先に風呂に入った渡は、宿のベッドに腰掛けて落ち着かな気にしていた。
この宿には男女別の共同風呂があったため、汗を流したいと言われ、別々に入ることになったのだ。
断る特別な理由もなかったため、渡は風呂を上がり、特にすることも思い当たらずその時を待っていた。
湯にしっかりと浸かったことで、酒は完全に抜けている。
持ってきたパジャマのズボンはすでにテントが張られていた。
手元には薬屋で買った媚薬がある。
やや暗褐色の瓶の中に、粘性の高い液体がちゃぷちゃぷと揺れる。
とろみのあるそれは、女性の快感を引き出し、苦痛をはるかに和らげ、幸せな気持ちにさせるのだという。
それでいて極めて人体には優しく、後に副作用に苦しむこともない。
場末の娼婦でも使うぐらいには普及されているのだと、薬屋の女性からニヤニヤと笑いながら説明された。
特に女性のはじめてには、痛みや苦しみを取り除くために、ぜひとも使ったほうが良いのだとも付け加えられた。
店員の考えることが手にとるように分かり、渡は買うのを躊躇した。
こんな薬を使わなくてもという気持ちもあれば、使えるものは何でも使えば良いのだという気持ちもある。
彼女たちを抱いて痛い思いをするのは、自分ではなく、マリエルとエアなのだ。
そう考えると、ちっぽけな誇りに固執する意味があるのかどうか。
それに買ったとしても使うかどうかは別問題だと、渡は問題の棚上げをして、媚薬を購入したのだ。
さて、どうしようかとまだ悩んでいる渡だったが、扉が開く音がして顔を上げた。
「おか、えり……」
「いま上がりました」
「いいお風呂だったよ」
お風呂上がりに上気したマリエルの肌はしっとりと潤い、艶めかしい。
エアもさすがに恥ずかしいのか、視線をさまよわせていた。
バスローブ越しに二人の起伏のある肢体が浮き出ている。
お風呂に一緒に入ったときに見た裸体がその下に透けて見えて、渡はごくりと唾を飲み込んだ。
二人ともめったに見られないような美女だ。
今からこの二人を抱くのだ、と思うと渡の体が固くなる。
そんな渡の変化に気づいていないのか、マリエルは手に握っていた瓶に気づいた。
「あ、それ用意してくださったんですね」
「主がコソコソ薬屋で買ってたエッチな薬」
「あ、ああ。飲んでもらったほうが良いのか悩んでさ」
「どうしてです?」
「え?」
なにかとんでもないような勘違いをしている。
そんな可能性に気づいて、まじまじとマリエルの顔を凝視してしまう。
「そのためにご用意してくださってたんですよね? なかったら私達の方からお願いするところですよ」
「そうなの? そういうもの?」
「マリエル、主はまだこっちの事情がわかってないっぽい」
「あ、そうですね」
マリエルにはともかく、エアにやれやれという顔をされると、少しカチンと来てしまうのはなぜだろうか。
彼女の頭が悪いわけではない、むしろ優秀な方だというのに。
それはそうと、渡としては事情とやらをとても聞いておきたい。
世界間における常識の差は思った以上に大きい。
「たぶん、主は薬を飲ませるのがあまり良くないことだと思ってる」
「ああ、そうなんですか?」
「そう、だな。こちらの世界では媚薬というよりも大麻や覚醒剤を使ってセックスをするキメセク、なんて言葉があって、犯罪行為になったりする」
「えええええ。ご主人様、私達に犯罪行為なんてことをしようと?」
マリエルが目を見開いて驚いた。
エアは顔を覆って信じられない、という表情を浮かべる。
渡は急いで勘違いを正さなくてはならなかった。
「違う! 勘違いしないでくれ。この薬はそういった問題はないと聞いたから、飲んでもらったほうが良いのかと思ってさ」
「少なくとも、こちらの世界の媚薬なら問題ありませんし、みんな飲むものよね。ね、エア」
「うん。主」
「な、なんだ?」
「貸して。心配しすぎだから……」
つかつかと近づいてきたエアが、手を差し出して、媚薬の瓶を差し出すように促す。
手の中にあったそれを持つと、エアが蓋を開け、瓶を傾けた。
粘性のある媚薬がとろりと流れてエアの口の中に収まっていく。
こくり、こくりと喉を鳴らしながら、エアが媚薬を飲み下していった。
「んっ、んんっ❤ ほら、大丈夫」
「ご主人様、私にもくださいますか?」
「ああ。分かった」
「んっ、甘くて、どろっとしてますのね。喉に引っかかってしまいます」
唇の端からよだれがたらりと垂れて、マリエルは細い指でそっと拭い取ると、ちゅぱちゅぱと音を立てて指を舐めしゃぶった。
それが自分のアレを舐められているようにイメージしてしまい、目が釘付けになる。
反応は劇的だった。
エアはぶるりと体を震わせると、バスローブにつんと突起が分かるようになった。
もじもじと膝をすり合わせ、目が爛々と輝く。
じゅるりと唇を舐めると、渡を獲物を見るように眺めた。
二人の美女が渡に近寄る。
左右から体を密着され、女体の肉の柔らかさを感じた。
耳元で甘い囁くような、あるいは掠れるような声が鼓膜を震わせる。
「これヤバっ……。体が疼いてくる。あるじぃ、助けて」
「ご主人様、体が……熱いです❤ こんなにすぐに効くなんて、知りませんでした」
「だ、大丈夫なのか?」
「大丈夫じゃありません。早く……鎮めて?」
「ねえ、主っ、早くっ早く❤」
はあはあと荒い呼吸が部屋を満たす。
耳に流し込まれる甘い響きと挑発的な言葉。
蠱惑的な流し目で見下されて、渡の我慢の糸がぶつりと切れた。
夜は長く、三人のすべては星空だけが知っている。