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第82話 地球でのゲートの設置

 籠にたっぷりと詰まった薬草は、一度ステラの錬金術用の部屋に運んだ。

 いつもはエアとクローシェの二人に運ぶのを任せているが、今回は籠は多くたっぷりと採集したため、渡も荷運びを行う。


「よし、ここで良いかな」

「はいぃ、ありがとうございます」

「良いポーションが出来ると良いんだけどなあ。龍脈の地とかっていう場所なんだから、効果はあるって信じたいけど」


 タメコミ草の利用では、あくまでも異世界の魔力・・・・・・を利用しての栽培だった。

 今回は言ってしまえば、地球の魔力を利用した栽培だけに、万が一でも勝手が違う可能性がまだ残っている。


 お地蔵さんのゲートが使えている以上、特に差異はないと思うが、こればかりは実際に作ってみないと分からないことだった。


 採取した薬草はそのまま使用するのではなく、一度陰干しにして乾燥させた後、薬研で粉末化し、蒸留し、と複雑な過程を踏んでいく必要があるそうだ。


 そして、ゲートの設置場所も、可能な限り山小屋の近くにすることに決めた。

 少しでも移動時間を減らすことが目的なのだから、可能な限り近くの方が良いだろうとの考えだ。


 只野はもしかすると、何らかの違和感を覚える可能性も大きかったが、だからといってワープしてきたとも思うまい。


 今後はゲートの周りを壁で囲って、地面は土のままにしておくのも考えられた。


 ポータルに設置する設備は、ハノーヴァーの場合はゼイトラム神から直接下賜されたが、今回は渡の手作りだ。

 神の教えた、あるいは伝えたとされる物を精巧に真似たとはいえ、はたして同じく効果を得られるのかは、これもやってみないと分からない。


 それに、ラスティがやって見せてくれた請願の言葉も、完璧に諳んじることができるかというと、かなり怪しい。

 一応は必死に聞き直し、覚えたのだが、完璧にスラスラと言えるだろうか、という不安は尽きなかった。


 只野にはいつものように薬草園の拡張と、野放図になった森林の伐採と保全を行っていてもらい、渡たちはゲートの設置を始める。


 神字を彫った礎石を、穴を掘った場所に埋めると、丁寧に土を埋めていく。

 周囲にも同様の石を設置して、準備は完了する。


 このあたりはハノーヴァーでやったばかりだから、渡たちの動きも迷いはなかった。


 ゲートの設置で一番恐ろしいのは、起動しないことではない。

 中途半端に起動して、思いも寄らない事態を引き起こすケースが一番怖かった。


「全然見知らぬ土地に繋がったり、そもそも俺たちが生存できない空間に繋がる可能性だってあるんだよな……」

「神が管理している機構に、そんな失敗があるのでしょうか?」

「分からないぞ。神にとっては人のミスなんか知ったこっちゃない、って感じかもしれない。いい加減なものを作ったやつが悪いってむしろ怒るかも。神罰が下ったり」

「もしそうなら、ゼイトラム様に未来予知まで授けられたご主人様がどうこうなるとは考えにくいですが……」


 マリエルが頑張って事態を好意的に捉えてくれているが、こればかりは問いただすこともできないために、不安は完全には払拭されない。

 ゲートの維持管理がうまく行っておらず、古代都市に立ち往生したときのように、不測の事態が起きる可能性はあった。


 そもそも、渡が異世界と行き来できたのも偶然で、何が何でも渡でなければならない、という保証はないのだ。


 いわば替えの利く存在、というやつだ。


 仏に会えば仏を斬り、鬼に会えば鬼を斬る、といったエアも、さすがに今回ばかりは力になりようがないのか、普段の不敵な表情は鳴りを潜め、顔に緊張が見えていた。


「主、大丈夫だよね?」

「……ああ、がんばる。俺だってエアたちとずっと一緒に楽しく過ごしてたいからな」

「んっ、絶対成功させて」

「……わかった!」


 ゴツン、と頭突きをされた。額が痛い。


「いつつ……急にどうした」

「気合注入……ニシシ、いい顔になった」

「そうか? それなら俺はチューでもしてくれた方が嬉しかったけど」

「エッチ。それは成功したら、ご褒美にしてあげる」


 これがエアなりの愛情表現、不安の表現だと分かって、少し勇気づけられた。


 その隣では、クローシェが尻尾を股に挟んでプルプルしていた。


「だだだ、大丈夫ですわ! 成功間違いなしですの!」

「ビビりすぎだろ」

「びっ!? わ、わたくしは成功を確信しておりますのよ! ビビってなんておりませんわ!」

「ああ、分かった分かった……」

「なんですの、その反応は! 失礼ですわ! わたくしは真剣ですのよ!」

「はいはい。任せとけ」


 キューンキューンと鼻を鳴らしておいてよく言うよ。

 縋るような目で見られていては、ここで引っ込んでいたら男がすたる。


 そして、最後のステラはというと。


「なんだ、ずいぶん落ち着いているな」

「はいぃ。すでに何が起きても覚悟はできております。わたしはあなた様になにかあれば、ご一緒するだけですので。たとえこの身が死に、朽ち果てても、地獄の底までお供いたします」

「覚悟が重ぉぉい!!」

「……冗談です」

「いや、いまのは絶対に本気だった」


 目がね、本気なんですよ。

 絶対に冗談なんかじゃない。

 そういえばステラは最初からガンギマリ勢だった。

 たはは、愛と覚悟が重いって。


 マリエル、エア、クローシェ、ステラ。

 みんなが見守っている中で、渡はその場に膝をつき、手を合わせた。


 そして、精一杯の真心だけを胸に、必死に覚えた言葉を口にする。


「願います、願います。

 此方より彼方まで、マナの糸よ、次元を縫い合わせ、

 時空の波を揺らし、境界線を溶かせ。


 無限の可能性が交差する場所に、

 門を開き、道を拓け。


 混沌と秩序の狭間に、

 新たな世界への入り口を築け。


 我が言葉に力を、我が意志に形を。


 幾重もの現実が重なる刹那に、

 扉よ、今ここに。


 標に従いて、顕現せよ」


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