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第20話 お姉さん、入浴の邪魔をしてくる

「ふぅ……」


 夜遅く。かつて灯璃のおばあちゃんが住んでた家の風呂場にて。


 俺は一人、ため息をついていた。


 理由はもちろん、どうしてこうなった、という思いからだ。


 あの惚れ薬、本当は俺のものじゃないんですけどね。


 所有者は間違いなく灯璃で、けれどもあの状況では俺のものだと言って庇わざるを得なかった。


 まあ、それゆえに今こうして俺はこの家に泊めさせられてるわけなのだが……うん。


 別にここは元々灯璃のおばあちゃんちだったわけで、小さい時に散々お泊りしてたから嫌だってわけじゃないんだ。


 何が嫌かって言うと、美代姉ちゃんがいるってことに、うーん……という思いがある。


 これもまた彼女のことを人間的に嫌ってるってわけじゃないんだよ?


 そうじゃないんだけど、俺と灯璃の関係をやけに突いてくるし、煽ってくるし、何かと探ろうとしてくる。


 こっちだって惚れ薬のことがあって灯璃に対しては慎重になってんだ。


 灯璃には現状言えないことがあって、丁寧に丁寧に接してるっていうのに、それを無視してズケズケ言ってくるから困る。


 美代姉ちゃんの言うことに反論とかしてたら、こっちがいつか灯璃の前でボロを出しそうだ。


「……まあ、どうせ明日までだしな……」


 明日の昼食後辺りに俺たちはここを発つ。


 その後どこに行くかは決めてないが、当初の目的だった懐かしい場所巡りでもすればいいだろう。うん。それでいい。


 しかし、まさか二日連続で土日とも灯璃と一緒に居られるとは。


 そこだけは素直に嬉しかった。美代姉ちゃんだけは申し訳ないが蛇足でしかないけど。


「よいしょ、っと」


 頭の中で色々と考えつつ、俺は湯船から上がる。


 頭を洗って適当に風呂場を出よう。あまり長居しすぎるとのぼせるからな。


 そう思い、シャワーから湯を出そうとした刹那だった。




 ――コンコン。




「――……!?」


 背後、つまり風呂場の扉が何者かにノックされる。


 びっくりして反射的にうしろを振り返ると、そこにはぼんやりとしたシルエットが浮かび上がっていた。


 まさか……。


「だ、誰だ……?」


「あっはは。もうわかってるくせに~。私だよ、私」


 えぇ……。


 聞こえてきた声は美代姉ちゃんのもの。


 いや、なんとなくシルエットを見て予感はしてましたけど、何をしに来たんだこの人は……?


「余計な問答をするつもりはないんだけどさ、成哉くん。とりあえず私が今から風呂場へ入ることを許可してくれないかな? はいかイエスで答えて?」


「無理ですね。あと、本来あるはずのノーはいったいどこに行ったんですか? 見当たらないんですが?」


「あるわけないじゃんんそんなのー。てか、やせ我慢しなくてもいいんだよ? こんなチャンス滅多に訪れないし、今ならおっぱい大きめの現役女子大生なお姉さんと入浴できるんだ。自分の気持ちに正直になった方がいいよってことで、はいかイエスにしたの。優しくない? 私」


「先輩、良いこと教えといてあげます。世の中優しさが時に迷惑なことに変わったりもするんです。今回はそれの最たる例ですね。現状、迷惑かな、と」


「いやいや、そんなこと言っちゃって。しょうがないんだからー。お邪魔しまーす(扉を開けながら)」


「って、おおぃいい! 何元気よくガチャってんの!? 迷惑なことになりうるって言ったよね!? 今ちょうど言ったばっかだよね!?」


「うふふっ、はいはい。照れ隠しっと」


「うぜぇ! 今すぐやめろその謎ポーズ! ニヤケながら胸の前でハートマーク作んな!」


「ずっきゅん♡」


「ずっきゅん、じゃねぇよ! ぁぁぁぁ、もうっ!」


 口ではそう言いつつも、俺はしっかりと風呂場へ入って来た美代姉ちゃんから目を逸らした。


 悔しいが、彼女のカラダが「えっちっちのーち」なのは認識してる。


 間違っても見てはいけなかった。普通に全裸で、タオルとか使わずに入って来たからこの頭おかしい


「灯璃は……!? 灯璃は何してんの……!?」


「んもー、本当に灯璃ちゃんのこと好きなんだからー」


「ち、ちがっ、それは……」


 そうじゃない、と言いかけて止める。そうじゃないことはない。


 俺は灯璃が好きだ。そればかりは事実だ。でも、言えるはずもなく……。


「って、そんなことどうでもいいから! とにかくなんであんたがここに入って来てんだよ! 出てってくれって! 灯璃に余計な誤解させたくないから!」


「余計な誤解とは何なんでしょうねぇーw」


「余計な誤解って言ったら余計な誤解だよ! 俺が連れ込んだとか、マズいことしようとしちゃってるとか、色々!」


「事実だよねw」


「事実じゃないやい! ふざけんな!」


 どう考えてもこの人が勝手に入って来たんだ。俺は悪くない。


 そういうわけで、もうこっちからタオルで目隠しし、彼女を追い出そうと試みる。


「ひゃんっ♡ もうっ、成哉くんのえっち♡ どこ触ってるの?」


「知らん! あと、タオル越しに触ってるからこれは触ってるうちに入らない! ノーカン!」


「勝手に自分専用ルール作らないでよ。私、大事なお話しに来たのに」


「はいはい。どうせそんなこと言ってからかいに来ただけでしょ? 知ってんですからね」


 俺の言葉に美代姉ちゃんは首を横に振る。そして――


「いやぁ、そうじゃなくてね。あの惚れ薬、実は成哉くんのものじゃなくて、灯璃ちゃんのものだったんでしょ、ってことが言いたくて」


「ほら見たことか。くだらないこと――って、え……?」


 気付けば、俺は頓狂な声を出して疑問符を浮かべていた。


 あまりにも驚いたから。


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