちょっと色がついても大丈夫です。あまりいじらないほうが形が崩れません」


「メイ、これかな? これがカニ穴?」


「そうそう。蓋はどこ置いたっけ?」


「蓋するのか?」


 頷くとレイが、お鍋にふたをしてくれた。


「メイ、野菜が溶けたみたいに、ちっちゃくなっちゃったよ」


「うん、スープだから問題ないよ。最後にネギをちらそう」


 刻んでおいてとミニネギを渡す。

 レイに盛り付けていってもらう。湯で野菜にコロッケ。野菜のうまみたっぷりのスープ。それから……ご飯のいい匂いがしてきた。一瞬だけ火力を強くしてもらって、ゆっくり10を数え、火を消す。あとは蒸らせばできあがりだ。


 子供たちが炊事場のドアのところですずなりになっていた。

 匂いにつられてやってきたみたいだ。

 待ちきれないみんなにテーブルを拭いてもらったり、配膳するための準備をしてもらう。

 自分のお水や、それぞれのお皿を運んでいってもらった。

 よし、10分ぐらいたったね。

 熱いし重たい蓋だから、院長先生にとってもらう。

 白い蒸気が立ちのぼった。

 芋と草をいれたから真っ白じゃないけど、おいしそうだ。最後にすこし塩を足して、こちらも配膳していく。

 炊き立ての芋ご飯。コトコト煮続けて野菜が溶けてしまった旨味たっぷりのスープ。茹でた葉野菜の横には、黄金色したコロッケ。香ばしい匂いもたまらない。

 みんな目を輝かせて、食前のお祈りの言葉を待つ。


 声をあわせてから一斉にスプーンを持った。

 芋ご飯をこわごわスプーンで掬い、口に運ぶ。

 もぐもぐと咀嚼すると、誰もが言葉を発せず夢中になってご飯を食べた。スープ、コロッケ。量は一人前に届いてないけれど、どの顔も満足気だ。


「今日の食材はメイとレイが用意してくれて、メニューをメイが。加えてナンとジークが手伝ってくれたご馳走でした。みんなにも感謝をしましょう」


 院長先生がおっしゃると、みんなから、おいしかった、ありがとうと笑顔と言葉をもらった。

 今日の当番が後片付けをしてくれるとのことなので、今日の詳細を院長先生に報告することになった。



 レイと並んで院長先生の前に座る。


「先生、お願いがあります」


 先生は首を傾げた。


「わたし、旅する用意ができたら出て行くので、それまでここに居させてください。役に立つよう頑張るから!」


 先生は目をぱちくりさせた。

そしてテーブルの上の、わたしの手を包み込む。


「メイ、役に立とうなんて考えなくていいのよ。14歳までの子供をここは受け入れているの。旅支度ができたらなんていわずに、好きなだけいていいのよ?」


「でも、わたし……」


「この施設はね、孤児になってしまっただけでなく、居場所のない子供たちのために門戸が開かれているの。だからあなたが居場所をみつけるまで、ここにいていいのよ」


 その時、先生はわたしが孤児ではないと、嘘に気づいていたんだと思った。それでもなお、居場所がないのをわかってくれたんだと。


 わたしはその先生の言葉に救われた。


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