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第22話 海、行こ……?

 美代姉ちゃんとのお風呂イベントを乗り越えたその翌朝。


 俺は灯璃に対して色々な決意をしたわけだが、どうにも本調子を出せないでいた。


「……むぅ……」


 ――き、気まずいっ! しかも、なんか灯璃さん、起き抜けから俺のことジト目でずっと見てくるしっ!


「え、えっと……。あ、あの、灯璃……さん? どうかされましたか……?」


「…………何でもないけど?」


 嘘じゃん! それ、絶対嘘じゃん!


 ぷーっと頬を膨らませながら、美代姉ちゃんの作ってくれた朝食をモグモグ食べてる。


 きっと俺が何かをしてしまったからこんな風になってんだろうけど、それがまるでわからなかった。


 美代姉ちゃんも美代姉ちゃんで、朝食を作ったきり他の家事があるからってリビングまで戻って来ないし。


「いやー、ごめんごめん。洗濯物溜まっちゃってて~」


 って考えてたら戻って来た。


 気まずかった二人きりの朝食の席に、なんとか明るさがもたらされる。


 とりあえずは安堵だ。よかった。


「どう? 朝ごはん美味しい? 久々に自分で全部作ったんだけど」


「あ、う、うん。美味しい美味しい。さすが美代姉ちゃんって感じ。多才です」


「ふむふむ。そかそか。成哉は素直でよろしい。灯璃ちゃんは? お姉さんの作った朝ごはん、お口に合うかな?」


「………………うん」


「って、テンション低すぎだしぃ。もしかして、朝言ったことまだ怒ってる?」


 ん? 朝言ったこと? 何だそれ?


 よくわからないが、灯璃も灯璃で、なぜか美代姉ちゃんのこのセリフを聞いた途端うろたえ始めた。


「べ、別にそんな――」


「あー。もう、わかってるわかってる。昨日はごめんって。勝手に抜け駆けして悪かったと思ってる。灯璃ちゃんに言わずに成哉くんとお風呂入ったこと、すごーい反省してるから」


「は……!?」「だっ、だからそれはどうでもよくてぇぇ!」


 な、何だこの人……!? もしかしてそれ、言ってなかったのかよ……!?


「どうでもいいってのは嘘じゃん? 成哉くんとあんなところやこんなところを洗いっこしたって言ったら灯璃ちゃん、めちゃくちゃ動揺してたのに」


「っっっ!!!」


「今だってすっごく不機嫌だったじゃん? やきもち焼いてるって素直に言えばいいのに~(笑)」


「ちょっ、ちょっと待てぇ!」


 椅子から立ち上がって美代姉ちゃんを指差す俺。


 で、勢いそのままに続けた。


「風呂のことは昨日入る前に言ってたじゃん! 灯璃にも許可取ったって!」


「んぇ~? 何のこと~?」


「がっ……!」


 わざとらしく視線を俺から外してくねくねする美代姉ちゃん。


 イライラしてたけど、露骨過ぎて呆れの感情が沸々と湧いてくる。く、くそぅ……!


「通りでおかしいと思ったんだよ……! あっさりと美代姉ちゃんとの入浴したのを灯璃が許すなんて……!」


「えぇ~? どしてどして~?」


「だ、だってそりゃ、灯璃、俺のこと……」


「俺のことぉ~???(笑)(笑)(笑)」


「ぅぐっ……」


「なになに~? ねぇ、何なの~? 灯璃、俺のこと何~?」


「な、何でもないっ!」


 吐き捨てるように言って、俺は席に着いた。


 で、並べてある朝食を勢いよく口に運ぶ。


 ちくしょう……! 美代姉ちゃんはうざったくて仕方ないのに、作られたご飯だけは超おいしい……! ちくしょう……! ちくしょう……!


「むぐぐぐっ……! ……ん?」


 そうやって食べてたら、隣にいる灯璃が俺の服の裾を掴んできた。


 で、ちょいちょい引っ張ってくる。


「……成哉。私が……何?」


「ぶっ!」


 スルーしてくれると思ったら、当の灯璃さんまで俺の発言について追及してきた。


 食べてたのに、思わず咳き込んでしまう。


「げほっ、げほっ! え、えぇっ!?」


「私、成哉に何か言ったりしたかな……? あと、これ飲んで?」


「っ……! あ、ありがと……」


 心配そうにしながら問いかけてき、灯璃は俺にお茶の入ったコップをくれた。優しい。


 それをゆっくり飲んで、彼女の方へ向き直る。


 ジッと俺を見つめ、確かな答えを待ってるようだった。


「そ、そのっ、と、特に何もないよ! 美代姉ちゃんとはいえ、女子大生と一緒にお風呂とか、灯璃に変態と思われないかなって考えただけで……! ふ、深い意味はない! 全然っ! これっぽっちも!」


「ほんと……?」


「う、うん! だから……あ、安心してくれっ!」


 俺の嘘に灯璃はわかりやすく安堵してくれた。


 表情が柔らかくなり、「よかった」と微笑みかけてくれる。さっきまでの不機嫌さんはいったいどこへといったところだ。


 ……というか。


「っ!」


 さっきから灯璃が不機嫌だったのは、そもそも美代姉ちゃんが悪いんじゃないか。


 睨みを利かせると、またすぐに口笛を吹いて俺から視線を逸らした。


 ほんっとこの人は……。


 ため息をつき、みそ汁に口を付ける。


 ……灯璃に好きだって伝えようと思ってるのに、どうしてこう危うい種をまいてくるかね。わざとやってんのかな。もう。


「まあまあ、なら、とりあえずお風呂の件はいいとしてさ! 二人とも、今日はどんなご予定なの? 日曜日ですが!」


「……予定って……。特に決めてはないけど……。なぁ?」


 灯璃に視線をやりながら言うと、こくこくと頷いてくれる。


 昨日、美代姉ちゃんの話を聞いてから、灯璃のこういう一つ一つの仕草が可愛く見えて仕方なかった。パジャマ姿もすごくいい。


「だったらさ、久しぶりに海とか行ってみたらどうよ? ほら、昔小さい時、二人ともよく遊んでたじゃん?」


「いや、海て。さすがにまだ早いでしょうよ」


「入るのはね。でも、海風に当たったり、軽く海水に足だけーとかならいいんでない?」


「……まあ、それなら確かに……」


 どうだろう。


 俺は特に日焼けとか、潮風で髪の毛がーとか、そういう心配はないのだが。


 灯璃からしてみれば、そういうのが大丈夫なのか気になる。


 昔よく行ってたとはいえ、今はもうすっかり女の子なんだし。


「……うん。いいよ。なりくんと海……行きたい」


「……! そ、そう?」


 なら決定か。


 というより、今灯璃、俺の呼び方……。


「うんうんっ。では、決定ね。いやー、お姉さん嬉しいな。二人がまたこうやって仲良くしてくれてー」


 ニマニマする美代姉ちゃんを若干警戒しつつ、俺は落ち着かない胸を何度も撫でるのだった。


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