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九話 次の目的地へ

 翌朝、いつもよりぐっすり眠ることができた美少女は、隣で眠るインフェリアイの髪を撫でる。美少女が起き上がった時、インフェリアイを揺らしてしまい起こしてしまったようで、寝ぼけまなこのインフェリアイが美少女の方を見ていた。

 テント内の寝室にはベッドが四つあるが、二人は同じベッドで寝ることを選んだ。ベッドの広さは村の宿のベッドに比べると狭く、なんとか二人で寝ることができる広さだ。

「……おはよう」

「おはよう。お姉ちゃん」

「はえはがほへへはんほ」

 あくびをしながら答えるインフェリアイに笑みを返しながら美少女はベットから降りる。

「朝ごはんの準備するね」

「ええ……ありがとう」

 美少女が寝室から出ていくのを見届けると、インフェリアイは身体を起こす。そして、なぜか痛む身体に首を捻りながら立ち上がる。

 朝食の前に顔を洗おうと洗面所へと向かう。

 顔を洗って目を覚まし、口をゆすいでリビングキッチンへと向かう。

 ドアを引くと、ちょうど美少女がテーブルに朝食を置いていたところだった。

「ちょうどできたよ」

 テーブルの上がやたらとカラフルに彩られている。席に着いたインフェリアイは目を細めてテーブルへと顔を近づける。

「ああ、サラダね」

「なんだかんだで朝ごはんをここで食べるのは初めてだね」

「言われてみれば、そうねえ」

 今までは宿に止まったりテントの外で食べたりしていてた、そしてテントでご飯を食べたのは初めて会った日だけだ。

「まあゆっくり食べようか」

 最後に湯気の立つスープカップをテーブルに置いて美少女も席に着く。

 二人で手を合わせてから食事を摂る。

 みずみずしいサラダに、焼き立てのトーストとクリームスープ。シンプルながらも十分に満足できる朝食だ。

「美味しいわ」

「そう言ってもらえると嬉しいね」

 嬉しそうな顔の美少女はトーストを齧る。サクッという音につられて、インフェリアイもトーストを食べようと手を伸ばす。

「ところでさ」

 トーストを飲み込んだ美少女が言うが、インフェリアイは丁度トーストを齧ったとこなので、スープを飲みながら待つ。

「どうしたの?」

 トーストを飲み込んだインフェリアイは聞き返す。

「旅の目的は決まったけど、この森からどうやって抜けるの?」

「案はあるわ」

 腕を組んで首を捻った美少女に、なんとでもないという風にサラッとインフェリアイは答える。

「えっマジ?」

 テーブルに身を乗り出す美少女から若干身体を引きながらサラダを食べる。

「ええ、マジよ」

「教えて!」

「後でね」

 いたずらに微笑むインフェリアイを見て、口を尖らせる美少女だったがインフェリアイにはそれは見えていない。仕方なく席に戻り、残った朝食を食べる。

 朝食を終えた二人は手を合わせると、それぞれの食器を流し台へと持っていく。

「案ってなに?」

「視力を戻した私が森を上から見るのよ」

「んん?」

 シャワーを浴びに向かうインフェリアイの後ろに続きながら、またもや首を捻る美少女。

「……どうしてあなたもここにいるの?」

 シャツに手をかけたインフェリアイが固まる。

「え、一緒に入ろうよ」

「シャワーは一つしかないわよ」

「大丈夫大丈夫」

「大丈夫じゃないでしょ」

「大丈夫!」

 なにが大丈夫なのか分からず固まるインフェリアイをよそに、美少女は寝間着を脱いでいく。そして固まっているインフェリアイの寝間着も脱がすと、滑らないように、慎重に風呂へと連れていく。

 そしてシャワーを浴びるかと思いきや、美少女はインフェリアイを連れて湯気の立つ、浴槽へと飛び込む。

「ちょっと、汗を流さないとお湯が汚れるでしょ!」

 やっと我に返ったインフェリアイが至近距離で美少女を睨みつける。

「大丈夫だって、テントから出ればお湯は変わるし、ここには私達しかいないから大丈夫!」

「確かにそうだけど……」

 それでも難しい顔をするインフェリアイを困った顔で見る美少女。

「もー、家にいる時ぐらい適当でいいと思うよ」

「……そうね」

 観念したのか、ため息をついたインフェリアイは大人しくお湯に浸かる。

 このテントを家だと言われたことにはツッコまないようにする。

「森を上から見るっていうのはどういうこと?」

 インフェリアイと背中合わせの美少女が自身の腕を揉みながら問いかける。

「どういうことって、言葉の通りだけど」

「そんなことが可能なの?」

「可能だと思うわ。あなただって私の身体能力の高さを知っているでしょう?」

 確かにインフェリアイの身体能力が高いのは知っているが、空高く伸びる木の上にたどり着くことは可能なのかという不安がある。

「知っているけど、そんなの危険だよ!」

 美少女が振り返るとインフェリアイに詰め寄る。

「安心して、あなたの知っている私の身体能力以上よ、目が見えるようになる時、力が溢れてくる感じがするっていったでしょう?」

 インフェリアイが自信にあふれた面持ちで美少女の頭に手を乗せる。

「大丈夫よ」

 その言葉に美少女は苦い顔をすると、インフェリアイの手を掴み一緒に立ち上がる。そのままインフェリアイを椅子に座らせるとシャワーで濡らしてシャンプーで頭を洗っていく。

 心地よさそうに目を細めるインフェリアイを鏡越しに見ていると美少女の表情も自然と柔らかくなっていく。

 シャワーで泡を洗い流す。それが終わると今度はインフェリアイが美少女の頭を洗う番だ。

「痛い痛い痛い痛いっ」

「あら、ごめんなさい」

 なんとか互いの頭を洗い終えると二人は風呂を出る。


 服を着替えた二人はテントの外へと出る。

 美少女がテントを畳んでいる間にインフェリアイは湖に腕を浸けながら上を見る。木々が重なり合ってドーム状になっているため、湖周辺から原生林の上に行くことはできそうにない、一度ドームから出てから上に行くべきだろう。

「どう?」

 テントを畳み終えた美少女がインフェリアイの隣にやって来る。

「この場所からは上に行けそうにないから外に出るわ」

「分かった」

 程なくしてインフェリアイが湖から腕を引き揚げる。

「いけるわ」

 力が溢れてきて、目もよく見える。

 また見えなくなるまで、そこまで時間がない。インフェリアイは急いでドームから出ていく。

 美少女はカバンをさげるとインフェリアイを追いかける。初めて会った時も似たようなことがあったが、その時に比べてインフェリアイの走るスピードは比較にならないほど早い。

 ドームの外に出たインフェリアイは木を蹴って高く飛び上がる。美少女がドームの外に出た頃には、インフェリアイは森の上へと到達していた。

 一番高い木を蹴って空へと躍り出たインフェリアイは森を見下ろす。森の形はオムレツのような形をしていた、インフェリアイ達がいるドームは丁度原生林の中心だったらしい。そして二人が下ってきた川を見つける。川の方角からして、二人は丁度オムレツの端の部分から歩いてきたのだろう。それならば原生林を抜けるのは容易だ、来た方向の直角に動けばすぐに抜けられる。

 そして抜けた先には石造りの建物の街並みが見える。次の目的地はあそこでいいだろう。

 やがて重力に従って落ちていくインフェリアイは、木々を身体を捻って上手く避けながら地面へと向かう。

 インフェリアイが綺麗に着地した場所に美少女が待機していた。

「ほら、大丈夫だったでしょう?」

「う……うん」

 目を瞠りながらも頷く美少女に微笑みかける。

「出口は分かったわ」

 そういいながらインフェリアイは再びドーム内へと戻っていく。

「ちょっと、なんで戻るの⁉」

 美少女もインフェリアイを追って再びドーム内へと戻っていく。


 美少女がドームへと戻ると、インフェリアイが湖に腕を浸けていた。

「また浸けてるの?」

「ええ、方角が分かったから、あなたを背負って走ろうかと思って」

「そんなにすぐに出られそうなの⁉」

「出られるわ、私たちが入ってきた場所が端すぎたのよ」

 原生林の形を把握していない美少女だったが、インフェリアイの説明でなんとなく察する。完全に分からなくても出られるのだからまあいいだろう。

「街も見えたわ」

「マジ⁉」

「ふふ、マジよ」

 眼を輝かす美少女を微笑ましく見ながらインフェリアイは再びドーム内を見渡す。昨日はあんなにいた野生動物はどこにもいなかった。

「忘れ物は無い?」

「バッチリだよ」

「よし、行きましょうか」

 腕を浸けたままインフェリアイは美少女を背負う体勢をとる。美少女が背負ったのを確認すると、腕を引き揚げてドームから出ていく。

 ドームから出たインフェリアイはさっき確認した方向へ向かって駆け出す。

 美少女はインフェリアイにしがみつきながら、流れゆくに目を向ける。こんな速度で移動したことの無い美少女はこの初めての体験に少しテンションが上がる。

「こんなに早く移動できるんだね」

「ええ、しっかり掴まっていなさい!」

 弾んだ声の美少女に反し、少し硬い声で返すインフェリアイ。その声の硬さに違和感を感じた美少女は言われた通り、インフェリアイにしがみつく力を強める。インフェリアイはそれを確認すると更に速度を上げる。


 インフェリアイが美少女を背負い、ドーム内を出ていったすぐ後。二人が出ていった方向反対の木に人影が二つ。

「あの子すっっっっっっっごい綺麗だったね」

 淡藤色のふわりと広がる髪に、翠色の瞳を持つ少女と。

「めちゃくちゃ美少女だったな」

 波打つ杏色の髪に、深碧の瞳を持つ小柄な少女がいた。

「ねえラロック。わたしあの子と結婚したい」

「勝手にしろよ」

「もうっ、嫉妬しちゃって」

「追うぞ、リベルラ」

「あれ? 無視? ついに無視しちゃう?」

 リベルラと呼ばれた少女が身体を傾けながらラロックと呼ばれた小柄な少女の美人系統の大人びた顔を覗き込む。

 傍から見れば仲の良い姉妹に見えるが――。

 ラロックの右ストレートがリベルラの顔面にクリーンヒット、そして湖の中にホールインワン。

「ぶぇっふぁ」

 湖から顔を出したリベルラは、その後身体に起きた変化に首を傾げる。

「あれ? 魔力が回復してくる……」

 リベルラの声はラロックには届かなかったらしく。湖の中に浸かっているリベルラを不信に思ったらしく声をかける。

「おい、どうしたっ」

 ラロックの声にハッとしたリベルラは湖から上がろうとしながら声を張り上げる。

「こっちに来て!」

 リベルラに呼ばれたラロックは渋々リベルラのもとへ向かう。

「んだよ」

 湖から上がったリベルラは湖を指さす。

「魔力湖だよ、ここ」

 濡れた肌はすでに乾いていた。

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