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間の話 4

「それでぇ、二人はどうしたのぉ?」

 透明感のある純白の髪を持ち、気品のある隻腕の女性――ティネケが左手を頬に当て、おっとりとした口調で首を傾げる。

「あたしらが侵入してんのがバレたんだよ」

「結構目立っちゃったからねー」

 少し焦げたリベルラが空に手を突っ込み、保温機能付きの水筒を取り出して、温かいお茶をすする。

「あらぁ、二人向かったのは魔力が吸われる世界だったわよねぇ?」

「そうなんだよ、ぶっ飛ばそうにもぶっ飛ばせねえ」

「紛い物でも相手は神だものねぇ」

 それなら仕方ないわねぇ、とティネケの間延びした声と、リベルラがお茶をすする音が聞こえる。

「仕事失敗でいいか?」

 ラロックはなんか面倒になってきた。

 魔力という戦闘能力を奪われた状態では、いくら各々の世界で最強と謳われたラロック達でも神には勝てない。

 今まではバレずにコソコソすることができたのだが、それもバレてしまうともうどうしようもない。

「諦めちゃダメだよ! 思い出してよラロック、私たちは血反吐を吐いてここまで頑張ってきたんだよ!」

「本音は?」

「怒られるのやだ!」

「だよなあ……」

 項垂れる二人を、ティネケは微笑ましそうに見ている。

「困ったわねぇ」

「……慎重にやればバレねえか?」

「どうだろうねえ……」

 そもそも気づかれた理由は本当に騒がしくしたからだろうか? ふとそんなことを思う。

「そもそも気づかれたのってあの場所に行ったからじゃねえか?」

 根拠はないがなんとなくそう思った。

「あの場所ぉ?」

「あの村の住人全員死んでたもんね」

 首を切り落とされた死体に、血飛沫が染める部屋を思い出しながらリベルラが言う。

「あれってあの二人の男がやったんじゃねえの?」

「男は見つけ次第殺さないと行けないわよぉ」

「ちょっと黙っててくんね?」

「もう、意地悪ねぇ」

 口を尖らせたティネケが引き下がる。するとラロックはリベルラとティネケにも見えるよう、魔力を使って空間に文字を書く。

『そもそもあの場所はなにか』そう書いてリベルラに目を向ける。

「なんだと思う?」

「えーさっそく人任せ?」

 ナチュラル舌打ちをしたラロックは魔法でプリンを創り出す。

「おら、答えろ」

「わーい」

 プリンを受け取ったリベルラは、そのプリンを食べずに空へ収納する。

「あの場所はねー、わたしが思うにただの田舎だね」

 リベルラがそう言うと、ラロックは『ただの田舎』と書き足す。

 そして次に書いたのは『あの男二人組はなに者か?』

「武器は持って無かったよな?」

「うん。でも魔力持ってた」

「は?」

「ぐ?」

「そういうことは二人っきりの時にやってねぇ」

「やらねえよ! んなことより魔力持ってるってどういうことだ!」

 近づいてくるリベルラの肩を持つ。

 あの世界は魔力を吸ってしまう世界。あの世界の神などではない限り、魔力を持っている者などいる訳がないはずなのだ。

「そのままの意味だよ。まあ魔力量は一般的な量、わたしたちの魔力量には遠く及ばないけどね」

 どこの世界を探してもリベルラやラロック達異界探偵局の人間程の魔力量を持っている者はなかなかいない。しかし、一般的な魔力量の人間でも、魔力を持たない人間達を虐殺するのは容易い。

「だからあんなに綺麗に切れてたんだな」

 そう言いながら『魔法を使える』と書き足す。

 刃物などで人の首を切り落とすよりも、魔法で切った方が綺麗に切れるし範囲も広い。

「でも、それと神が出てきたのは関係あるのかな?」

「魔力を吸われる世界で魔力を持ってる奴らがいるんだ、少なからず関係あんだろ」

「少ぉし厄介ねぇ」

「ったく。誰かさんのせいでな」

「言い返せないなあ」

 なぜあの二人組の男は魔力を持っていたのか。なぜ神が二人の前に現れたのか。人を一人攫ってくるという単純な依頼だったはずだったのだが、どうも一筋縄ではいかない気がする。

「劣った眼を助けた奴も謎だしな……」

「次見つけたら問答無用でこっちに飛ばすね」

「ああ頼む」

「なにかあったのぉ?」

「そうだったな」

 今になってティネケになにも言っていないことを思い出したラロックとリベルラは、なにがあったのかをできるだけ詳しく説明した。

「あらあらぁ、それは大変だったわねぇ」

 あなたの罪を許しましょう。とでも言いそうな聖母のような微笑みを浮かべるティネケにリベルラは思わず泣きつく。

「うわあああん! ラロックが意地悪してくるよおぉぉ!」

「ラロックちゃん、これからどうするのぉ」

 リベルラを撫でながらティネケがラロックに顔を向ける。

「戻るしかねえよ」

「すぐに戻るのぉ?」

「少し休憩してから戻るわ」

 色々確認してえしな。とラロックは奥に続くドアへ向かうのだった。

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