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第25話 君のことがずっと好き

「灯璃。俺は、君のことが好きだ。ずっと、ずっと前から変わらず」


 時が止まったような気がした。


 その言葉を口にし、俺も、相対してる灯璃も、ジッと互いを見つめて固まるだけ。


 ただ、それでも波だけは何度も寄せては引き、音を奏で続けてる。


「へ…………? す……ふぇ……え、え……!?」


「好き。俺、灯璃のことが好きなんだ。小さい時から、今に至るまで」


「えぇぇぇぇっ!? えっ、えぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!?」


 すごい動揺だった。


 火が出るんじゃないかというほどに顔を赤くさせ、その顔を両手で抑えながら驚きを声にする灯璃。


 それを見て、俺も恥ずかしさがじわじわ込み上げてくる。


 今さら言った言葉は撤回できないのに。じわじわ、ゆっくりと。


「ど、どど、ど…………どう……して……?」


「え?」


「ど、どうして……? 私、なりくんに……ずっと素っ気ない態度取ってたのに……す、好き……って……」


 どうして、か。


 理由はハッキリしてる。けど、それを赤裸々にするのが恥ずかしくて、つい頭を掻いてしまった。


 軽く深呼吸し、言葉にする。


「そ、その、中学の時から……だよな。灯璃が……俺に素っ気ない態度を取り始めたのって」


「…………くらい。かも」


「うん。実際さ、最近までずっと謎に思ってたんだ。なんで俺、灯璃にああいう態度取られるようになっちゃったんだろ。なんかしたのかなって」


「…………ご、ごめん……。私……」


「いや、いいんだ。その理由、今はもうわかってるから」


「……っ……」


「おばあちゃんが亡くなって、俺、灯璃にそれっぽい慰め文句ばっか言ってたんだよ」


 当時のことを思い出しながら、空を見上げて、俺は続ける。


「傷付いてる灯璃を見て、どうにか元気付けてあげなきゃ、元気付けてあげなきゃって思いが先行した。それが結果的にお前を不安にさせてしまってた。たぶん、自分じゃ気付いてなかったけど、俺も俺で、灯璃のこと避けてたんだ。本当に、今まで通り接していいのかわからなくて、怖かったから」


「………………」


「けど、そんなことを思わなくてもよかった。必要だったのは今まで通りの自分で、灯璃と一緒に泣けばいいだけのことだったんだ」


「なりくんっ……」


「灯璃の傍にいるだけでよかった。ごめん。ほんと、気付けなくて」


「っ~……!」


 灯璃は泣いてた。


 泣いてる状態で、俺に身を預けてくる。


 俺も、そんな彼女の体をそっと抱き締め、目の前が滲むのを感じた。


「……もっと察しのいい奴だったら、きっとこんなことになってなかったんだと思う。ごめん。ごめんな、灯璃……」


「そんなの……いいよぉ……! 私が好きなのは……察しが良くても……悪くても……なりくんただ一人だからぁ……!」


「っ……」


「私の方こそ……ごめんね。なりくん……すごく気を遣ってくれたのに……勝手に不安になって……悩んで……遠ざけちゃって……」


「それは俺が悪かっただけだから……。こっちの方がごめんなんだよ……」


「ううん……。私の方が――」


「いや、俺が――」


 どっちが悪いのかをひたすら謝りながら続ける。


 続けて、しまいにはお互い笑ってた。


 俺たちは結局のところ、二人して悪かったんだ、と。


 それで――


「……灯璃。その……さっきの告白の……返事なんだけど、さ……」


「……うん」


「俺、灯璃のことが好きなんだ。えと、だから……今さらではあるけど、つ、つつ、付き合って……くれる……かな?」


「……ふふっ」


「――!?」


 な、なぜ笑って!? 


「あ、あの……灯璃さん?」


「ほんと、今さら(笑)」


「え――」


 戸惑ってるうちに見つめていた灯璃の顔が一気に近くなった。


 そして、唇に伝わる柔らかい感触。


 そう。これは……キスだ。キスだった。


「なりくん」


「はっ、ふぁ、は、はい……!」


 唇が離れて、俺は可愛らしい小さな声で名前を呼ばれる。


 バクバクとあり得ないくらいに心臓が跳ねていた。


「私も……なりくんのことが好き。私を……なりくんの彼女にしてくれますか?」


 世界は、きっと俺たちが思ってるよりも単純で、本当は簡単なものなんだろう。


 難しく考えて、ぐちゃぐちゃにして、わからなくさせてるのは自分たち自身なんだ。


 俺は、瞳に溜まった涙をゴシゴシ袖で拭って応えた。


「はい」と。


 最大限頷き、一生守り切ると決めた彼女のとこを強く抱きしめながら。

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