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Chapter.14 長老会

「……それで、『またきます。その時までに考え直しておけ』ってユズに吐き捨てるように言って、去っていったよ。なんなのかよく分からないね」


 ヤレヤレ、と言った様子でシエル様がことの顛末を話し終えた長老会。それを聞いた円卓の至るところから重苦しいため息が空間を支配した。


 末席にいる俺もそれとなく混ざりつつ……。


「マカロ。君はどう思う?」


 まさかのご指名だ。

 下手なことするんじゃなかったな。


 問われ、ごまかすようにじょりじょりと無精髭をなぞってから、しかし明確な問題点を提議する。


「なぜいまさらなのかが分かりませんね」

「確かに。でもそこは憶測でしか語れないかな」


 ……もっともだ。なんか、盛大に滑ってしまったような気がして恐れ多いように一歩引いた。


 だいたい俺よりも何百年以上歳の取っている奴等ばっかりの場所で、まだ九十年そこらの俺を指さないでほしい。

 言い訳だけど。若造なんだよこっち!


 ハーフだから誰よりも老けてんだけどな!


 とはいえ人間よりも寿命は長いので、まだ見えて姿形は人でいう中年男性くらいなんだが。


 一定の年齢で肉体的な成長が半永久的に留まるエルフのなかで、俺は浮くほどに年寄りだ。

 こんなにも若いはずなんだけどな。


「やはりあの娘を招くべきでなかったのではないか?」


 その誰かの問いに重ねるように「あれのせいでこの村が危機に晒される」別の声が上がる。


 堅物だな、前提を突いてもどうにもならないだろうと、先程滑った俺ですら分かるぞ。

 話が進まないから止してくれ。


 なんて声に出したらシメられるので言わない。俺かしこい。偉い。


「マカロがなにか言いたそうだ」

「……あの、シエル様。さすがにやめて」


 多少無礼ながらの口調で本当にやめてほしいと訴える。ニヤついておもちゃにするのは結構だが、あの爺さん連中に難癖付けられるのは本当に勘弁願いたい。


 ハーフというだけでどれだけ面倒な扱いを受け続けたんだか。もう懲り懲りだよこっちは。


「でも、そうだね。君たちの意見ももっともだ。でもいまの議題はそこじゃない」


 ピシャリと。さすがシエル様だと毎度の事ながらその線引きに感嘆とする。ある種のカリスマなんだろうな。

 トゥーレもわずかながらに持っている空気感だ。

 さすが親族なだけはある。


「シエル様、ここでお一つ」

「どうぞ」

「仮にどうやって抗うおつもりですか、あの者に」


 と、そこで雑貨屋店主のリオンが片手で発言権を求めながら、これからに建設的な議題を立ち上げる。

 さすがリオン。サムズアップを向けて褒めてあげようと思えば、ぷいと無視された。


 あいつ……。なんで俺にはいつも無愛想なんだ……。

 しかし分かる話だ。


 聞いた限り、断れば実力行使に出るのも予想出来ること。

 仮にそうなった場合、その話に聞く人智を越えた外界の者へどう立ち向かうことが出来るのか。勝算がなければただの愚行だ。心苦しくても娘を差し出した方が良いことになる。


 このエルフの長老ばかりが並ぶ会合で、この問いの答えは明確な指標になるだろう。


 問われたシエル様はずっと腕を組み、深く考えておられるようだった。


 ――もっとも、あの人のことだから、相談なんてつもりはなく、説得。どうやって爺さん連中の思想を有利な方向に持っていくか、程度の断固としたものだろうが。

 シエル様は、一度瞑目し、そして続ける。


「簡単だよ。どれだけ理を逸脱したような存在でも、一度世界に踏み込めばその世界の住民だ。後はこちらの持つ全力で迎え撃てばいい」

「というと?」

「それは、弓で。剣で。魔法で。知恵で。年月で。エルフには地の理がある。叡智がある、速度がある。力があって、時間なんて有り余るほどだ。――対処なんてどうとでもね」


 ……――思わず息を呑む。

 その言葉のどこにも嘘などない。等身大の、ありのままの我々の評価。

 謙遜しようのない事実。


 シエル様はいままでどれほどの人生を歩んできたのだろう。先日目の前にしたはずの人間は、間違いなく神と呼ばれてもおかしくない人外であるはずなのに、これほどまでに怯える様子もなければ、むしろ好戦的な態度すら取って。


 それが勇ましく、力強く、たくましい。――彼女の本質とも言えるもの。


「ということで、警戒はするように。じゃ、解散」


 その言葉を最後に、長老会は無理やり締め括られた。

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