予定通りA.N.T部隊が病院に突入するのを見計らって脱出したのに、計画と違い過ぎる。坂城め、あれだけ大口を叩いておきながらこのザマか。
所詮は革命家気取りのアマチュア軍事マニアでしかなかった訳だ。まあ、そんなモノに期待した私も浅はかだったが。
しかしこれであの大学病院にも戻れなくなった。関根院長とその周辺を固める邪魔者を排除して、最高権威の座を得る機会を逃してしまったな。
(しかし、あの適応者さえいなければ、アマチュア軍事マニアでも上手くいっていたはずだ)
このアンプル弾が完成したら、必ずあの怪物を始末してやる。そんな事を考えながら中洲地区に続く橋の近くで、井堀達と合流した。
「まったく、何て体たらくだ」
「仕方あるまい、今回は運が悪かった」
開口一番罵る私に、井堀はそう言って肩を竦めて見せる。
「それよりも、これからどうするかだ」
「ふん……支部の者でも集めるか?」
そんな私の返答に、井堀は首を振る。
「支部に残った連中は、坂城総長の言う事しか聞かないだろう」
紛いなりにも組織内では人望があるカリスマ指導者だったという。くだらない。人望などコネの一種に過ぎん。全てを従わせる権威こそが、人による人の支配を最も強固にするのだ。
「坂城総長が居なくなった今、A.N.Tは解散だ。俺達は俺達でやっていく」
彼はそう言って戦闘服からA.N.Tのワッペンを剥がして捨てた。現在はフリーになったという事だ。周りの部下達も、彼に倣ってワッペンを捨てた。そして井堀は続けてこう告げる。
「しかし、どこか
「ふむ。その持論には同意出来る」
私はそう言って頷く。あの避難所にはもう近寄れない。他の避難所なり、武装組織なりがあれば、そこに売り込むつもりだと彼は言う。
「とりあえず、中洲地区にはあの
確か、調達部の者が里羽田中央病院とか言っていたな。
「だから、中洲地区の向こう側まで行ってみようと思う。埠頭やその近辺の町なら、また別の組織があるかもしれない」
「中洲地区の向こうか……確か、高校などの施設があったな。あと総合病院もあったはずだ」
不死者の彷徨う今の世は、戦える力が必要とされる終末の刻。適当に避難所を巡れば、自分達の力を必要とする集団や、仕えるに値する組織の指導者に出会える事もあるだろう。
「あんたのソレも、俺達の切り札になるはずだ」
「ふん、コレを完成させる為にも、ちゃんとした研究設備のある避難所を選んでほしいね」
こうして私は、井堀をリーダーとしたフリーの戦闘集団に同行して、新しい帰依先を探す事になった。