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Chapter.23 日常へ

 パチリと目を開けると、すぐ隣にトゥーレちゃんの顔があったので彼女が起きるまでじぃっと見つめることにした。


 かわいいなぁ……。ずっとかわいい。これからも、何年経ってもトゥーレちゃんはこのまんま、かわいいがすぎる状態なんでしょうか。


 わたしだけどんどんお婆ちゃん化していって……うう、それはちょっとこわい。


 皺がなくて、ハリツヤのある白肌。目鼻立ちのしっかりしたハリウッド女優さんみたいに整った顔。キリっとしたおめめ、ぷっくりとした唇は、はい。柔らかかったです。


 ~~~!(足をバタバタとさせて恥ずかしくなる)


 ふぅ……。わたし、トゥーレちゃんの首筋が大好きです。顎のラインから、鎖骨に掛けてがものすごく綺麗で……フェチですね。すっごいかぷかぷしたくなっちゃうけど、トゥーレちゃんが傷つくのは嫌なので我慢する。


 一緒にお布団、二人とも下着姿なので、うぇへへ、まさぐり放題です。トゥーレちゃんのお肌はすっごいさわさわしていて。お腹とか背筋とか触るのが大好きになってしまった……。


 あんまり触るとくすぐったいらしくて、怒られてしまうけども。


「ん……んう」


 私たちが一緒に寝ている理由はいくつかあって。

 あの日から、この家の寝室にわたしがトラウマを覚えてしまったこと。そして、トゥーレちゃんと離れられないくらいに安心出来なくなってしまったせいだ。


 わたし、弱いなって思う。トゥーレちゃんに甘えっぱなしだった。


「………おはよ……」

「おはようトゥーレちゃんっ」


 寝起きで向かい合ってお互いの顔を見ていると、なんだかとても恥ずかしいものを感じてしまう。

 その感覚がたまらなく嬉しいんだけど、やっぱり恥ずかしくて、ぜんぜん慣れそうにありません。


 トゥーレちゃんが頭をガシガシとしながら身体を起こした。

 メッて髪の毛が痛んでしまうので、その手を抑えながらわたしも一緒に起きる。


 今日も綺麗に仕立ててあげますよ、トゥーレちゃん!


     ☆


 朝ごはんは一緒に作る。

 これはトゥーレちゃんから提案してくれたことで、お料理の勉強と会話の時間が増えたことがなんともうーん、同居!って感じで嬉しくなった。


 たしかに料理下手なトゥーレちゃんは不器用で、でもそんなところにギャップを感じちゃって、ほんとにかわいいなぁって思えます。


 なんでこんな……なんでこんな最強なんだろう……!


「「森の精霊の頂きに。感謝を。いただきます」」


 お祈りもとても長くなってしまった。意味的にはどちらも同じニュアンスなので、二つを合わせているとキメラ感が際立ってしまう。


 なんとなく、尊重というか、歩み寄り過ぎた結果のフュージョンですね。


 でもこれでいいんです、二人の間だけの挨拶なんですから。


 外へ出ると、復興作業中で人の数が多かった。建物への被害はあまりなかったけれど、地表が捲れていたり木々が倒れたり。

 わたしが知らない場所で起きていたその激戦を思うと、怖いし、ついつい思い詰めてしまう。


 それとは別に、飾り付けなども同時進行で行われている。松明かな? 大型設置型のトーチが広場に設営されていて、提灯の類いなんかが店先なんかにぶら下がっていた。


 これも全部、今日の夜のお楽しみだ。

 そんなおり、飾りつけをいそいそと行うマカロさんが伺えて、わたしは挨拶にいかせてもらいます。


「こんにちは!」

「うおう、びくったぁ」


 後ろからそーっと近づいてそう言うと、面白いくらいに身体を跳ねさせて驚くマカロさんに楽しく思ってしまいながら。


「祭りの準備は万端だぞ。楽しみだな」

「はいっ!……あと、あの」


 マカロさんが営む服飾屋のお洋服は全て彼が作ってくれているものらしくて、だからかどれも一点もの。どれも違ってどれも良いものばっかりで、わたしが燃やしてしまった服も、唯一無二のそれだった。


「マカロさん、その、謝りたいことがあって……」

「どうした?」

「服を一つ、燃やしてしまっていて。いままで言えなくて、ごめんなさい!」

「お、おお……」


 これはずっと言っておきたいと思っていて、いままで勇気が出なかったことだ。

 復興に忙しいとかちょっと言い訳し続けて、でもやっと対面したいま、言わなきゃいけないって自覚して。

 それに対するマカロさんの反応は、とても優しいものだった。


「客が買った服は客のもんだ。そんな気にしなくて問題ねえよ」


 なんていって、ポンと頭の上に手が乗せられた。そのトゥーレちゃんより大きくて、重たくて、ごつごつとした手に、少しドキドキしてしまうけどわたしにはトゥーレちゃんという心の決めた人が!


「でもちょうどいいか……時間あるか?」

「はい、?」

「じゃあちょっと着いてきてくれ」


 と言われ、途中作業のまま飾りつけを後にしたマカロさんを先頭に服飾屋へ入ると、すぐに試着室に押し込められる。

 えぇ~……なんか前来たときもこんな感じだったなぁ。

 なつかしいけど、不安でドキドキする。


「ほい。これを着てみてくれ」

「あ、ありがとうございます……」


 あっ、あんまりごちゃごちゃしてない服だ。

 白いなぁ、ちょっと広げて見る。


 ワンピース? あ、すごいかわいい……けど、着れる気がしないんですが……。


 でもすごいぴったりだ。エルフのお洋服はみんなサイズも大きくて、わたしだとちょっと裾を引きずりがちだったのもあったので、ものすごく嬉しい。

 わたしのために、作ってくれたんでしょうか。


 えへへ……これはもう、早速着てみます!

 っとと、お披露目する前に立ち鏡で似合っているかどうかを確認していく。


 うーん……? いや、すごく似合っているけれど、似合いすぎていて恥ずかしいというか、着られてる感は拭えないというか……。

 いやでもやっぱり、いままでほど不格好じゃないのはぴったりだからですね。採寸させてないのに、これはこれで怖いけども……。


「ど、どうですか?」


 ゴス……ではないので純粋なロリータファッション? ちょっと派手目な仕上がりがエルフっぽくなくて浮きそうだけど、でも着心地は良かった。


 ただし恥ずかしい。こんなの着たことない!

 幼すぎるわけではないけどね?


 マカロさんがニヤニヤしているのはおいといて、トゥーレちゃんをじっと待つ。


 ど、どうだろう……かわいいって言ってくれたらすごく嬉しいな……。


「かわいいよユズ。すごい」


 言ってくれました。

 えへへへ……でも恥ずかしい。


 ううう、やっぱりこの世界のお洋服は慣れないです、毎回新しいのを着る度に視線が気になってしまう。

 けど、うん。それでもとっても、嬉しいですね。


「わぁあ、ありがとうトゥーレちゃん!」

「その服は貰っていっていいぞ。というかむしろそれを着ていてくれ」

「あ、ありがとうございます! マカロさん!」


 しゃ、謝罪にいくつもりが、下ろし立ての洋服を貰ってしまった。

 予想外で、ドギマギとしてしまう。


「それ、着ていけよ?」


 そして、これもなつかしい流れだった。


     ☆


 マカロさんと別れたあと、久々にトゥーレちゃんにしがみついて隠れてしまいつつ。

 向かった先は、村長宅でした。


「やぁ、お久しぶり。二人とも」

「お久しぶりです。あれからなかなか来れていなくて申し訳ありません」

「いいよいいよ。小さな村なんだから、用があったらこっちから行くさ」


 シエル様の様子は普段とあまり変わっていないように見えたけど、でもやっぱりどこか疲れているようにも感じた。


「ところでユズは?……いたいた、どう? 元気かい?」

「はい……」


 そう、これもずっと言いたかったことがあって。

 少しおっかなびっくりと尻込んでしまいつつ、でもちゃんとシエル様の目を見て言う。


「この前はありがとうございました! 助かりました! 巻き込んでしまって本当にごめんなさい!」


 誠心誠意。慣れていないことをするときは声が震えてしまって、それが情けなく思えたのでしっかりと抑えながら謝罪する。


 今回の件は、全部わたしが発端で起きてしまったことだ。

 村はそれに巻き込まれてしまっただけで、それどころか更なるわたしの独断のせいで、余計つらい道へと進ませてしまった。本来はなかったはずの、一種の戦争状態に。


 もっと良かった道があったかもしれない。賢い選択があって、誰も傷つかなくて、そんなわけはないだろうけど、もしかしたら高崎さんとだって穏便な取引が出来たかもしれない、そんな選択が……もしかしたらって。

 ずっと考えてしまって、止まなかった。


 思い詰めるわたしに、対してシエル様はきょとんとしたような顔をしていた。


 その反応をちゃんと見るのが難しくて、どうしようもないままそうやってずっといると、ふいに両手をパンとシエル様が叩く。


「あっははは! さすがユズ。えらいよ、かわいいなぁ。うりうりしたくなってしまう」

「ふぇ?……え!?」

「まさかそこまで純朴で気にしいとはね。大丈夫だよ、君が思っている以上にみんな、この選択に誇りを持っていて、武勇伝のひとつに数えている子なんているし」


 盛大に笑われてしまった。ちょっと恥ずかしくなってしまいつつ。


「うん、それでこそトゥーレのお嫁さんに相応しいよ。やったねトゥーレ」

「っ!?」

「〜〜〜っシエル様!」


 ど、ドキドキする! それはドキドキする!

 お嫁さん。お嫁さんか……わたしがトゥーレちゃんのお嫁さん……。

 そういえばこの世界には結婚式とかあるのかな。純白のドレスと、ピシッと決めたスーツの新郎新婦とか。


 ああああ! トゥーレちゃんとだったら憧れるなぁ……! 着てみたいなぁ……!


 でもドレスをわたしが着るには持ったいなさすぎるので、そっちはぜひトゥーレちゃんに着てほしい。

 めちゃくちゃかわいいんだろうなぁ……!


「あっはっは!」


 楽しい空間だった。


 そして、しばらくすると議題は高崎さんについて。と言うよりも、謎の組織。

 世界本流調停委員会に関して。


「彼らはやはり人間ではないんだろうね。それとも、人間だったもの、か。少なくとも触媒を自分に設定して、あそこまでの芸当をこなせるものはいるわけがない。ユズは知ってる?」

「なんですか?」

「ここには三体のゴーレムと火の鳥を産み出す魔法陣が五個設置されていたんだ。全部タカサキ一人の手によってね」


 ご、ごーれむ? そ、そんなことになっていたんですか!?

 全然知らなかった、村はそんな大変なことになっていたんですね。ナビゲートしてくれるシエル様の声はとても落ち着いていたから、安心はしていたけれど、これは……。


 思った以上にことの大きさを再確認して、なんとも言えない気分になる。


「部下……も全部擬態した彼だったってね。そりゃあ止める人いないよ、バカバカしい」


 それでも功を焦っている節があったのは、シエル様が言うには一枚岩じゃないからでは、と言う、仮説を打ち立てているみたいだった。

 憶測だけれど、例えば序列制でノルマを満たさないとペナルティがあるんじゃないかといまは考えているみたいです。


「さて、ここからが本題」

「はい」

「委員会の決定は覆されないだろう。他の世界では既に進行済みだろうし、この世界のタカサキくんを退けただけで、委員会が潰れるわけでも世界が救われたわけでもない。ただ現状維持をしただけだ」

「………」

「タカサキの席が空いた。今度はそこに、彼よりも優秀な誰かが就任して、任務を引き継いで来るはずだ、この世界に」


 ――重たい現実を思い知らされた。

 妙な胸騒ぎを確かに、シエル様の決定はどれであるかを訪ねる。


「はっきりいってこれ以上は村を巻き込めない。事前に準備する段階があって、その時の人員に。であればいくらでも協力するけれど、いままでのような生活はきっと無理だ。敵わなくなる」

「……はい」

「だから、トゥーレ。ユズ。君たちはよく話し合って、これからどうするかを決めなさい」


 そうだ。わたしがこの世界にいる以上、また高崎さんのような委員会の人に狙われる。

 もう逃げ続けるしかないんだ。

 逃げて、逃げて、逃げて、ずっとその先にあるかもしれない安住の地を。


 ……………わたしたちに探せるのかな。


 トゥーレちゃんはこんなわたしに、どこまでついてきて……どこまで一緒に、いてくれるのだろうか。

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