始まりはとある日のことだった。
「はい、
「……え……!?」
何でもない平日の朝。学校に行くために玄関を出たところでだ。
それまでずっと不仲だったはずの幼馴染、
「え、な、何なんだ……!? 灯璃が俺に弁当なんて……」
「面倒くさいリアクションはいいから、早く受け取るの! ほら、はい!」
言って、俺に弁当袋を強引に押し付けてくる灯璃。
怪しさ以外見つからない。
「……お前、まさか変な薬でも入れて俺を殺そうとしてるんじゃ……!?」
「そ、そんなわけないでしょ!? く……くすりは……ま……まちがって……ないけど……」
「? なんか言ったか?」
「な、何でもないっ! いいからちゃんと食べるのよ!? 絶対、絶対だからね!?」
「あ、ちょ、ま、待てよ!」
俺の言葉を無視し、灯璃はスカートを翻して走り去っていった。
……何のつもりなんだ……?
訳が分からなかったが、俺もとりあえず歩みを進め出すのだった。
〇
灯璃との関係は、小学校の頃にまでさかのぼる。
幼馴染としてはよくあるやつだ。家がたまたま近くて、親同士の仲がよくなり、それで関係が続いていくパターン。
黙っていても親が灯璃の話をするし、パパさんやママさんの話をする。
そういうわけだから、たとえ俺たちの仲が良かろうが悪かろうが、簡単に縁を切れない間柄になるのは当然だし、現実問題俺と灯璃はそのことについてよく愚痴を互いに言い合ったりしていた。
「パパとママが成哉のおじさんおばさんと仲良くなかったら、とっくの昔にあんたとは疎遠になってたんだから」
「間違いないな。俺もオヤジとお袋がお前んとこのママさんたちと仲良くなかったら、とっくの昔に疎遠になってたと思う」
不仲の原因はよくわからない。
俺の方から特段嫌う理由があるというわけではないのだが、気付いた時には灯璃が俺をウザがるような態度をよく取っていた。
そうなると、俺としても好かれていないのにベタベタ付きまとったりだとか、一方的にフレンドリーに接したりだとか、そういうことはする気も失せてくる。
押し付けるような言い方をするが、このあまりよくない関係性を作り出しているのは灯璃だ。決して俺じゃない。
むしろ、どっちかと言えばあいつとは仲良くしたいというのが本音でもある。
外見は色素の薄い茶髪をいつもポニーテールにしており、目元もくっきりしているからハーフの美少女だと思われがちで文句のつけようがないし、性格の方だってきっちりしていて、時折見せるポンなところがまた可愛い。
結婚したら絶対いいお嫁さんになるはずだ。
だから、何を間違えたのか、なんてことは時折考えたりするもんだ。
ほんと、世の中うまくいかないものである。
朝、弁当をくれた時は結構嬉しかったりしたんだが、どうせ誰かに作りたいから練習台として俺を選んだとか、そんなところだろう。
一応食べるけど、色々と複雑な心境だ。
「おーっす、成哉。おはよーさん」
「おー、おはよ」
そうこう考えながら歩いているうちに、俺は学校へ到着。
教室に入り、いつも通り数少ない友人の一人である。雄太――
朝今日もこうして変わり映えしない日常が始まる。
呑気に椅子に座って軽くあくびをした。
これからどんなことが起こるのか、まるで知らずに。