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第12話 久しぶりで控えめなお誘い

 事件とか事故ってのは、大概予期してないタイミングで起こる。


 良いことであれ、悪いことであれ、本当に突発的に。


 ただ、そういうのは大抵悪い意味での事件や事故ってのが多い。


 良い事件なんて、そうそう聞かないし、今までそういう経験も正直に言ってあまりない。


 だから、今回俺の身に起こった事件ってのも、良いことではないんだと思う。




「な、成哉! きょ、きょきょ、今日、放課後時間ある?」




 俺を避けてるはずの灯璃が、こうして屋上までやって来て、こんなことを言ってくるんだ。


 きっと良いことな訳がない。


 何か誘わないといけない理由があって、俺を利用しないといけない理由があって、それで誘ってきてる。


 変な期待をするだけ無駄。わかってる。


 期待すればするだけ、俺は後で落ち込むことになるんだ。


 あぁ、灯璃が俺を誘ったのは●●がしたいだけだったんだな……みたいな感じでさ。


 だから、もう念を入れて期待はしない。


 利用理由があって、俺を誘ってるだけ。こう考えとけば不幸になることはない。心穏やかでいられるわけだ。


「おい、成哉。夕凪さん、ああ言ってるぞ。何黙り込んでんだ?」


 灯璃へ言葉を返す前に、傍にいた雄太が肘で俺の腕を突いてくる。


 わかってる。


 小さい声で言い、俺は咳払いをした。


 で、灯璃の方をしっかりと向く。


「ある……けど、何だ? どうかしたか?」


 軽く首を傾げながら問うと、灯璃は少しもじもじして、「あ……う……」と言葉を濁す。


 顔も赤かった。


 ……いや、これ。もしかして灯璃……俺のこと……。


 ――っと、待て待て! ダメだ! 止めろ! そこから先の推測は危険地帯。


 落ち着いて冷静になるんだ。心の中で深呼吸。スゥハァ。


 あくまでも俺は灯璃と疎遠関係を解消させたわけじゃない。というか、そもそも疎遠関係なんてものもきっちりかっちり結んだわけじゃないけど、とにかくつい最近まであまり仲が良くなかったんだ。


 それなのに……、そ、その……灯璃が俺のことを好いてくれてるなんて……そんなこと、あるわけ――


「な、無い!」


「え……!?」


 溜め込んでいたものを吐き出すかのように、もじもじしていた灯璃が大きめの声でそう言う。


「な、ない……? ないってのは……いったいどういう?」


 つい聞いてしまった。何がないと言うんだ。


「や、やっぱり何でもない、の無い。ご、ごめんね。いきなり現れて変なこと聞いて。何でもないです。私みたいな微生物、すぐにここから消えます。さよなら」


「え、えぇぇ!? い、いやいやいや、ちょっと待って灯璃!?」


 驚きながら、俺は踵を返す灯璃に待ったをかけた。


 絶対に何かあるだろ。ここまで来て何もないとかあり得ないだろ。無いのは俺に対する恋心とかでいいんだよ! 現実的にさ!


「もしかして、気使ってくれたか? 放課後何か用事があるんじゃないかって」


「う……うぅ……」


「だったらそこは気にしないでくれ。予定とかそういうのはない。暇だ。全然暇。何かに誘ってくれるなら喜んで行く」


「……そ、そうじゃなくて……わ、わたっ、わたしっ……」


「むしろ、俺は灯璃と一緒に過ごしたいし、放課後遊びたい。久しぶりにどっか行こう。ボーリングでもカラオケでも何でもいい。バッチコイ!」


「……!」


 ノリ良く自分の胸を叩きながら言うと、背を向けてた灯璃は自分から俺の方へ振り返ってくれた。


 そして――


「……い、今の言葉……本当に……?」


 不安げに、けれどもどこか希望を胸に抱いてるような、ドキドキ感をこっちに感じさせながら聞いてくる幼馴染さん。


 俺は力強く頷いた。暇で、時間がある、と。


「だ……だったら……おけ……きたい……」


「……?」


「か、カラオケ……! い、行き……たい……!」


「……! カラオケ……か! うん! 了解! わかった! 一緒に行こ!」


 久しぶりだ。灯璃とカラオケとか。


 俺は嬉しくなり、ついつい幼馴染の手を握ってしまう。


「じゃあ、放課後のチャイムが鳴ってすぐ、校門付近の桜の木の前集合でいいか?」


「う、うん……!」


「カラオケボックスはあそこでいいよな? 本屋近くの【ボンボン】!」


「うん……! うん……!」


 髪の毛を揺らして、俺同様嬉しそうに頷いてくれる灯璃。


 そんな幼馴染を見て、さらに幸せな感情が湧き出てくる。


 決まりだ。


 放課後、俺と灯璃は二人きりでカラオケハウスに行くことになった。


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