「どういうことだ! 私の『遊び』を邪魔するとは!」
テュールの顔は激情に染まり、その視線は逢魔へと向けられていた。
「いやぁ、どういうことと言われましても…」
八岐大蛇に手伝ってもらって海の上に大きな波の手を出現させた逢魔は、手のひらの上でテュールと対峙していた。
テュールは、レースの勝利がロジーナに渡った原因が逢魔にあると察知していた。逢魔がロジーナに「交換の指輪」の情報を伝えたことで、すべてが狂ったのだ。
「貴様……許さぬ!」
怒りに燃えるテュールは、力を込めて逢魔を睨みつけ、その手に巨大な光の刃を生み出した。完全に逢魔を殺すつもりだった。
「憑依、八岐大蛇」
八岐大蛇の力が逢魔の身体に溢れ出し、魔力の奔流が生み出される。巨大な波の蛇が逢魔を頭に乗せ、周囲には凄まじいエネルギーが放出されている。
テュールは逢魔に襲いかかり、二人の間で激しい戦いが繰り広げられる。超常的な者同士の激突が空を裂き、周囲の空間すらも震わせた。
「貴様、本当に人間か?悪魔と契約しているとはいえ、そんな存在にはなり得ないはずだ」
「それって褒めてる?一応、ありがとうといっておくよ」
テュールの光の刃と逢魔の波の刃が交錯する。
「絶対に貴様だけは許さぬ!レッカーマウルが勝つなどあってはならぬのだ!あれらは永久に私の玩具でなければならぬ!」
異様なまでの執着から、テュールは刃を振るう手を休めることはない。
「あんた一体いくつなのよ、いいかげんおもちゃ遊びは卒業したら?」
その刃を受け流しつつ、逢魔は攻め時を伺う。
しかし、ここは元来テュールの魔力によって作り上げられた舞台であるため、思うように魔力がコントロールできず、攻めあぐねていた。
「ほらほらほらほら、どうした小童!防戦一方ではないか!」
「くっ…」
次第に、テュールが優勢になっていく。
逢魔がまずい、と思ったときには、テュールの刃が波の大蛇の首を捉えていた。
「神を侮辱した罪、死んで償え!」
テュールの刃が逢魔を捉えようとしたとき、鋭い魔力の塊がテュールの刃を弾いた。
「逢魔!『交換の指輪』を天高く放り投げて!」
「ロジーナ!…わかった!」
ロジーナの指示に従い、逢魔はすでに自分の人差し指にはめていた『交換の指輪』を天へと投げ上げた。
「『交換(チェンジ)っ!!!」
その瞬間、ロジーナは「交換の指輪」を巻き付けたスサノオの短刀を頭上に放り投げると、魔力を解放し、「交換の指輪」の能力を発動させた。
「小童がぁ!!!!」
テュールが再び逢魔に襲いかかろうとしたその瞬間、短刀が空中に現れる。
「今だ、逢魔!」ロジーナの声が響く。
逢魔はすかさず短刀をキャッチし、タイミングを完璧に合わせてテュールに向かって突き出した。鋭い一閃がテュールの首を切り裂き、チカラが一瞬で霧散する。
テュールは驚愕の表情を浮かべ、そのまま崩れ落ちていく。
「馬鹿な……この私が……こんな……」
その声は徐々にかき消され、テュールの存在は完全に消滅した。