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十三話 神

 突如、自分は神と名乗ったその少女に、美少女とインフェリアイは訳が分からず首を捻っていた。

 そんな二人に関係なく、神と名乗った少女はふわりと浮き上がり二人の前にやって来た。

「アナタがインフェリアイですね? そしてアナタが美少女ですか」

 風が吹けば掻き消えてしまうようなか細い声が二人の頭の中に入ってくる。その奇妙な感覚に、二人は僅かに顔を顰める。

「ああ、すみません。声を張るのが苦手なので半分だけ、直接アナタ方に届けています」

 訳の分からないことを言い出したこの少女に、美少女は怪訝な顔をする。

「直接? ていうかその前に、なんでわたしを見ても平気なの?」

 傍から見れば訳の分からないことを言っているのは美少女の方だが。

「神だから、ですかね」

 少女は特に表情を変えずに淡々と答える。

「はあ……?」

 なにを言われても理解不能という美少女の代わりに、インフェリアイが横から質問をする。

「そもそも神とはどういうことなの?」

 少女が美少女から、インフェリアイに視線を移す。すると少女が僅かに目を細める。

「神は神ですよ。インフェリアイさん、まだ思い出していないのですか?」

「思い出すって……なにを?」

 そこで少女はため息をつく。人間離れした容姿、言動の中、再び垣間見た人間のような姿が、二人のこの少女に対する見え方を定めさせない。

「事前に聞いていましたが、なかなか厄介というか面白いですね。それでは一つ質問です。インフェリアイは美少女と出会うまではなにをしていましたか?」

 その問いを聞いた時、インフェリアイの頭の中が一瞬にして真っ白になる。

「なにをって……なにをしていたの……?」

「え⁉ わたしに話してくれたよね?」

「ええ……話したわ……だけど、なにも……頭の中が真っ白になって……⁉」

「大丈夫⁉」

「邪魔ですね……」

 そう呟いた少女はインフェリアイの目の前で手を軽く振る。

 段々とインフェリアイの吐く息が荒くなっていく。

 目の前で苦しそうに呼吸をするインフェリアイは縋りつくように、美少女の腕を掴む。骨が軋み、爪がくい込み腕から血が流れ、その痛みに美少女は顔を顰める。インフェアイの手を振り解くことができず、ただただ痛みに耐える。

「いっ――! しっかりして……よ!」

「凄いですね」

「呑気なこと言わずになんとかできないの!」

「できますけど、ワタシ的にはアナタのことなどどうでもいいので」

「はあ⁉ なによそれ! ――ぁぐっ」

 血が滴り落ちて美少女の細腕が悲鳴をあげる。もう間もなく折られるだろう。いや、骨が砕け二度と腕が機能しなくなるか。

「腕がっ。ねえインフェリアイしっかりして!」

 間もなく限界を迎える美少女の叫びはインフェリアイには届かない。

 そんなインフェリアイが唸り唸ってポツリと漏らす。

「怖い……」

「大丈夫ですよ」

 その瞬間、少女がインフェリアイの顔の前で軽く手を振る。するとインフェリアイは糸が切れたように力なく、ぐったりと倒れてしまう。

 インフェリアイの手が離れた美少女の腕が変色して腫れていた。腕の感覚は辛うじて残っており、激しい痛みが美少女に襲い掛かる。

「ぃ――っ」

 脂汗を垂らしながら蹲る美少女の腕を少女が軽く撫でる。

「聞かせてください、彼女のことを」

「……はあ? あんたいったいなんなのよ!」

 息を整えた美少女がにらみつける。腕を治してくれたはずなのだが、感謝の気持ちよりも少女の行動に対する気味の悪さが勝る。

「インフェリアイからなにを聞いたのか。インフェリアイに植えられた偽りの記憶、アナタは聞いているんですよね?」

「質問に答えなさいよ!」

 美少女が少女へと掴みかかる。さっきまでもう腕として機能しないのではないかと思われた腕が元の綺麗な状態に戻っている。

 少女は気にせず、倒れ伏しているインフェリアイを浮かび上がらせて巨大な揺り椅子の上で寝かせる。

「仕方ありませんね、インフェリアイもしばらくは目を覚まさないでしょうし情報交換でもしましょうか」

 美少女の腕をやんわりと払う。直接触れいるわけではないのに、なにかに動かされている奇妙な感覚。

 少女が傍らに現れた一人掛けのソファがテーブルを挟んで二台を手で示す。

「え……、今まで無かったわよ」

「アナタは慣れているものだと思っていましたよ」

「どういう意味よ」

「それも含めて、神であるワタシが説明致します」

 だから座って下さいと、少女は美少女を促す。

 さっきからなにがなんだか分からない美少女が、インフェリアイを気にしながらソファに身体を沈める。

「まずはこの世界についてか、それともインフェリアイについてか、どちらから聞きたいですか? もちろんアナタが気になること他のことでもいいですよ」

 向かいのソファに座った少女が手を広げて問いかける。

 ハッキリ言うと美少女には少女の言っていることにいまいちピンと来ていなかった。だがただ一つ、インフェリアイについてだけは聞きたかった。

「もちろんインフェリアイについてよ」

 一緒に旅をする仲間のインフェリアイ、出会ってまだひと月も経っていないし、色んな場所を旅をしたとは言い難いが、それでも美少女にとっては始めて自分を見ることができた大切な仲間だ。

 インフェリアイ自身が話してくれた、美少女と出会う前の話、さっきはそのことを思い出せないと言ったのだ。それにも無いと言っていた。

「即答ですね」

 少女が初めて美少女を見て表情を変えた。

「当たり前、それにさっきなんでインフェリアイが苦しんでいたのかも気になるし」

 美少女は早く話せと言いたげに腕を組む。その様子を見た少女が僅かに口角を上げる。

「それでは、お話致しましょう」

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