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第4話

◆  ◆  ◆


「馬鹿な!なぜ本物の堕落神が出てきた!」


近くの施設に設置されたモニターを見ていた藤原は動揺していた。


窓の外は暗い大気に覆われ、雷が轟いている。


少し離れた場所にいる自分たちでさえ、何かに押しつぶされるような威圧感を感じていた。


今回の試験で招来されるのは模擬神である。


間違っても本物の堕落神が出てくることはない。


「わかりません、ですがスサノオレベルの神が出てきてしまうと、我々にはどうしようもできません」


「3年生か、少なくとも2年生を呼ぶように本部に連絡しろ!」


藤原の近くにいた試験管が助けを求めるために部屋を飛び出していく。


「ですが、基本的に『遊び』には途中からは参加できないはずでは…」


「わかっているっ!だが、奴が『遊び』に満足しない可能性だってある!奴が暴れ出せば、何人の生徒が『遊び』に付き合わされるのかわかったものではないぞ!」


クソっ、っと拳を机に叩きつける。


悪魔と契約していない自分たちには、何もできることがない。


己の無力さに、藤原は苛立っていた。


「『遊び』が終わって消えてくれることを祈るしかないっていうのか」


「それって…」


「あの三人はもう助からん」


モニターを凝視しながら、藤原は唇を噛んだ。


◆ ◆ ◆


「なんの『遊び』にするかのぉ」


ふうむ、スサノオは顎に手を当てる。


「決闘をさせて残った奴だけを生き残らせるのは飽きたしなぁ」


「かといって息を止めさせて我慢させるのもイマイチじゃったし」


うろうろと歩きながら試案する。


「そうだ!この間テレビとやらで観たあれにしよう」


思いついた、という顔をしてスサノオは指を鳴らす。


「サイコロトーク!」


何もない空間から、もふもふした六面体が現れる。


スサノオはそれを手に取ると、それぞれの面を確認している。


「何にしよかな♪何にしよかな♪ふふふふんふんふふふふん♪」


恐ろしい容貌をした大男が鼻歌を歌いながらサイコロを抱きかかえている。


あまりに異様な光景だが、誰も口を開くことはできなかった。


「誰にも話したくない話、後悔している話、忘れたい話、いっぱい聞きたい話があるのぉ」


まるで幼い子どもが食事のメニューで迷うような様子でスサノオは悩んでいる。


「よし、全部混ぜて「誰にも話したくない後悔している忘れたい話」にしよう!ワシって天才じゃな!」


うんうん、と納得したように何度も頷く。


「うーん、全部同じにしても面白いんじゃが、それだと醍醐味が半減してしまう。…よし、1つは「ハズレ」にして、即死じゃな」


サイコロの一面だけが、真っ黒となり、そこには大きな「ハズレ」の文字が浮かびあがった。

スサノオは他の面も確認すると、


「よーし、じゃあお前から始めよう!」


びしっと、スサノオは橘君を指さし、サイコロを放った。


◆  ◆  ◆


神の力には逆らえない。


足元に転がされたサイコロを持ち上げる。


「しっかりと降れよ、真下に落としたりしたらダメだからな」


橘君は震える手でサイコロを放りなげる。


「何がでるかな♪何がでるかな♪」


コロンコロンとサイコロが転がる。


真っ黒いハズレの面が上にくるたびに、心臓が止まりそうになる。


サイコロの勢いが弱まったのをみて、スサノオがサイコロを持ち上げた。


「「誰にも話したくない後悔している忘れたい話」略して、誰話!」


まるで観客でもいるように、スサノオはサイコロの面を掲げて見せる。


「あ、ちなみに話が面白くなかったらぶち殺すからな。気をつけろよ」


パチンと指を鳴らす。


どこから現れたフカフカの椅子に身を沈めながら、スサノオは橘君を見ている。


身体が話すことを拒絶するかのように、橘の口はパクパクと開け閉めされる。


そして、絞り出すように、橘君は話し始めた。


「…俺は人を殺した」


「ほうほう、それでそれで」


スサノオはわくわくしながら、まるでベテラン司会者のように話を促す。


「初めて、悪魔と契約をして、その力に飲まれた」


「殺した相手はどんな奴だった?」


「…幼馴染だ。同郷で、一緒にここの中等部に連れてこられた」


ニヤニヤと嫌らしい笑みを浮かべて、スサノオが身を乗り出す。


「ほーう、幼馴染。どんな奴だったんだ?」


「頭が良くて、なんでもできて、友達が多い、優しいやつだった」


「どうして、殺した?」


「契約した悪魔の力を抑えられなくなって…」


「違う違う、悪魔はお前の欲望に力を貸しただけだ。奴らはそのためにお前らと契約してるんだろう」

「…」


沈黙が訪れる。


スサノオはどんどんと顔色が悪くなる橘君を楽しそうに凝視している。


「かわいそうだからワシから聞いてやろう、幼馴染を殺したとき、どんな気持ちだった?」


圧倒的な存在が放つ無邪気な殺意に、橘君は口を開いた。


「…スッキリした。俺よりなんでもできるあいつが妬ましかった。優しくされて、見下され

ているような気がしていた」


ぼそぼそと、かろうじて聞き取れる声だった。


橘君はまるで死人のような顔色をしている。


「あははははは、いいぞ!いいぞ!その表情がみたいのだ!」


スサノオは大興奮である。


自分の膝をパンパンと叩いて、大笑いしている。


「どんな体験をしているかわからないからな!当たりだったときが一番興奮するな!」


人のトラウマを消費する下卑た神は、大満足のようだ。


「よかろう、お前は合格だ」


橘君が膝から崩れ落ちる。


もはや彼の顔には表情はなかった。


サイコロを回収したスサノオは、闇川さんにサイコロを放り投げた。


「よーし、次はお前の番じゃな」


「…」


「どうした、早くサイコロを振らんか」


サイコロをじっと見つめていた闇川さんは、顔をあげスサノオに告げた。


「…サイコロは降らない」


小さいが、はっきりとした意思が含まれた声だった。


「どうしてじゃ。サイコロを振らんとお前死ぬぞ?」


「どうせ、サイコロを振っても私たちは死ぬ」


「何故、そう思う」


ほほう、と興味深げにスサノオが問う。


「この学園にあなたとの交戦データは残っていなかった」


「つまり?」


「今まであなたと『遊んだ』連中は、全員殺されてる。あなたの『遊び』では誰も生き残れない」


ははははは、とスサノオが笑い始める。


「そうか、そうか。よくわかったな。『遊び』で生き残った奴の絶望した表情がみたくなってしまってな、どうしれも殺してしまうのだ。ギャップ萌えってやつじゃの」


「今の私たちでは悪魔の能力を使っても、どうせ生き残れない。だから、『遊び』に付き合ってやる必要もない。時間の無駄」


ピキリとスサノオの額に青筋が走る。


途端に空間の圧がかかる。


しかし、いけないいけない、とスサノオは一息ついた。


「じゃあ、『遊び』を変えよう」


スサノオは腰に携えて小刀を僕に向かって放り投げた。


「その二人のどちらかを選んで首をはねろ。そうすれば、お前と残った一人は生かしてやろう」


そういって、スサノオは意地悪く笑った。


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