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フォールン・ゴッド:悪魔が守る世界
白山千速
現代ファンタジー異能バトル
2024年08月24日
公開日
22,275文字
連載中
―50年前、世界は堕落した神々によって蹂躙された。超常的な存在である神々に対抗するため、人類は悪魔と契約することを選んだ。東京都新宿区にある私立百鬼学園は、悪魔と契約するチカラ「黄昏の身体」を持った生徒たちが通う学園である。堕落した神々への復讐を誓う草薙逢魔は、八岐大蛇と契約して百鬼学園へと通うことになる。そこで出会ったのは、堕落した神々と戦うチカラを得る代わりに、18歳までしか生きられないという残酷な運命を背負った少年・少女たちだった。

「僕は、自分ができることをやりにきた」

果たして、百鬼学園の生徒たちに待ち受けるのは、希望か絶望か。
神々と悪魔、そして少年・少女たちの物語が今、幕を開ける―。

第1話

◆ ◆ ◆ ◆


―1999年7の月、空から恐怖の大王が降りてくる。


フランスの予言者、ミシェル・ノストラダムスの予言の一節である。


新世紀か終末か。期待と絶望が入り混じる予言の夏に、地球に大きな光が降り立った。


しかし、地上に降り立ったのは、恐怖の大王などではなく、眩い神々であった。


敬虔な信仰者たちは涙を流し、そうでない者たちもその姿に頭を垂れた。


ひれ伏す人々の姿をみて、最も権威をもった神が言った。


「じゃあみんな、『遊ぼうか』」


神々は禍々しい笑みと共に、人類の殺戮を始めた。


なすすべなく人類が蹂躙される様は、まさに終末であった。


それも今となっては50年も前のことである―。


◆ ◆ ◆


大きな鳥居の前をうろうろとして、20分は経っただろうか。


春の日差しが眼鏡に反射している。汗ばんだ額に髪が張りついて鬱陶しい。


育ての親にこの私立百鬼学園へ通うことが決まったと教えられたのは、つい先日のことだ。


「(行きたくないなぁ…)」


いつからか、学校というものは苦手だった。


みんなから特別好かれるわけでもない、逆に特別嫌われるわけでもない。


無難に過ごしてきたとは思うのだが、どこか自分が異物のような気がして、ひどく居心地が悪かった。


いつからか、中学校から学校へ通うのをやめた。


いや、通えなくなったというのが正確な言い方だろう。


そんな自分が誰も知らない学校で上手くやっていけるだろうか。


「このまま、帰っちゃおうかな」


先の見えない不安から、そんな言葉が口をつく。


しかし、育ての親からはこの学園を卒業できなければ、お前の未来はない、と告げられた。


「(あの人が未来はないっていうんだから、本当にないんだろうな)」


はぁ、とため息がでた。


目の前の大きな鳥居をくぐれば、この学園での生活が始まる。


答えのでないモヤモヤだけが頭を巡っていた。


「そんなところに突っ立って、何してんだお前」


ふいに、後ろから声をかけられた。


振り返ってみると、大柄な赤髪の青年が立っている。


「い、いや、あの、僕は」


「お前、見ない顔だな。ウチの生徒か?」


「今日からここの高等部に通うことになって…」


「ふーん、ウチの学園に編入制度があるなんて聞いたことないけどな」


青年は覗き込むようにじろじろと顔をみてくる。


自分よりも10cmほど背が高いだろうか、180cmほどのスタイルの良い体格をしている。


同性ながら、ずいぶんと端正な顔立ちをしているな、と思った。


「ま、でもウチにも色んな事情のやつがいるからな、そんなこともあるか」


青年は勝手に納得したようだった。


そんな青年の様子にほっと肩をなでおろす。


「で、お前は大鳥居の前で何やってんだ」


「あ、あの、なんだか、こう…色々と考えちゃって」


「色々?」


「どうやったら上手くやれるのかなとか、失敗したらどうしようとか、色々と…」


怪しまれていた焦りからか、正直に自分の頭にあることを言ってしまった。


ふーん、と青年が首をかしげ、何か考えるような仕草をした。


目が合いそうになって、咄嗟に目を逸らした。


「(なんか、目を合わせたら襲い掛かられそうな気がする)」


どうやって逃げ出そうか、画策を始めた時、青年が口を開いた。


「お前、この学園にくるのは今日が初めてか?」


「う、うん。実際に来るのは始めてだよ」

答えを聞いた赤髪の青年は、ニタァ、と悪い顔をして笑った。


―なんだか嫌な予感がした。


「じゃあ、この大鳥居のくぐり方知らないだろ、特別に俺が教えてやるよ」


「くぐり方?」


「この大鳥居はな、外からウチの学園に変なやつが入ってこないようにする結界なんだよ」


なるほど、と大鳥居を見上げる。


ずいぶんと立派な鳥居で、高さは5mほどあるだろうか。


遠くからでも目に入るはずなのに、近くにくるまで存在に気が付かなかった。


「最初に入るときには特殊な作法が必要なわけ。通過儀礼っていうか、ID登録みたいなもんだな。事前に教えてもらってないのか?」


大きく首を横に振る。


行けばわかる、そう伝えられた以外に何も教えられていない。


「ま、簡単だからさ。とりあえずやってみろよ」


「わ、わかった。ありがとう」


「気にすんなって、先輩からのサービスさ」


気安くウインクをしてみせるその顔は、まごうことなきイケメンであった。


捨てる神あれば拾う神ありとはよく言ったものだ。


「まずは大鳥居にむかって大きく一礼な。挨拶は基本だろ」


青年の真似をして、大きく一礼をしてみる。


「で、次は名乗りな、お前名前なんていうの?」


「草薙逢魔です」


「じゃあ、草薙。我が名は草薙逢魔、この世を総べる者なり!って叫べ」


青年は天を指さし、大仰なポーズをとってみせる。


「この世を総べる者なり…?」


「神様に対する皮肉だよ、あんまり真面目に考えんなって」


なんだかひっかかることばかりだが、万が一ということもある。


文字通り、門前払いされたくはない。


「最後が肝心だ、こうやって大きく手を広げてな…」


「我の名をその身に刻め!TA・SO・GA・RE!」


なんだその悪役が爆発するときのポーズは。


「…これ、本当にみんなやったんですか?」


「当たり前だろ、みんな中等部から上がってきた奴らだからな。中等部の入学するときに済ませてんだよ」


確かに、他の生徒は何事でもないように大鳥居をくぐっていく。


「じゃ、頑張れよな。記念に動画でも撮っておいてやろうか?」


「…いや、大丈夫です。見守ってくださるだけで十分です」


赤髪の青年はグッドラックとでも言うように親指を立て、少し離れた場所に移動した。


「おーい、鳥居のど真ん中でやれよ!端っこだと上手くいかないことがあるからな!」


「わかりました!」


何事も最初が肝心だ。最初に大きなミスをすると後に響く。


覚悟を決めた。


大きく息を吸い込む。


大丈夫、大丈夫だ。


「よろしくお願いします!」


まずは大きく一礼。


そして大きく天を指さす。


「我が名は草薙逢魔!この世を総べる者なり!」


ありったけの大声を出す。


周りの生徒の視線を感じる。


まだ見ぬ同級生よ、堕落した神々よ、この声を聞くがよい。


「大鳥居よ、我の名をその身に刻め!TA・SO・GA・RE!」


シーン。


静寂が大鳥居の前を包む。


「(やった…。やりきったぞ…!)」


感慨のあまり泣いてしまいそうだった。


あの人がいなければ、職員だか先生に付き添われてこれをやらなければいけなかったのだ。


お礼を言わなくちゃ、と青年の方を振り返ろうとすると、まわりの生徒の声が耳に入った。


「やだぁ、何あれ」


「変なポーズ」


「TA・SO・GA・REって…」


登校してくる学生たちが、遠巻きに自分のことをみながら通り過ぎていく。


「あは、ははははははははは!!!!!!」


後ろから大きな笑い声が聞こえてくる。


思わず勢いよく後ろを振り返ると、赤髪の青年はゲホゲホと咽込んでいる。


「マ、マジでやりやがった、お前やばいな!」


「か、からかったんですか!」


「いや、説明の途中で気づくと思ったんだけどな。あんまり真剣なもんだから、言い出せなくなって」


「だからって…!」


恥ずかしさのあまり、顔が焼けるように熱い。


殴るだけで許す気はない、出会ったばかりの青年に殺意を覚えた。


「まぁまぁ、悪かったって、落ち着けよ」


「これをどう落ち着けと」


「…知らないけどさ、誰にでもできないことの一つや二つあるんじゃねぇの。あんまり考え過ぎる必要もねぇだろ」


そういって青年は恥ずかしそうにそっぽを向いた。


「あ、あのありg…」


「ほんじゃ、行こうか。俺が誰かと一緒に登校するなんて、特別だぜ?」


恥ずかしさをごまかすように青年は僕の肩に手をまわし、ずかずかと歩き出す。


その時、視線を感じた。


それも1人じゃない、複数人からの視線だ。


まぁ、あんなことをしたのだから、注目されても仕方がないだろう。


◆ ◆ ◆ ◆


大鳥居をくぐる瞬間、何か厚い膜のようなものを感じた。


まとわりつくような感覚に思わず顔をしかめ、すぐに目を開けると、景色が一転している。


大きな校舎と、そこへ繋がる参道。


参道の両脇は桜並木となっており、花びらが風に舞っている。


大鳥居の外からみた無機質な学園とは全く異なる光景である。


「どうだ、すごいだろ」


「す、すごいです!」


「ようこそ、私立百鬼学園へ。歓迎するぜ」


青年は、満足したように僕の肩を軽く叩いた。


「ところでお前、自分がどこのクラスかわかってんのか」


「クラス?」


「ウチの高等部はな、青龍、玄武、白虎、朱雀って四つのクラスに分かれてるんだ」


俺も噂に聞いただけだけどな、と赤髪の青年は続ける。


「中等部の卒業試験の結果で割り振られるって話だけど、契約している悪魔の強さとか魔力量とか、本人の性格も加味されるって噂だな」


「なるほど…」


「ま、何にしても俺と同じクラスになることはないから、安心しろよ」


そういって青年は自分のカバンから小さなパックを取り出した。


パックにストローを突き刺し、チューチューと中身を吸い始める。


白い小さなパックには赤い鬼が描かれていた。


「そ、それって、お酒じゃ」


「いいのいいの、敷地内は治外法権だからさ。酒飲んでるくらいじゃ誰も何も言わねぇよ」


思わず鼻をつまみ、赤髪の青年から距離をとる。


「あー、お前の契約してる悪魔そういう系?」


「いや、なんか体質なのかお酒の匂いに弱くて…」


悪い悪い、と一気にパックを吸いつぶすと、空になったパックをカバンへとしまう。


「じゃあな、あとは自分で頑張りな」


「あ、あの、君の名前は!」


「知らなくていいよ!あと、次に会っても話しかけてくんなよ、これは初回限定サービスだからな」


そういって、青年は去っていった。


◆  ◆  ◆  ◆


赤髪の青年と別れた後、人の流れに身を任せ、迷いながらも掲示板の前へと辿りつくことができた。


大きな掲示板には、それぞれ青龍・朱雀・白虎・玄武が模された紙が張り出されている。


おそらく、クラス分けの掲示だろう。


「えーと、僕のクラスは…」


自分の名前を探そうと人込みに紛れていると、他の生徒たちの声が耳に入った。


「良かったぁ、普通のクラスに名前があったわ」


「あの噂は本当だったみたいだな」


「メンバーみればわかるだろ、むしろチャンスを与えることが不思議だよ」


声のした方に目を向けると、掲示板から遠ざけられるような形で、小さなホワイトボードが置いてあった。


近づいてみると、そこにはA3サイズほどの印刷紙に、無機質な文言が並べられていった。


―以下のものは入学試験を行うこととする。


指定された教室へと集合すること。


なお、試験に合格できないものは、当学園への入学を認めない。


嫌な予感がした。


いや、まさかそんな、だって「入学することが決まった」と聞いているし。


その紙に記載された名前の一覧に目を通す。


その一覧の一番下には、「草薙逢魔」と確かに書かれていた。


「…お、終わったー!!!!」


入学予定の日、僕はあまりの理不尽に頭を抱えた。

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