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十話 互いの焦り

 原生林の出口が見えるのと、インフェリアイ目が見えなくなるのはほぼ同時だった。

 地面を削りながらスピードを落としたインフェリアイは背負っていた美少女をゆっくりと降ろす。

 ふらつきながらも背中から降りた美少女はお礼を言う。

「良かった、見えなくなる前に抜けることができたわ」

「……そっか」

 理解はしていても、やはりインフェリアイの目が見えなくなることにあまりいい気持ちはしない美少女だったが、現状を気にしても仕方がない。

「インフェリアイの言ってた通り街が見えるね」

 辺りの景色を反射して煌めく瞳を先に向けながら柔らかく微笑む。

「ええ、急ぎましょう」

「? うん」

 原生林を抜ける前から少しインフェリアイの様子がおかしい気もするが、それを聞くのは街について一息ついてからにしよう。そう思った美少女だった。


 悪道でもなかったので、特に汚れること無く街に辿り着いた二人は石でできた建物が建ち並ぶ街を少し離れたところで眺めている。

 先日滞在した村よりも街は広く、それに伴い街を行き交う人の数も多い。そんな街の様子を美少女は難しい顔をして見ていた。

「わたし、自信なくなったよ」

「やっぱり広いと人も多いわね」

「うん、顔は隠すけどさ……はあ」

 美少女はカバンから頭巾を取り出すとそれを巻いて顔を隠す。

「あなたの道具で姿を変えるものはないの?」

「あー……無いね」

 一瞬考える素振りを見せた美少女だが、すぐに言い切った。

「わたしの姿形を変えるものはくれなかったよ」

「なんでまた?」

「美少女だから」

「……なんとなく分かる気がするわ」

 別に大した理由ではないのだろう。

「行こっか」

「ええ」

 顔を隠した美少女が先に歩いて街に向かう。インフェリアイは自分が先を歩くと言っていたが、そうしてしまうとどこにもたどり着かない。

 分かってはいたが、街に入った瞬間、道行く人々は美少女に目奪われ、街の通りは水を打ったようになる。

「顔を隠しているのよね?」

「顔を隠しているからまだこれだけで済んでるんだよ」

 美少女と手を繋ぎながらインフェリアイは周囲の様子を窺う、見えなくても視線はなんとなく感じるのだ。

 美少女が歩くと自然と人々は道を開けてくれるので目的地が分かっているのなら便利だ、しかし目的地が分からず、人に聞かなければならないときは。

「すみませ――」

「ぐはっ」「ふぁぁぁぁ!」「ふげhにvdhvj」「あーーー!」

 ……恐ろしく不便だった。

 改めて自分が旅をするのに向いていないことを確認する。インフェリアイもその様子を半ばあきれた様子で見ていた。

「やっぱ変わって!」

 美少女はインフェリアイを先に行かせる。

「すみません。道を聞きたいんですが……」

「ひっ」「ごめんなさいぃぃ!」「お金持ってないヨ」

 こちらも散々だった。

「私ってそんなに怖いの?」

 泣きそうな顔で美少女に顔を向ける。

「うん……まあ……」

 美人に睨まれるとやはり怖い、しかし美的感覚は人それぞれなので、インフェリアイの方が可能性は十分にある。

 その後何度もトライする。

 そして何回目か数えるのを止めた時、立派な牙を携えた狼頭の獣人が「最初に言っとくが俺は美味しくないぞ」と前置きしてから答えてくれた。

「宿屋って言ったかしら? そういう泊まれる場所を探しているんですけど」

「なんだ、あんたら旅人……か……?」

 段々と視線が美少女へとスライドしていく獣人、もちろんインフェリアイにはその様子は見えない。

「はい、旅人です」

「そうか……宿はあっちだ」

 呆けた獣人が指を指す。

 インフェリアイと美少女はその方向に顔を向ける。そっちの方向に宿屋があるのだろう。

「ありがとう」

 インフェリアイに続いて美少女が礼を言い、インフェリアイの腕を引っ張りながらその場を後にする。

 二人が移動した後、その場には倒れ伏した獣人の姿があった。


 獣人が指さした方向へ歩くこと数分、おそらくここが宿屋だろうだろうか、周りの建物より二回りほど大きい建物があった。その建物の大きな扉の横に、掲示板が置いてあり、そこには地図が張り出されていた。

「ここがそうっぽいね」

 美少女が地図を見ながら言った。地図には、現在地の文字の前に宿屋の文字が書いてあった。この宿屋を中心とした地図だった。

「早く入りましょう」

 インフェリアイはとにかく中に入りたかった。

 頷いた美少女は利用客の注目を集めながら宿屋の扉を開く。

 扉を開けた瞬間。

 「ぐっは!」

 とりあえずそこに立っていた利用客が、美少女の顔を真正面から見てしまい卒倒した。

 仕方がない、顔を隠したままだとよく見えないのだ。

 とりあえず宿屋に泊まることができるのか、旅に向いていない二人はお互い違う意味で焦ったのだった。

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