目次
ブックマーク
応援する
1
コメント
シェア
通報
Chapter.9 二足歩行のねこさんだ

「良い天気ですねー!」


 村から降り、途中乗り合い馬車を居合わせたので、それに揺られて町へ向かう。

 舗装されてない道は少しガタガタとしていて、ちょっと気を付けないと身体が浮いてしまうので危ない。


 外を眺めていたら「わっ」と前に倒れそうになってしまったんですが、見かねて抑えてくれたトゥーレちゃんの優しさについ喜んでしまいつつ。


「うん。そうだね」

「えへへ、ありがとうございます」


 雲ひとつない陽気は心地いいくらいにぽかぽかで、楽しみにしていた甲斐があるというもの。

 んふふ、顔がにやけちゃう!


 外を眺めているだけでも新鮮で、川沿いの道は涼しさもある。

 前方を覗けば民家が密集している場所があるのに気付いて、あれが町かな?


 すごく大きい! 感動する。エルフの村は山の途中を切り拓いて作った斜面上の村だから、平地って言うのもなんだか新鮮。

 ずっとエルフの村にいたし、どことなく新しい世界を見に行くような気分で、とてもわくわくしてしまいます。

 楽しみだよ!


「元気なお嬢さんだな」

「ふぇっ?」


 ふいに声が掛けられてびっくりした。

 ……そういえば乗り合いでしたね。私たち以外にも他に人が乗っているのに、ものすごいテンションではしゃいでしまった。

 うう、恥ずかしくなってきたぞぉ……。


 気付いて赤くなってしまう顔を、隠したい想いに駆られながらそちらに向き直ると。


「す、すみませんっ……な」


 話し掛けてくれたのは、なんとかわいい猫さんでした。

 猫さん!?

 んん!?


「ふぁ、ふぁあああ……!」


 にゃんこが喋ってる! キジトラが座ってる! ポーチサイズだけど丁度よさそうなリュックを背中に背負って、ちょこんって座ってる!

 えっ、えっ、えぇ~っ!


「わ、わわ、わ……」

「こらこら」


 両手をわきわきとさせて近づこうとしたらトゥーレちゃんに制されました。


「慣れてる」

「すみません」


 猫さんは寛大ですね! トゥーレちゃんは謝らせてしまってごめんなさい!

 で、でもっ、猫だよ? これもうほとんどアイルーじゃないですか!

 わたしその猫キャラに惹かれて、アクションゲーム苦手なのに一度買ったことありますよ! 本当に二足歩行のにゃんこってかわいいですよね! すき!


 あのにゃんこすごいよきです……残念ながらほんっとうにわたしはゲーム音痴で、作品自体を楽しむことはあまり出来なかったけど、めちゃくちゃ好き。


 うわぁ~いいなぁ! 本当にいいなぁ! めっちゃかわいい! 触りたい!!


 髭をピンっと弾いている。すごい器用だ、かわいいかわいい!

 めっちゃかわいい。サイズ感もやばいですね、普通のニャンコサイズて! もうこれもう抱き締めたいに決まってるじゃないですか!!


 この世界すごい! にゃんこが喋っているなんて!


 なんかいままで以上に異世界に感動してしまっている気がします。

 やばいやばいやばい。


「ほらほら、もう到着するよ」

「ねこしゃあん……」

「はっ、面白い嬢ちゃんだ」


 尻尾と左手をふりふりとしてくれました。

 ダンディーなのにすごいかわいいにゃんこさんだ!

 わたしもふりふりします。えへへ。


「ではまた」

「またいつか!」

「おう」


 と、ここで馬車を降りると本当に町が目の前にあって、あの距離があっという間に感じれたんだなぁって思うと、にゃんこパワーすごい。


 あの猫さんはどこまでいくんでしょう? その小さい後ろ姿をついつい見送ってしまいます。

 一期一会も旅の醍醐味ですね!


     ☆


「わあ……!」


 一本の大通り沿いには色んなお店が並んでいて、そこより奥は住宅地みたい。

 行き交う人の数は村の比じゃないですね。すごいすごい。離れないようにトゥーレちゃんと手を繋ぎます。

 えへへ。


 なんていうんだろう、初めて上京した時の感動を思い出します。色んな人がいる感じ。


 魔法使いみたいなだぼっとした怪しげな人もいるし、ものすごい鎧を着込んでいる人もいるし、本当に異世界って感じを実感する。


 きわどい服装の人もすごいなぁ……あんなに堂々と歩いているよ。感嘆としちゃう。


 尻尾とか獣耳が生えている人や、角があったり、さっきの猫さんみたいに動物そのまんまじゃん!って人も歩いている。服を着ているのがちょっとシュールに思うと失礼だけど、でもすごい可愛かった。

 帯剣している人はちょっとこわいなあ。

 少しだけ避けるように歩きます。


「なにか気になるものがあったら言ってね」

「はい!」


 お祭りみたいだ、ほんと。

 エルフの村は木造ばかりだけど、この町はレンガ造りが主流みたいで、だからこの石畳も新鮮に感じます。これも文化の違いとか、そういうものなのかな。

 この対比がワクワクしてきちゃう。なんだろう、いつになくテンションが上がっているよ!


「なんか良い匂いがしますね」

「ほんとだね。どこだろう」


 そんなおり、人混みのなかでちょっとつま先立ちをしながら頑張って見渡すと、モクモクと煙が出ているところもあったのでそこへ向かってみた。


 露店っていうやつですね。屋台みたいなものを設置していて、そこから美味しそうな匂いが漂っているようだ!

 うはぁあああ……美味しそう。


「串二つ」

「あっ」


 トゥーレちゃんやさしい。

 そんなつもりじゃないんです。いや食べたかったですけど。

 本当にごめんなさい! ありがとうございます!

 やばいやばい、わたし甘えすぎだ。もう気を付けましょう。


 奢ってもらいっぱなしになるような彼女にはなりたくないですから!


 お店は串焼き屋さんだったみたいですね。美味しそうなお肉は、種類が分からなかったけどおじさんがいま焼いているものはちょっとタンっぽかった。すっごくお腹が減ってきます。

 タンは大好きだ。


「ありがとうトゥーレちゃん」

「うん」


 大切に頂きます。すっごく美味しそう。

 エルフの村にはこういう露店的なものがないから出来ないけど、トゥーレちゃんと食べ歩きが出来るのは楽しいですね……。

 なんかものすごくデートっぽくて、嬉しくなってきちゃいます。

 あーなんかだんだんドキドキしてきてしまった。胸が騒ぐと食べづらいのにーって思う。


 考えて、そわそわしちゃってたまらない。

 ちらりとトゥーレちゃんを見てみると、少し安心しながら、でもやっぱりちょっと照れてしまいながら。


「美味しいね」

「はいっ」


 目があって、ついまだ食べてないのに答えてしまった。慌ててはむっと食い付きます。

 でもトゥーレちゃんが美味しいと感じるものなら絶対美味しいと思うんなにこれ美味しい。

 えっすごい、美味しいですね!?


 ……んふふ、なんかわたしすごいアホの子っぽい。

 そんなことはないですよ、うん。ふふ。


「でももうお昼時か。どこか食堂に行っても良かったね」

「あっ、確かに」


 これはやってしまった。

 でもこれだけ美味しいものに巡り会えたのでよしとしませんか! だなんて誰目線でふざけてしまいつつ。

 ああ、ほんとに楽しいなあ。


 そしてそして、それからそれから!


 色々なお店を巡りました。

 お洋服屋さんも何軒も並んでいて、ショーウィンドウとかもあってすごい綺麗。

 この町は海も近いらしく、雑貨とかも貝殻を模していたり、イルカの置物とか、趣がぜんぜん村と違うものばかりで楽しい。


 露店にもクラフト系のものがあったりだとか、それを見てるだけで一日があっという間に経っていくみたい。

 それでわたし気付いちゃったんですが、きわどい服装の人たちにわたしがカウントされていますね。


 言ってよ! そういえばわたしエルフにしか着られないような服をまだ着ていましたよ!


 恥ずかしいよ! こんなに色々な人たちにずっと見られていたなんて!

 村にいると感覚が狂ってしまうんですね……そっちだと、わたしよりすごい人がいっぱいいるから……。

 いやでも、大丈夫です。


 今日はちゃんと肌面積は少ないから。ワンピースタイプだから。

 服に着られちゃうのは相も変わらずですが。かなしい。


 なんてことに気づいて、ちょっと宿で一休憩挟んでいるとお月さまが見えてくるように。

 だいぶ暗くなってくると、ぽつぽつとした灯りが目立つようになって、行き交う人の数も、露店も閉ざされていく。



「ふぅー」


 ベッドに大の字になって息を吐いていると、お風呂上がりのトゥーレちゃんが覗いてきて、なんか恥ずかしくなってしまった。

 お風呂上がりのトゥーレちゃん、やっぱりいいなぁ。

 いつも見てるけどね! 宿っていう、普段と違う雰囲気のなかでだからかまた違って見えてしまう。しっとりしてそうだ。


 ちょっと手を伸ばしてみると、トゥーレちゃんがほっぺを寄せてくれました。

 わあ……! カッ、かわいいなぁ……!


「疲れた?」

「ううん」


 柔らかいなぁ。すべすべだ。めちゃくちゃかわいい。

 ずっと目を合わせていると、すごくドキドキしてきて、顔が熱くなってきているのがすごくよく分かる。


 トゥーレちゃんはあんまり顔には出さないけど、それでもちょっと揺れているような翡翠色が可愛くて。


「さわさわだね……」


 もう少し手を伸ばすと、耳をなぞることが出来て、ちょっとくすぐったがるトゥーレちゃんがえっちく見えちゃいます。


 ツンとしていてかわいい耳だ。


 エルフってすごいなぁ。ほんとに尖ってて。

 なんか、なんか、変な気分になってしまった。

 どうしよう、うーんんん、危ない危ない。

 トゥーレちゃんをじっと見つめる。

 ずっとわけが分からない様子のトゥーレちゃんが可愛くて。


「お酒が飲みたい」


 ……………わたしは意気地がないですね。


     ☆


 酒場……というかバーは、なかなかに人がいるけれど、みんな静かなのはきっと舞台でムーディな音楽を奏でる方々がいらっしゃるからかもしれません。

 そこでちびちびと店主が作ってくれたカクテルを飲んでみます。


 うん、わー、飲み慣れてない。


 お酒を飲みたいとは言ったけれど、わたしって結構酔いやすくて、得意って訳でもないんですよね。

 そんな私とは打って変わって、お酒に強いらしいトゥーレちゃんはそこそこなペースで飲んでいる。やっぱ美人さんはこういう雰囲気にも似合うなって羨ましくなった。


 もうただそこにいるだけで絵になるよね。ずるい。


「どうかしたの?」

「ううん、ううん」


 心配してくれるトゥーレちゃんをじっと見つめる。

 ほんとにかわいいよ、うん、すごく好きだ。


「今日は楽しかったなーって思って」

「うん」

「にへへ……」


 特に話題もないんだけどね。

 付き合わせちゃって申し訳ないなーって思いつつ。

 だいぶぽわぽわしてきています。にゃああ、ダメですねこれは!


「もう一週間かー……」

「どうだった?」

「ずっと、楽しかったです」

「そっか」

「なんかね、トゥーレちゃんとはもっとずっと一緒にいるような気がしちゃうくらい」


 時間が飛ぶっていうか、なんていうか。

 一週間前は考えられないくらい、わたしがこう、らぶらぶっ!ってなっちゃっているからかもしれません。

 ふふ、ちょろすぎるねわたし。なんか笑っちゃう。


「私もユズといる間は、ずっと楽しいよ」


 照れちゃいます。

 にへぇ~ってテーブルの上でうつ伏せになってしまいながら。

 トゥーレちゃんは本当にイケメンですね。ナチュラルにこんなことを言っちゃうんです。アンセムくんがあんなに大好きなのも、頷けちゃう。


 トゥーレちゃんは気にしてないかもしれないけど、やっぱちょっと気になっちゃうな。

 きっとモテモテだったはずなのに、わたしなんかでいいんですかね、もう。


 不安だ。なんてね。

 そう思ってしまいながら、でもわたしだってトゥーレちゃんが大好きだ。トゥーレちゃんがなにか言うまでは、ずっと抱きついていてもいいでしょ?


 やばいなあ……交際経験がないからなんとも言えないけど、わたしって危ないのかな。

 この調子だと、やばいくらい依存しちゃいそうで……。


「いやいや」


 いやいや。だいじょーぶです。はい。


「そろそろ酔ってきた?」

「えへへ……すみません……」


 誘っておいて、あっという間にこうなっちゃって、恥ずかしいなぁ。

 でもものすごく眠い。うつらうつらとしてきました。

 わたしずっと自分勝手ですね? これからはトゥーレちゃんに甘えさせてあげたいな……。

 わたしも、大人ですから、ね!


「あえ……トゥーレちゃんってなんさい?」

「ひみつ」


 ううううん……?

 まあ、エルフだもんね。あんまり重要じゃないのかも。

 それはそれとして……。


 ダメな大人で、ごめんなさい!

コメント(0)
この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?