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*第十話:裏話・笑顔の裏側





 大学病院の会議室に集まって行われる定例会議。

 あたしたち調達部からは部署の責任者である五十嶺いそみねさんと、あたしや小丹枝君を含む各チームのリーダー、サブリーダーが顔を揃える。

 この席で、本日の活動成果や今後の課題などが話し合われるのだけれど、あたしは他の探索・運搬チームの代表者や、モール側の各代表者達相手に抗議していた。


「貢献者の歓迎会を許可できないって、どういう了見ですかっ」

「まあまあ浅川君、落ち着いて」


 石川さんが宥めに入る。この人は向こう側の人間だけど、ちゃんとあたしたちの事情も汲んでくれる理解者だ。


 大木君の歓迎会に適当な部屋と物資を使わせて貰おうと思ったら、部屋の利用や物資の使用のみならず、歓迎会そのものを却下された。

 これが落ち着いていられますかって!


「モールの施設を使うなって事までなら分かりますよ、でもあたし達の宿舎での歓迎会すらヤメロってのは道理が通らないでしょ?」


 そんなあたしの抗議に、他のチームの代表は煮え切らない態度でモール側の意見寄りな事を言う。


「まあ、そうは言うけどねぇ……」

「だって感染者なんでしょう? その人」


 だから何だっつーのよ!


「彼の状態と事情については連絡が行ってるでしょ? 感染者でも発症の兆候は無いし、今後の調達活動に大きく貢献してくれる。今日の活躍の事だって報告したはずよ?」


 あたしは大木君がこの避難所あたしたちの協力要請に応えて来てくれた助っ人である事を強調しつつ、これからもっと困難になるであろう物資の安定調達に欠かせない戦力になると主張した。

 だけど、他のチームの見解は冷めたものだった。


「たまたま協力要請の実行とタイミングが被っただけで、今は別にそこまで困ってないし……」

「これまで通りの体制でも十分賄えるじゃないか?」


 この前の問題組大量放逐で避難民の数も少し減ったので、今のところ物資は何とか足りている。


「発症者を誘導出来るとか、反応されないとか報告書にあったけど、そんなに持ち上げるほどの事だとは思えないな」

「わざわざ危険を冒してまで、特殊な感染状態にある者と共同作業する必要はないだろう」


「……」


 調達活動に関しては皆が経験を積んで、裏打ちされた自信を持っている。当然、あたしのチームより経験豊富で活躍してるチームも居る。

 そのリーダー達が挙ってそういう見解を出したなら、あたしはこれ以上の意見を通せない。自分のチームメンバーの立場も考えれば、妥協するしかなかった。



 会議を終えて宿舎に戻って来るなり、あたしはルームメイトの愛子の胸にダイブした。


「ちくしょーめーー!」

「きゃっ、どうしたんですか? 香苗さん」


 あー癒される。癒されながら厭な事を愚痴ったら、あたし達のチーム内でも大木君に大して微妙な態度を取っているメンバーが居るっていう愛子レポートを聞かされた。


「……古山君か」


 彼は愛子に気があるからなぁ……愛子が感心を向けたりした相手には軒並つっけんどんになるのよね。まあ、チームが大所帯じゃない分、多少の摩擦は相互理解の切っ掛けにも使えるけど。


「今の安定が続くのはそりゃ良い事だけど、だからって手伝いに来てくれた人をこういう扱いするのはどうかと思うのよ」

「そうですよね。ただ、皆さん少し内向きになってるのかもしれません」


 初期の頃から一緒に頑張って来た仲間、という意識で結束が固まるのは悪い事ではない。

 しかし、問題行動を起こす一部の避難民のように、後から来た者達に自分達の護って来た場所を荒らされる事に対して、忌避感が募っているのではないか。

 愛子はそんな風に分析してみせた。


「この前の放逐騒ぎも、排他的な心理に関係してるのかも」

「あー……それはあるかも」


 でもそれらはあたし達の内輪の事情。大木君に押し付けて良い事じゃ無い。


「大木君の有用性を証明する為に、何か考えないと……」

「香苗さん?」


 こっそり呟いたあたしは、彼を探して来ると言って部屋を後にした。


(大木君には、モール側や他のチームの見解もそれとなく知らせておかないとね)


 今日の会議に見た皆の様子では、自分から大木君と接触しようとするような人達も居ないだろうし、それでも活動を続けていれば、いずれ何処かで顔を合わせる時だって来る。

 その時に、大木君が嫌な思いをしないように。


(それに、今の体制で本当にこれから先も大丈夫とは思えない)


 何か別の要素で問題が起こるような気がする。単なる勘なんだけど、こういう時のあたしの勘は嫌なほどよく当たる。そうやって今日まで生き延びて来たんだから、ここは勘に従わないとね。


 そうしてあたしは、自分達を含めてこれまで何処のチームも探索に行けなかった『地下街』に手を付ける事を考えた。





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