「灯璃。俺は、君のことが好きだ。ずっと、ずっと前から変わらず」
時が止まったような気がした。
その言葉を口にし、俺も、相対してる灯璃も、ジッと互いを見つめて固まるだけ。
ただ、それでも波だけは何度も寄せては引き、音を奏で続けてる。
「へ…………? す……ふぇ……え、え……!?」
「好き。俺、灯璃のことが好きなんだ。小さい時から、今に至るまで」
「えぇぇぇぇっ!? えっ、えぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!?」
すごい動揺だった。
火が出るんじゃないかというほどに顔を赤くさせ、その顔を両手で抑えながら驚きを声にする灯璃。
それを見て、俺も恥ずかしさがじわじわ込み上げてくる。
今さら言った言葉は撤回できないのに。じわじわ、ゆっくりと。
「ど、どど、ど…………どう……して……?」
「え?」
「ど、どうして……? 私、なりくんに……ずっと素っ気ない態度取ってたのに……す、好き……って……」
どうして、か。
理由はハッキリしてる。けど、それを赤裸々にするのが恥ずかしくて、つい頭を掻いてしまった。
軽く深呼吸し、言葉にする。
「そ、その、中学の時から……だよな。灯璃が……俺に素っ気ない態度を取り始めたのって」
「…………くらい。かも」
「うん。実際さ、最近までずっと謎に思ってたんだ。なんで俺、灯璃にああいう態度取られるようになっちゃったんだろ。なんかしたのかなって」
「…………ご、ごめん……。私……」
「いや、いいんだ。その理由、今はもうわかってるから」
「……っ……」
「おばあちゃんが亡くなって、俺、灯璃にそれっぽい慰め文句ばっか言ってたんだよ」
当時のことを思い出しながら、空を見上げて、俺は続ける。
「傷付いてる灯璃を見て、どうにか元気付けてあげなきゃ、元気付けてあげなきゃって思いが先行した。それが結果的にお前を不安にさせてしまってた。たぶん、自分じゃ気付いてなかったけど、俺も俺で、灯璃のこと避けてたんだ。本当に、今まで通り接していいのかわからなくて、怖かったから」
「………………」
「けど、そんなことを思わなくてもよかった。必要だったのは今まで通りの自分で、灯璃と一緒に泣けばいいだけのことだったんだ」
「なりくんっ……」
「灯璃の傍にいるだけでよかった。ごめん。ほんと、気付けなくて」
「っ~……!」
灯璃は泣いてた。
泣いてる状態で、俺に身を預けてくる。
俺も、そんな彼女の体をそっと抱き締め、目の前が滲むのを感じた。
「……もっと察しのいい奴だったら、きっとこんなことになってなかったんだと思う。ごめん。ごめんな、灯璃……」
「そんなの……いいよぉ……! 私が好きなのは……察しが良くても……悪くても……なりくんただ一人だからぁ……!」
「っ……」
「私の方こそ……ごめんね。なりくん……すごく気を遣ってくれたのに……勝手に不安になって……悩んで……遠ざけちゃって……」
「それは俺が悪かっただけだから……。こっちの方がごめんなんだよ……」
「ううん……。私の方が――」
「いや、俺が――」
どっちが悪いのかをひたすら謝りながら続ける。
続けて、しまいにはお互い笑ってた。
俺たちは結局のところ、二人して悪かったんだ、と。
それで――
「……灯璃。その……さっきの告白の……返事なんだけど、さ……」
「……うん」
「俺、灯璃のことが好きなんだ。えと、だから……今さらではあるけど、つ、つつ、付き合って……くれる……かな?」
「……ふふっ」
「――!?」
な、なぜ笑って!?
「あ、あの……灯璃さん?」
「ほんと、今さら(笑)」
「え――」
戸惑ってるうちに見つめていた灯璃の顔が一気に近くなった。
そして、唇に伝わる柔らかい感触。
そう。これは……キスだ。キスだった。
「なりくん」
「はっ、ふぁ、は、はい……!」
唇が離れて、俺は可愛らしい小さな声で名前を呼ばれる。
バクバクとあり得ないくらいに心臓が跳ねていた。
「私も……なりくんのことが好き。私を……なりくんの彼女にしてくれますか?」
世界は、きっと俺たちが思ってるよりも単純で、本当は簡単なものなんだろう。
難しく考えて、ぐちゃぐちゃにして、わからなくさせてるのは自分たち自身なんだ。
俺は、瞳に溜まった涙をゴシゴシ袖で拭って応えた。
「はい」と。
最大限頷き、一生守り切ると決めた彼女のとこを強く抱きしめながら。