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第6話 ダンジョン屋

「お前、そんな寄り道ばかりしていたら、街につかないぞ?」

「わかってる。でも食べられる物がいっぱいあるんだもの」

 レイはわたしを見て、顔を背けた。

 なんか笑うのを我慢しているような顔。

 わたしがじっと見ると、無表情を装い、

「お前、院長先生に紐を貸してくれって、最初からそうするつもりだったのか?」

 と聞いてきた。

「うん、そうだよ。カバンが見つかるかはわからないから。何かを運ぶときに便利でしょ?」

 孤児院の服を借りているんだけど、褪せた空色のダボダボのワンピースだ。これに院長先生に借りてきた紐をウエストのベルトにした。摘んだ食べられる草などをその紐に通している。その姿がレイには面白かったみたいだ。腰蓑風になってるもんね。

 ポッサムのお宝はこちらも借りてきて大きめの布切れに包んでこちらも腰蓑にぶら下げている。

「あー、でもこれ以上摘むと、何か買ったら持てなくなっちゃうか」

 残念に思って言うと、

「買ったやつは俺が持ってやる」

 と言ってくれた。

「本当? ありがとう」

「でもよー、金貨なんか持ってたら盗んだって言われるんじゃないか? 孤児院の子供ってすぐわかるし」

 わたしは孤児院の服を着てきたことを後悔した。

 でもここまできたのに、引き返すのは、せっかく歩いた分がもったいない!

「あ、今から行く街にダンジョン屋ってある?」

「ダンジョン屋? あ、ああ、冒険者が出入りする店だな? お前が入ったら余計に目立つだろ、子供は入れないんだから」

「あれ、7歳から入れるよね?」

「お、俺?」

 うん、とわたしは頷く。

「俺、冒険者ギルドに登録してないぞ。ダンジョンはランクで入れるダンジョンも決まってくるから、8歳の俺なんかがダンジョンには入れねーぞ?」

「金貨は院長先生と一緒に来ないと無理か。でも銅貨はけっこうあったよね? あれで一枚布とそれから芋とお肉買えたらいいな」

「一枚布はなんだよ、服でも作るのか?」

「違うよ。荷物持つのに、袋が必要でしょ?」

「縫うのか?」

「うーうん、折るの」

「おる?」

 レイは首を傾げた。

 ダンジョン屋はハズレドロップ品を売り買いできるところで、時々掘り出し物がある。ヒロインもよく古古米や市場で売れなくなった野菜とかをまとめたクズ野菜家畜用のを買っていた。

 わたしがそう告げると、不思議そうな顔をしていた。


 市場についてわたしたちは布屋を探した。周りを見て、品や値段も見ておく。

 安い布の中で丈夫なものをチョイスした。銅貨3枚だ。端切れの中で一番サイズもあったしね。よし、これで風呂敷ゲットだ。

 次は本当にダンジョン屋に行くのか?ってレイは不振顔だ。


 じろっと見られた。

「孤児院のガキか? 金あんだろうな?」

 髭面の男は怖い顔で、怖い声を出した。

「お金のある分だけ、買い物をしたいの」

 男は、顎髭を触った。

「で、何が欲しいんだ?」

「できたら古古米と芋とクズ野菜」

「古古米は銅貨7枚。芋は銅貨5枚。クズ野菜はそっちの箱から選ぶ。左の箱から、2枚、3枚、4枚だ」

「芋は3枚じゃないの?」

「今日の芋は、品種がいいもの……品種っつってもわかんねーか。芋にもいろいろあってだなー」

「わかる、大丈夫。銅貨16枚あるの。でもクズ野菜は4枚のを欲しいから、古古米を6枚分にしてくれない?」

 おじさんがジロっとレイを見ると、レイは見返している。

「いいだろう。けど、古古米6枚分に芋とクズ野菜だと結構な重さになるぞ、二人で持てるか? どうやって持つんだ?」

 古古米は麻袋に入れてとば口を紐で結んでくれるようだ。

 机の上を借りて、買ったばかりの布を広げ、芋とクズ野菜を真ん中においた。そして対角線上の端っこを結んで簡易袋にする。

 レイが古古米と、簡易袋をもってみて、わたしに古古米を渡した。

 重たいけど、なんとか運べそうだ。簡易袋はもっと重量がありそう。

 買い出しは何人かで来ないとダメだね。

「言っとくが、お前さんたち運がいいよ。古古米も芋も、両方あることなんて稀だぜ」

 わたしとレイは顔を見合わせた。

 けど、そういえばヒロインもそう言ってたと思い出す。

 苦労して机の上に銅貨を16枚置いていく。

「お前たちゼムリップ孤児院の子だろ?」

「そうよ」

「ホーリーお嬢様は息災か?」

「院長先生は元気だよ」

 レイが答える。

「院長先生を知ってるの?」

「ああ、お嬢様の亡くなったご両親によくしていただいてな。お嬢様が苦労されているって聞いて心配だったんだが、お前たちが元気で、読み書きや計算もできるってことは、しっかり経営されてんだなー。これをお嬢様……ってもう持てないか」

「今度、院長先生も連れてくるから、古古米あったら取っといてよ」

「ん? そうか? お嬢様が来るなら仕方ねー、古古米は取っといてやるよ」

「やったー、ありがとう!」

 わたしたちはお礼を言ってダンジョン屋を後にした。怖い顔のおじさんだったけど、恩を忘れないいい人みたいだ。常連になろう!

「きっとわたしたちが院長先生のところの孤児院の子だってわかったから、売ってくれたんだね」

 ヒロインだって何回もチャレンジしてやっと店主の心を開いて、買い物ができたんだもの。ダンジョン屋は掘り出し物があるところが魅力だ。



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