オッサムのいた川原まで戻った時、わたしは朦朧としていた。
足が痛むんだけど、それよりすっごく眠い。本当に眠い。
歩いたまま眠れそうな勢いだ。
なんかわーっと叫んで、手足をバタバタしたくなる、わけのわからない衝動を必死で押し留める。
少し先を歩いていたレイが振り返って、ビクッとした。
「……お前、眠いのか?」
「……眠く、ない」
嘘だ。
わたしはなぜか嘘をついていた。
すっごく眠い。体が熱くなっていて、わたしを作っている細胞全部が〝眠い〟と主張している。
レイがわたしの前まで戻ってきて、わたしの持ってた古古米を取り上げた。
そして背中を向けて少しかがむ。
「なに?」
「完全に眠られたら、おんぶできない。ほら、今乗れ」
「……いっぱい、荷物。レイ、もう重い」
「お前が地面で横になっちまったら、それこそ動きようがなくなるだろ」
ためらっていると、レイが後ろに下がってきて……。わたしはレイの背中にぶら下がった。
レイがちょっと屈んで、わたしの位置をすわりのいいところへと正して歩き出す。
お尻を支えてくれている手には荷物があって。
すっごく迷惑かけてる……。と思いながら、わたしはレイの背中で眠ってしまった。
パチっと目が開く。
わたしにあてがわれている孤児院のベッドの上だった。窓からオレンジ色の光が入ってきてる。夕方だ。完全に眠ってしまった!
あ、腰に巻きつけた紐や戦利品はなくなっている。
ベッドに上半身を起こし、床に足をつける。足のあちこちが赤くなっていた。靴下がないままあの距離を歩いたから、靴ずれができたみたいだ。
靴に足を入れると、赤くなっているところが擦れるのだろう、痛みが強い。
そうっと歩いて部屋を出た。
いつも子供たちが集まっている広間へ行ってみる。
レイを知らないかと聞いてみると、院長先生と炊事場に行ったという。
わたしはお礼を言ってから、そろりそろりと炊事場へ向かう。
「あら、メイ、目が覚めたのね」
開いていたドアから覗き込むと、わたしに気づいたのは院長先生だった。
「はい。……レイ、ごめんね、ありがとね」
炊事場にいたのは院長先生とジークとレイと年長の女の子のナンがいた。
わたしはすぐにレイに謝る。
「メイ、足、どうかした?」
ナンに尋ねられる。
「あ、ちょっと靴ずれして」
と言った瞬間に、ジークに椅子に座らされて、靴を脱がされた。
何箇所も赤く擦れている、みっともない足が晒される。
レイが炊事場を出ていってしまう。
怒ってる?
ナンも部屋を出て行き、すぐに戻ってきた。手にしているのは包帯?
レイも戻ってきた。手には草を持っていた。
レイはその葉をちぎってもみ込む。そしてわたしの足の傷に塗り込んだ。
そこにナンが包帯を巻いてくれた。手慣れている。
その様子をニコニコしながら、院長先生が見ている。
「薬は高いから、怪我は本当に怖いんだ。怪我をしたらすぐに言うんだよ?」
ジークが優しく言う。
「あの、ありがとう」
手当てをしてくれた3人に、心からお礼を言う。
「メイは街まで歩いたんですって? ただ街はメイには遠いわ。これから行きたい時は、先生に言ってね」
わたしは、はいと返事をした。
「お前の荷物、そこ置いといたぞ」
テーブルの上には買ってきたもの、それからわたしが途中で積んだ雑草なんかも全部置いてあった。
「レイ、本当にごめんね」
ともう一度謝れば、そっぽを剥かれる。
その様子を見て、ジークがクスッと笑った。
「大丈夫だよ、メイ。君が眠ってすぐに、俺たちと合流したから」
わたしたちが川からなかなか帰ってこないので、何人もで川原まで迎えにきてくれたらしい。そこでわたしと荷物を背負ったレイを見て、荷物を持ってくれたようだ。
わたしを運んでれたことには変わりないのでレイには頭が上がらないが、荷物全部ではないってところ、少しほっとした。
「ところで、変わったことをやったって聞いたけど、レイはあんまり話さないのよ。ねーなにがあったのか、これなんなのか、教えて!」
ナンがわたしに向かって手を組む。お祈りポーズだ。
あれ、レイ言わなかったんだ。
わたしはこの食材で、今日の夕食にしたいと言うと、3人はとても驚いた顔をした。
わたしの持っていた何かだと思ったみたいだ。
そっか。カバンがみつかって、わたしの持ち物から食材を買ってきたって思ったのかもね。
「これはオッサムの巣を見つけて、そのお宝の硬貨で買ってきました」
「オッサム?」
レイ以外が首を傾げた。
貴族令嬢である院長先生が知らないのは当たり前でも、孤児院の子たちが小金を稼げる方法を知らなかったのは不思議だ。
ヒロインがやってることだから、どこの孤児院の子供たちも知っていることなのかと思ってた。
でも知らないのだとすると……今までやっていなかったということで。
わたしが教えてあげれば、生活は向上したりする?