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七話 針の指す先にあったのは

 交代しながら睡眠と見張りを繰り返す。

 特になにも起きずに、夜が明ける。インフェリアイは周囲が明るくなってくるのに気づくと、膝で寝る美少女を揺する。

「起きなさい、朝よ」

「ん……おはよう」

 のっそりと身体を起こす美少女は軽く頭を振った後、大きく伸びをする。

「ふあ……ありがとう」

 二人とも同じ回数見張りと睡眠をくり返していたが、疲労は美少女の方が溜まっており、今もまだ疲れが残っているようだ。

「もう少し休む?」

「大丈夫、早く進みましょう」

 テントを畳んだ二人は、朝食代わりにクッキーを食べながら針の指す方へ進む。

 相変わらず晴れていても薄暗いが、夜に比べれば寒さはかなりマシになっている。

 途中で防寒具をテントの中に入れて突き進む。

 どれ程歩いただろうか、周りの景色がほとんど変わらないから分からない。依然として、針は一方向を差したままだ。

「結構歩いたよね?」

「歩いたのかしら? 休憩する?」

「うん、ちょっと疲れた」

 二人は向かい合って座る。

 水を飲みながら美少女は周囲に目を向ける。

「結構動物たちも増えてきたね」

「そうね、どうしてかしら」

 進むにつれて、ウサギやシカなど、鳥類以外の動物の姿が現れている。出てきた動物が、みな草食動物のため一安心だ。

「なにかがあるのかな?」

「肉食の動物が出ないといいけど」

「うーわ、それは嫌だ」

「あなたがいればなんとかなる気がするけど」

「まあね」

「そろそろ行きましょうか」

 再び二人は針の指す方へと進んで行く。


 それからも、休憩を挟みながら突き進んだ二人。やがて、葉の隙間から降る光が色付き始めた頃、二人は針の指す場所へと到達した。

「ここで合ってるのかな? わお、綺麗」

 箱の中の針がグルグルと回転しているのを見ていた美少女は顔を上げると目を丸くする。

「ここは……水辺?」

 二人がたどり着いたのは、幻想的な雰囲気の湖。湖を囲うように大きな木々が重なってドームを造っており、エリメルラ洞窟と同じように、薄緑の光を放つ苔がドーム内を淡く照らしている。

 その湖畔でウサギやシカ、鳥類などの野生動物が水を飲んだり、休んでいる。

「おお、ここならテントが広げられそうだね」

 ドーム内には倒木などが無く、背の低い草花が生えているだけで、問題なくテントを広げることができた。

「ここにテントを広げても大丈夫なの?」

「なんで? あ!」

 思い出すのは初めてテントに入った時。あの時は防衛機能が作動して、辺りは爆発跡だらけになっていたのだ。

「ちょっとだけなら……、お風呂とかも交代で入れば大丈夫……だと思う」

 歯切れ悪く答える美少女に、微笑みを向けながらインフェリアイは答える。

「できるだけ控えましょうか」

「でも動物が多いのも怖いんだよね」

 馬が美少女を見て大暴れしたこともあり、もしかすると野生動物が大暴れするのではないかという懸念があるので、できればテントの中に入りたかったが、それはそれで防衛機能が作動してしまう可能性がある。

 そして、中に誰もいなくても防衛機能が作動するという可能性もあるため、ひとしきり悩んだ美少女はテントを畳む。

「自然の中はわたしには向かないな」

 苦笑した美少女は湖を覗き込む。

 時々水面が揺れる湖は、ガラスのように透き通っており、生物がおらず、底が見えないほど深い。

 湖に手を入れてみる。ひんやりとした水が美少女の手を冷やす。

 少し腋を閉めた美少女は湖から手を引き抜く。指から滴り落ちる水滴が、薄緑の光を反射して煌めく。

 美少女が手を軽く振って水気を切っていると、隣にやってきたインフェリアイが声を掛ける。

「真っ黒じゃない」

 目の悪いインフェリアイには、透明で底が見えないほど深い湖は、ただの真っ黒な湖に見えたのだった。

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