小さい頃、灯璃とはよく一緒に海へ行ってた。
海水浴はもちろんのことだけど、それ以外にも砂浜で綺麗な貝殻を集めたり、面白い漂着物を探してみたり、何かと俺たちは海に馴染みが深かったんだ。
それは言うまでもなく、灯璃のおばあちゃんちが海の近くにあったからだろう。
海の近くにあって、俺と灯璃が遊びに行きたいと言うと、おばあちゃんはいつも快くついて来てくれた。
二人が危ない目に遭わないように、と――
「――しっかし、ほんと久しぶりだ。こうやって砂浜までの道歩いてくの。何年ぶりだろ」
「うん。ほんと。私もしばらくここ歩いてなかった。たぶん、小学校以来かも」
海までの道を歩きながら、懐かしさに浸る。
今は梅雨前で、言うなれば初夏と呼ばれる季節頃だ。
暖かめな気温を、浜風がどんどんと流していく。
滲み始めてた汗も、そのおかげで少しだけ引いていってる気がした。涼しい。
「昔はここさ、ダッシュで走ってたよな。ほら、特に浜風感じられるから、『海近いぞ!』みたいな気持ちになって、色々昂っちゃって」
「ふふふっ。懐かしすぎ(笑) それで成哉、一回こけたことあったよね?」
「ああ。あった。あん時は最悪だったな」
「これから海で遊ぼうって時だったのにね(笑) 膝擦りむいちゃって断念。私は成哉のママたちと一緒に楽しんだけど」
「俺は灯璃のばあちゃんと家で留守番ってね。結構気落ちしたから覚えてるわ。まあ、その後家にあったアイスキャンディーやけ食いしてやった」
「それで、お腹も壊しましたー、と」
「ぐっ……! よ、よく覚えてんなお前……!」
「あははっ! そりゃそうだよー(笑) 何やってんだかーって感じだったし」
「っ……」
……ほんと、よく覚えてる。灯璃は覚えてるんだ。細かいことまで、しっかり。
「……けど、結局それが最後だったよね。私たちが一緒に海行こうとしたの」
「……。ま、まあ、な」
「何だかんだその年の夏が終わって、秋は海に行かなかったし、冬は寒くて無理だった。中学生になっても……色々あったから」
「……」
「だ、だからね、私、今日こうしてまた成哉と一緒にここ歩けて嬉しいんだ。え、えっと……その、も、もう……無理かな……とか……思ってたし……」
「灯璃……」
「……ほんとに……ありがとね。私のこと……見捨てないでくれて」
「……! そ、そんなのっ――」
言いかけた刹那だった。
唐突に浜風が強く吹き付け、俺は被っていたキャップを飛ばされてしまう。
「げっ!」「あっ……!」
マジかよ……!
何かに導かれるみたいにして、ふわふわ、ころころ流されるキャップ。
俺は反射的に灯璃の手を取り、それを追いかけた。
小さかった時と同じように。
「ったぁー……! くそぉ……。何なんだよ急に。想定外だっての」
「はぁ……はぁ……。だねぇ……」
「ご、ごめん。大丈夫か、灯璃?」
「う、うん。突然でびっくりしたけど、大丈夫」
息を切らしながらも、笑みながら返してくれる灯璃。
俺はどうにか確保できたキャップを拾い上げ、砂埃を払ってまたそれを被る。
眼前には、懐かしい砂浜が広がってた。