昔のゲームセンターは、薄暗いフロアに筐体のゲーム画面がネオンのような色彩を放ち、自己主張する無数の電子音が不協和音を奏でる妖しげな空間だった。
女性の社会進出がブームになった頃からか、おしゃれを意識したクリーンなイメージを演出するように変わっていった。
まあ、それはそれとして、俺は何故ゲームセンターに居るのか。
『ススム君』
美比呂ちゃんの呼ぶ声。……ああ、そうだ。美比呂ちゃんとデートするんだった。しかし何だか視界がぼんやりする。俺も発症者になりかけているのかな。
そんな事を考えていると、コクピット型のアクションゲームの筐体に座っていた。
『ススム君それ得意なの?』
いや、それほどでも無い。——美比呂ちゃんは、何故か影しか見えない。
『あ、敵が来たよ』
よし、蹴散らすか。——うん? どうやって動かすんだこれ。ああ、何となく分かった。最近のゲームは体感型デバイスが進化してるのな。
左右のステップにダッシュからの近接攻撃。飛び道具は無しか。お、敵を掴んで武器にも出来るんだな。
操作画面は"婆ちゃん論"風だけど、システムは"ダイナモ
クリアしたかな。美比呂ちゃんもやってみる?
『ううん、わたしはいいよ』
筐体の傍らに立つ美比呂ちゃんは、やっぱり影しか見えない。目を凝らそうとしても上手くいかない。——なにか、おかしい。
影姿の美比呂ちゃんが、語り掛けて来る。
『ねえ、ススム君は、ずっとここに居たい?』
うん? どういうこと?
『ずっと、わたしとここで、遊んでいたい?』
んー、それはそれで魅力的だけど……まだやらなくちゃいけない事があるからなぁ。
『それが終わったら、ずっと一緒に居てくれる?』
ああ、いいよ。——何か今、すごく大事な話をした気がするけど、一緒に居る事に異存は無い。だから別に構わない。
『ススム君、わたしは、まだ掛かると思うから』
なにが? あれ、画面にノイズが入りだした……画面ってなんだ?
『全身に——置き換わ——もうちょっとだから』
美比呂ちゃん?
『——まってて……』
美比呂ちゃんの影が、どんどん遠くなっていく。追い掛けようとしたら、座っていた筐体が消えた。さっきまで暑いくらい暖かかったのに、なんだか急に寒くなって来た。
周囲も暗くなった。照明が落ちた? 遠くにボンヤリと光が見える。あそこが出口か。
光を目指して暗い通路を行く。走っているのか歩いているのか、進んでいるのかすら分からない。けれど、光には確実に近付いている。
そうして、ようやく出口に辿り着いた。——誰かの呼ぶ声が聞こえる。
「——君! 大木君! 意識はあるかねっ?」
「先生っ、危険ですっ!」
「……あ」
——俺は、血肉に彩られた凄惨な赤色の中で目を覚ました。