「まだ目覚めませんか?」
困惑する美少女に声をかけたのは、神を名乗る白い少女だった。
さっきまで離れた場所で漂っていたはずなのだが、今は美少女の目の前にやってきており、目を閉じるインフェリアイの顔を覗き込んでいた。
「インフェリアイがアナタに話した過去のこと、教えてください」
そして少女の真っ白な目が美少女へと向けられる。
「……わかった」
しばし無言で見つめ合い、美少女は観念したのか、ため息とともに頷いた。
「わたしがインフェリアイから聞いたのは、インフェリアイが元々王都の孤児院にいたってことよ――」
そうやって美少女は、インフェリアイから聞いたことを少女に話した。
「なるほど、そんな記憶が……」
少女は顎に手を当てて僅かに考える素振りを見せる。
そしてしばらくして、背後でなにか取っ組み合っているラロックとリベルラに声をかける。
「インフェリアイに
「あっ、そういうこと……」
美少女は以前インフェリアイが語った記憶、そしてその時以外の記憶が全く無いということに合点がいった。
ラロックとリベルラ、インフェリアイを攫った二人の少女。攫った理由はまだわからないが、あの二人がインフェリアイに干渉して記憶を植え付けた。本当はインフェリアイには記憶そのものが無かったのだ。
「ふっふっふ……。気づかれたのなら仕方がない。そう! このわたし! 異界探偵局所属、全世界最強の魔法使いのリベルラ様の仕業なのだよ!」
「んだよそのテンション。うぜえな」
「もうっ、ラロックたらあ」
「てめえのキャラがいまいち分かんねえわ」
またもや取っ組み合いを始める二人。
「んっ……」
そんな中、今まで意識の無かったインフェリアイの声がこぼれる。
「インフェリアイ⁉ 大丈夫⁉」
美少女がインフェリアイの顔を覗き込むと、薄く目を開けたインフェリアイと目が合う。
「美少女……?」
「目が覚めましたね」
美少女は起き上がろうとするインフェリアイの身体を支える。
ゆっくりと身体を起こしたインフェリアイは美少女にもたれかかるようにソファに座る。
「お。起きたか」
ラロックも美少女とインフェリアイのいるところへやって来る。
ちなみにリベルラは端っこで伸びていた。
「気分はどうだ?」
「……スッキリしたのかしら……。でもまだ少し、記憶が……ごちゃごちゃして……」
軽く頭を振ったインフェリアイが大きく息を吐く。
「思い出したのなら十分ですよ」
白い少女がインフェリアイの目の前で手を振る。
「すぐに元に戻ります」
その様子を見たラロックが鼻を鳴らす。
「あんたもなかなか強引だな」
「なにをしたの?」
美少女はラロックに目を向ける。
「強引に無くなった記憶を思い出させて、そんで今強引に散らばっている記憶を繋いだんだよ」
その言葉を聞いて、美少女は少女を睨みつける。
「大丈夫よ、楽になったから」
美少女の頭に手を置いたインフェリアイが、前で座るラロックに目を向ける。
記憶を思い出したからなのか、インフェリアイの表情は明るかった。
「そんじゃあ説明してやんよ。なんで劣った眼を攫ったのかってのをな」
美少女は唾を飲み込み、インフェリアイは錫色の瞳を僅かに細め、少女は表情を変えずにラロックを見る。
軽く笑ったラロックは足を組んで口を開く。
「あたしらが劣った眼を攫った理由。その依頼についてだ――」