鬱蒼とした森の
「うえぇぇぇぇ! なんか窓ガラスがぶち破られてるぅぅ⁉」
淡藤色のふわりと広がる髪に、翠色の瞳を持つ、ボウタイのブラウスとジャンパースカートを着た少女が、あどけなく可愛らしい顔を歪ませて叫ぶ。
「うっせえリベルラ、それよりここに置いていた人が居なくなってんだけど?」
リベルラと呼ばれた少女の隣で耳を塞ぎながら眉をひそめるのは、波打つ杏色の髪に、深碧の瞳を持つ小柄な少女。リストフォールのシャツで、スキニーパンツを履いており、背は低いが美人系統の大人びた顔つきだ。
「うえぇぇぇぇ! ほんとだ⁉ どうしようラロック! わたしたちクビにされるんじゃ⁉」
「馬鹿、落ち着け! この馬鹿!」
「なんで二回も罵倒されたの⁉」
クワっとリベルラがラロックの方に向く。
「落ち着いただろ?」
ラロックは憐れみの目でリベルラを見返す。
「あ、ほんとだ」
憐みの目に微笑みを添えたラロックをよそに、リベルラは顎に手を当て、なにか思案している。
「なんでわたしは慌てていたんだっけ……?」
「ぷっ――馬鹿だ」
「なんでそんなこと言うの‼」
「あーはいはい、そういうのいいから」
涙目になるリベルラを軽くいなしながらラロックは小屋の中を手で示す。
「この小屋に置いてた人がいなくなってんだろ」
「あ、ほんとだ」
「んで、窓がぶち破られている。それも外から」
「ほう、外から」
「つーことは?」
その言葉にリベルラは腕を組み、眉根を寄せる。
たっぷりと沈黙した後、ピコんと頭上に電球を出したリベルラはしたり顔をラロックに向ける。
「……はっ、攫われた!」
「わーえらいえらい。リベルラちゃんは賢いでちゅね~」
「えへへ」
棒読みのラロックはリベルラの頭を腕を伸ばして撫でる。そして、フッと自嘲気味に笑う。
「まあ、攫ったのはあたしらだけどな」
「攫われ返された⁉」
「助けたんだろうな。それより早く探しに行こうぜ、あたしは怒られるのが嫌いだ」
そこでラロックは小屋から出ていくと、森の中を見渡す。
森には人の気配は無く、草木が風に揺られて擦れあう音が響くのみ。
「まだそう遠くに行ってねえと思うんだが……」
二人が小屋から離れていた時間的にそう考えるラロックだが、ふとある疑問が浮かぶ。
「念のために聞くが、異界を繋いだままにしてねえよな?」
「……」
「どうした?」
沈黙するリベルラを不審に思い、眉をひそめたラロックは振り返る。
そこには脂汗を垂らすリベルラが立ち尽くしていた。
「まさか……?」
徐々に表情が消えていくラロック。
「ちゃんと閉じたよ……今」
そして、テヘッ☆とウインクをするリベルラ。
「お前さぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
瞬時に全魔力を消費した身体強化の魔法で身体能力を高めたラロックが森の中を駆け回る。
そしてすぐに小屋の中へと戻ってきたラロックは吠える。
「やっぱこっちにいねえじゃねえか! ぜってえあっちの世界だよ!」
「ごめんねラロックちゃん、やっぱりわたしはダメな子なんだ、みんなの足を引っ張ってばかりで……ぐすん」
憐憫の情を催す態度をとるリベルラだったが。
「マジでダメな奴だよお前は!」
ラロックには効果がないようだ。
「なんでそんなこと言うの‼」
「うるせぇ! さっさと探しに行くぞ!」
ラロックは空に手を入れると、その中からウエストポーチを取り出した。そのウエストポーチを腰に装着すると準備完了、とリベルラの背を叩く。
「さっきと同じ場所に開いたよ」
「んじゃ離されねえうちにさっさと行くぞ」
そして二人は再び向かうのであった、