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Chapter.5 エルフの衣装を着るOL

「ふぉおお……」

「嬉しい?」

「はい!」


 ぼうっと手首に嵌められたソレを眺めてしまいます。

 ………お揃いだ……。

 やばい……。


「私も嬉しいよ」

「――ほ、本当?」


 ぽつりとそう呟いてくれたトゥーレちゃんにびっくりして、ついついそう確かめてしまった。

 いや、分かるよ。分かるんだけど、知りたくなっちゃって。

 わたしだけ喜んでいるのは、良くない、と思いますし!


「うん」


 えへへ。その一言だけですごく幸せになりますね。

 きゅんきゅんしちゃう。大好きだ。


 トゥーレちゃんが抱える紙袋には、雑貨屋さんで購入した他の荷物が入っている。色々とあるんだけど、でもなかでも一番嬉しかったのはあのあとトゥーレちゃんが自主的にお揃いのお茶碗も入れてくれていたことでした。


 にへへへへへ。

 あの時トゥーレちゃんが真剣に見ていたのはそれだったのかな、とか思ってみたり。

 ちょっと、いやすっごく嬉しかったです。こんなに甘えちゃっていいのかな……。


 トゥーレちゃんが選んだお茶碗は白地にピンク色が一筋入った物でした。すっごくかわいいと思います!

 トゥーレちゃんも、トゥーレちゃんのセンスも!

 ぬへへへへ……。


 なんてだらしない顔をしていると。


「まだ買い物の途中だからね」

「っは、はい!」


 思わず寄り添うようにトゥーレちゃんに重心を任せていたら、そんなことを言われてしまいました。

 ――そうだね、まだ明るい時間帯だったね!

 思ったより恥ずかしいな!

 いやっ、暗くなったらいいわけでもないですけども!


 ……なんか墓穴を掘った気がする。


 そしてそして。

 次に入ったのは服飾屋さん。

 エルフの村のお洋服はみんな、選ばれし美人さんにしか着ることの出来ない服ばかりなのだと入った瞬間に感じ取りました。


 まずね! 妖精的なんだよ! 妖精さんを想像したら思い浮かぶような服ばかりなんだよ!


 つまりシースルーファッションばっかりなんだよ! 私死んじゃうよね! 普通の人には着られませんもん!

 透明感があって涼しそうな服は、一見どうやって着たら良いのか分かりません。


 構造が入れ子すぎて……。


 でも実際に、村人エルフさん達だったり、トゥーレちゃんもみんな一様にこのような服を着ていたりする。

 夏場はシースルー。冬場はゆったりとしたローブらしいです。かわいいけどそそうじゃないの。


 わたしが着られるような服じゃないの!!


「はいはいユズ。私が服を持ってくるからそれ着てね」

「むむっ、無理だよぉ!」


 なんて言っても、ちょっと楽しそうなトゥーレちゃんが可愛くて抗えるわけもなく、むりやり試着室に押し込まれてしまった。

 ちょっと強引すぎないかな!


 でも、服が欲しいといったのはわたしだし、実際着替えないとなんかもう、ダメな気がする。

 というのもここ二日間自前のスーツしか着れていなくてですね……。


 そもそもこの世界に来たのは金曜日の帰り道、いつの間にかだったからね。

 装備は当時のままなわけですよ。お風呂に入ったり、香水をお借りして吹き掛けてみたりしたけれど、森のなかで破けたり穴が空いていたり数日に及ぶ着用だったりするから、いい加減わたしは着替えたくなっていました。


 でもわたしはね、ダサティーシャツで構わないよ。

 THE☆部屋着って感じの、あるいはコンビニ行くときの私服ってくらいの、女っ気もないティーシャツジーパンが好きなんだ……この村の服はね、間違ってもわたしには着られないと思う……。


 いやほんと。


 と思っている合間に、服が投げ込まれました。

 早いよトゥーレちゃん。


「大丈夫?」

「これどうなっているの……」


 袖が分からない。いったいどうやって着ればいいの。

 泣きたくなってきました。女子高生の頃持っていた女子力にはいまこそ戻ってきて欲しいです。もう大人になってインドア化の進んだわたしには色々ともう無理なんです。


 急かすトゥーレちゃんに困り果てながら、なんとか着てみることにする。


「トゥーレちゃんトゥーレちゃん、大問題です」

「ん?」

「あのね、むっ胸が、入りません……」


 ……なんか無言になったのがすごいこわい。こわい。

 うぅうう、だってお店のもので無理するわけにいかないし……!

 仕方ないと思うの……! 思うの……!!


「ごめんなさい……」

「エルフには必要がないし」


 なんかよく分からない言葉で牽制されました。えっと。

 ……なんで怒られてるの、わたし……。


 着ようとしたその服を元に戻してカーテン越しにお返ししますと、立て直してくれたトゥーレちゃんが次の服を持ってきてくれました。

 優しいですね。涙が出てくるよ。


 先ほどよりも簡単な作りの服はまだ分かりやすくて、形を整えながら広げて見てみる。


「な、なんかこれすっごいえっちぃよ?」


 これじゃあもうただのコスプレなような気が!

 デザイナーさんの問題なのか、エルフの服装はいずれも衣装と呼べるようなかっこかわいいものばっかりだけれど、これは特に際立ちすぎじゃなかろうか!


 でも二回連続で否定するわけにも行かないので……着るだけ着てみることにします。


 う、うう、これは大学生時代、コミケ販売の売り子としてコスプレさせられた時よりも恥ずかしいぞ……。ちなみにそれ以降わたしは女子力減衰しました。からかわれすぎて恥ずかしかったんですう!


 特にトゥーレちゃんみたいな、美の権現みたいな人に見られるのは余計恥ずかしいぞ……。


 立ち鏡に映るわたしがなんとも言えないくらいだった。

 やばいほど恥ずかしいよ、絶望的に似合っているとは思えないよ!


「で、出来たよー……ぉ」


 か細い声でそう言いながら、おずおずとカーテンを開けるとすぐにトゥーレちゃんと目があった。


 ――あっ、これはダメなやつ。


「ちょっ」


 シュバッ!とカーテンを閉めて動悸を静めるよう努力します。

 やばいやばいやばいやばい。

 こんなにスースーしているのにすっごく熱いな!

 身体がじっとりとしてきた、緊張というかなんというか、きついよ……!?


 もう、裸を見せているような気分だ。

 あの一瞬でもう、のぼせたようになっちゃった。


「ユズ?」

「わ、笑わないでね……?」

「大丈夫だよ」

「うぅー……」


 今日がわたしの命日か。

 と尻込んでいても仕方がないので、思いきって我慢することにする。たぶんそっちのほうが早く終わるんでしょう! そうなんでしょう!?


 シュバッ!


 ………っ!!


「ん、いいね。似合うよユズ」

「~~~っ、嘘だぁ。嘘だ嘘だ!」

「ほんとほんと。かわいいよ」

「んんん!」


 このあと死ぬんですね。悟りました。

 やばいやばい!

 なんか感情がごっちゃだ。


 褒められて嬉しいのと恥ずかしいのとドキドキしているのがなんかもう、ぐっちゃになってしまっている。

 ……でも、でもでも、にへへ。

 やっぱ嬉しいのが一番大きいですね。たまりません。


「へっ、へんじゃない?」

「むしろ、いままでの服装のほうが変だ」


 それはまあ……確かにそうかもしれません……。

 スーツのほうが何者かと疑うよね。それなら……良いのかも?

 ちょっと前向きになれました。


 その流れで、他にもいくつか試着してみることに。

 でもやっぱり心の片隅で、トゥーレちゃん達だから似合うのであってわたしには違うって思っちゃう。

 もうこればっかりは仕方ないのかな。


「あ、これくらいなら安心かも」


 あと、なんか感覚が狂ってきました。

 途中から始めは思わなかったような服がまともそうに見えてくる病。

 悲しいのか慣れなのか、たぶん後者だと願いたいです。


「じゃあこの四つにしとこうか」

「ご、ごめんねトゥーレちゃん! ありがとうございます!」


 思わずたくさんになってしまった。

 こんなつもりじゃなかったのに、こんなにもたくさん買って貰っちゃうとものすごく申し訳なく思います。

 は、はずかしいけど、大事にするよ!


 ぷらぷらと手を振ってなんでもないようにしてくれるトゥーレちゃんがかっこよすぎて申し訳なさすぎて、もうこれ以上は甘えませんと決意します。

 捨てられたくないし!


「着ていってね」

「んっ?……んん、はい」


 それはちょっと……。すごく死んじゃうかもしれない。

 あと値札を切ってくれた服飾屋の店主さんはちょっと気味悪い顔でわたしを見ていました。すごいぞわっとした。

 イケオジさんなのに!


     ☆


 ……………あ……。

 うぅ……なんか、すっごく変態さんになったみたいだ。

 悪いことをしてるみたい。


「わたし変じゃない?」

「私に引っ付いているほうが目立つってば」


 うぅ。それだけは勘弁してください。

 こんなにも肩とお腹と太ももが出る服装なんて、もう二度と来ないと誓った二、三年前の冬コミケが懐かしく思います。

 いまはもう、なんと言うか、エルフさんがみんな美形なのも相まってより公開処刑感が高まってしまっている……。


「うぅ……」


 いや、でも服装だけで見れば、この村にいて違和感がないとは思う。馴染めているような気がするし、昨日や先ほどまでのような目を向けられることはない。


 だけど、だけれど、やっぱりちょっと恥ずかしいです!

 あの頃の友達が見たらなんと言うだろうか……。

 絶対またいっぱい写真を撮られる。


「大丈夫だよ、ユズ」

「ありがと……」

「人見知りだなぁ」


 苦笑するようにトゥーレちゃんは言いました。

 何か言ってやろうって思ったけど、言葉が思い付かなかったのでトゥーレちゃんの左腕をぎゅっと抱き締める。


 んんん! 頭をぽんぽんとされてしまいました!

 にへらって思わず顔が緩んじゃう。

 なんか、上手く言葉に出来ませんけど、また今日一日を経てとても仲良くなれたような気がします。


 だいすき。


 んへへ。今日はずっとこんな調子だ! ほっぺたが緩みきっているような気がする!

 でも、しょうがないですよね。

 昨日の出来事がまだ鮮明で、ずっと胸の内にあるんだもん。


 ――トゥーレちゃんに言ってもらった言葉。

 それから、今日はその証としてブレスレットを。

 嬉しくないわけがない。ちょっと寂しく思うことだって、この気持ちがあればどれだけだって頑張れるような気がしてくる。


 やっぱりトゥーレちゃんは良い人だ。好い人なんだ。

 ちょっとぶっきらぼうなところは思うけれど、それもいつか打ち解け合えると信じられる。打ち解け合おうって思うことが出来る。行動したいと思えてしまう。

 だから、どうか、これからも一緒に。

 ターコイズの綺麗な水色を眺めながら、わたしはそんなことを思うのでした。



(次 がいでん! ショタエルフくん へ)

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