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三話 第一村人卒倒

 外に出て、辺りを見渡した美少女は額に手を当てる。

「あちゃ~」

 美少女が見たのは、テント周りに広がる爆発跡だ。

 焦土には到底及ばないが、所々地面が凹み、土がむき出しになっている。

 幸いにも爆発跡はテント周辺のみで、平原を囲う壁には何もなかったようだ。

「どうかしたの?」

 続けて出てきたインフェリアイは尋ねる。

「……あれ」

 美少女は爆発跡に指を向ける。

 インフェリアイは指の先を凝視すると困惑気味に呟く。

「色が……違うわよね?」

「そう、爆発跡。誰かテントに近づいたみたい」

 何とも言えない気持ちになったインフェリアイはふとあることに気づく。

「ねえ、このテントの防衛機能って対象は無差別なの?」

 テントを畳みながら美少女は眉根を寄せる。

「んー、どうなんだろ」

 なにか考えをまとめるように、やや緩慢な動きでテントを畳み終えるとインフェリアイのほうを向く。

「無差別じゃないと思う……多分」

 発せられたのは美少女には似つかわしくない、最もインフェリアイにはその声音は美少女に似つかわしくないのか判別することはできないのだが。少なくともこの短時間の美少女という美少女と共に時間を過ごしたインフェリアイには、美少女にしては勢いがなく、直ぐに落ちてしまいそうな声音に思えた。

「……本当に?」

「いやだってインフェリアイは入れたじゃない?」

 早口でまくしたてながら美少女は爆発跡を一つ一つ覗いていく。

「それにやっぱりほら、死体も肉片もない。無差別だったとしても死んではいないよ、ただぶっ飛ばしただけ」

 インフェリアイも爆発跡を一つ一つ覗き込んでいく。

「確かに、人が爆散したようには思えないけれど……」

 ぶっ飛ばした先で死んでいたらどうするのだと思ったが口には出さないことにする、起きてしまったことはどうしようもないのだと割り切ることにしたのだ。

「次からは看板でも建てておきましょうか?」

 せめて無差別だった場合の被害者を減らそうと、そう提案する。

「そうだね。まあ今回みたいな不躾な輩には看板を建てていても関係なさそうだけど」

「それでもふるいにはなると思うし、建てるに越したことはないわよ?」

 美少女もそれは承知の上だったらしく微笑し頷く。

 爆発跡はあれど静謐な平原を駆け抜ける爽やかな風が二人を優しく撫でていく。

 インフェリアイは風になびく髪を手櫛で軽く梳く。

 美少女はそのしぐさにどこか哀愁を感じた。

「行きましょうか」

 二人は並んで、進む道へ戻る。



 壁に囲まれた平原を後にした二人はもと来た道付近に戻り、目指す村へ向かう。

 しばらく道を進むと美少女がポツリとつぶやく。

「人に会わないね」

 美少女がつぶやいた通り、二人は今まで人に会っていない。

 道なき道を歩いているわけではなく、ある程度人の手が加わっている道を歩いているにも関わらずだ。

「そういえばそうね……」

 二人は悩んだがやがて、辺境故に人の往来がないと結論づけた。

 やがて小高い丘に登った二人の目の前に家々が建つ村が現れた。

「やっと着いたー」

 大きく伸びをする美少女は目一杯息を吸い込みゆっくりと息を吐く、辺りを見渡すと寂しげに立つ看板を見つけた。駆け寄って看板に書かれた文字を読む。大分字が薄くなっているが辛うじて読む事ができた。

「やっぱりこの道はほとんど使われていないみたい」

「人の出入りが無いのかしら?」

 閉じた村だと旅の者など歓迎されないだろうと、インフェリアイの心配を察したのか、美少女は心配するなという風に笑う。

「そうでもないと思うよ。こっちは裏口っぽいし」

 美少女は村の奥に目を凝らす。

 疎らにだが、人が出入りしている様子が見て取れる。

「よく見えないわ……」

 そんなインフェリアイの手を引きながら、弾む気持ちを抑えて村へと向かうのだった。




 村の裏口に着いた二人は、入り口で立ち止まり、興味深そうに辺りを窺う。

 木組の家が道を挟むように等間隔に並んでいる。家は木の色一色のため地味だが、道の両端、家の前に色とりどりの花が植えられており、村全体は華やかだ。

 その時、二人に近い家のドアが開き、中から一人の老婆がゆっくりとした足取りで出てきた。

 老婆は裏口で佇む二人を見つけると目を瞠る。

「あんれまぁ。こっから人が来るなんて珍しいこともあるもんだぁ」

 老婆の視線は美少女に注がれている。

 歓迎されていないのだろうか、とインフェリアイは思っていたがそれは杞憂だった。

「よう来たねぇ。なぁんもねぇ村だけどゆっくりしてってくれ」

「ありがとうございます」

 インフェリアイが安堵したのも束の間。美少女が老婆に礼を告げる、微笑みながら。

「あんれまぁ」

 老婆の体勢が揺らぐ。そのまま地面と衝突するかと思いきや、インフェリアイが慌てて老婆に駆け寄り支える。

「だっ大丈夫ですか⁉︎」

 インフェリアイの声が村に響く。

 老婆を顔を覗き込む近眼少女。側から見れば年寄りを捕まえて睨みつけているように見える。

 美少女は一抹の不安を覚えながら二人に駆け寄る。

「大丈夫だと思うけど。はあ」

 美少女が老婆の様子を見ると、老婆はどこか幸せそうな顔を浮かべていた。

「動くな!」

 周辺の家のドアが開くと同時に鋭い声が轟く。

 農具を構えた男性五人が二人を囲う。

 美少女は慌てて顔を背けるが、インフェリアイは男達一人一人に目を向けている。

 男達は一瞬怯んだがすぐに農具を構え直す。

 男の一人が物々しく言い放つ。

「無駄な抵抗はするなよ……」

 ジリジリと距離を詰め来る男達。

「待ってください、私達はこの村に危害を加える気はないんです」

「嘘をつくな!」

「ですよねぇ……」

 美少女の呟きは男達には聞こえていなかったようだが、インフェリアイにはしっかり聞こえていたらしく、男達から目は離さず美少女に囁く。

「どういうこと?」

「とりあえず逃げよう。お婆さんを置いて、わたしを抱えて」

「え⁉︎  わ、わかったわ」

 インフェリアイは老婆をその場にそっと降ろし、美少女をお姫様抱っこし男達を飛び越え、裏口へ向かう。

 男達は一瞬驚いたが二人には目もくれず、老婆に駆け寄る。

 美少女を抱えたインフェリアイは飛ぶように走り、裏口を抜ける。

 来た道から逸れて村が見えなくなるまで離れるとインフェリアイは速度を落とし、美少女を降ろす。

「どうしてああなったのかしら」

 インフェリアイは深く息を吐き、美少女を見やる。

「まあ、わたしのせいかな」

 美少女は笑う。

「あれが美少女の言っていた?」

「うん、そういうこと」

「なるほど……」

 インフェリアイは思案する。美少女の見た目に関しては隠すなりして対策はおそらく可能だが、問題となるのは村を襲ったと思われていることだ。

「時間をおいてもう一回行ってみようか」

 軽い調子で言う美少女に訝しげな視線を向ける。

「でも、話を聞いてくれるかしら?」

「それは大丈夫でしょ。お婆さんが目を覚ませば誤解は解けるだろうし」

 おおきく伸びをして腰を下ろした美少女はカバンの中から水筒をとコップを取り出しコップに水を注ぐ。

「あの人達、インフェリアイにビビってたわよ」

 微笑みながらコップを手渡し、もう一つコップを取り出して水を注ぐ。

 インフェリアイはお礼を言いコップを受け取り、美少女の隣に腰を下ろす。

 水を一口飲むと眉根を寄せる。

「ビビってたの?」

「いやあ、目つき悪かったよ」

「そうなのね……よく言われていたわ」

 微苦笑を浮かべるインフェリアイは地平線に目を向ける。

「よく言われていた?」

「ええ、子供達にね」

「え、子持ちだったの?」

 美少女が目を見開き、インフェリアイに顔を向ける。

「そういう意味ではないわよ」

 ジト目を美少女に向けたインフェリアイは再び地平線に目を向ける。

「私ね、家がないの」

 美少女にはその目がどこか諦めが滲んでいるように見えた。

「その話、聞いてもいい?」

 相手に踏み込んで良いのかと躊躇いがちに問う。

「そうね……美少女も話してくれたものね」

 自身に納得させるように呟き、訥々と語りだした。

「実はね、私には昔の記憶が無いの。あるのは私と同じ、家のない子供達と一日一日を生き延びる生活の記憶だけ。ここ数年かしら」

「記憶が無い……?」

「ええ、綺麗さっぱり。全くわからないわ」

 美少女は眉根を寄せ思案する。しかしそれをすぐにやめ、先を促す。

「それでまあ……子供達に顔が怖いって、言われていたのよ」

 もう手に入らないものを懐かしむように微笑みながら話すインフェリアイの横顔は、美少女にはどこか空虚に見えた。

 美少女は言いようもない不安を覚え、半ば強引に話しを変えようとする。

「そんなことがあったんだ。そろそろ村に向かってもいい頃合いだと思うの」

 立ち上がる美少女に倣い、インフェリアイも立ち上がる。

 そして思い出したかのように美少女を見る。

「顔を隠す物とか持っているの?」

「持ってないよ。でも大丈夫だって、目を合わせなければいいだけだし」

 行ってみれば分かると言いながら美少女はインフェリアイの手を引き、村に向かうのだった。




 再び村に向かった二人は村が見えてきたところで足を止める。

 ちょうど裏口に一人の男はどこか神妙な顔つきで立っていた。男は二人に気づくと村の方へ何か叫び、二人に向かって大きく手を振った。

「ね? 大丈夫って言ったでしょ」

「見えない」

 唇を尖らしながら呟くインフェリアイを面白そうに見ながら、美少女は手を伸ばす。

「ほーら、リラックス〜」

 インフェリアイの顔をむにむにしながら微笑む。

 されるがままにされていたインフェリアイは、ふと気配を感じて村の裏口の方を見る。

 さっきの男が呼んだのだろう、先ほど二人を囲っていた男達が裏口に揃って立っており、美少女を惚けた目で見ていた。

 その視線に気づいた美少女は息を吐くとインフェリアイの前を歩きながら裏口に向かった。

 男達に近づくと美少女は目を合わせぬように少し顔を俯かせる。

「すまなかった」

 開口一番、男の一人が頭を下げると、他の男達も続いて頭を下げる。

 美少女は首だけで振り返り微笑むと、自身の動作に注意しながら続ける。

「こちらこそ、紛らわしいことをしてしまってごめんなさい」

 頭を下げた美少女に倣ってインフェリアイも頭を下げる。

「詫びもしてえし、役場の方まで来てくれるか」

 申し訳なさそうに提案する男に断る理由もない二人は揃って頷く。すると男は安堵の息を吐き、村の中を手で示す。

「よかった。それじゃ、付いて来てくれ」

 先行く男達に二人は付いて行く。

 しばらく歩くと前に他の建物より幾分大きな家が見えてきた。

 男によるとこの建物が役場だという。

 そして、その役場を中心に五つの通りが放射状に伸びているということが分かった。

「思ったより小さいね」

「村の役場なんてどこもこんなもんさ」

 他の男達は役場前で別れ、初めに裏口にいた男一人だけが二人を連れて両開きのドアを開ける。

 役場の内装は、奥にカウンターがあり、手前には椅子が並んでいるだけのシンプルな作りだ。

 三人の他には誰も居らず静まり返っている。

「付いて来てくれ」

 男は二人をカウンターの後ろにあるドアに二人を連れていくと「村長、入りますよ」と声をかける。

 程なくして声が返って来たのを確認すると、ドアを開き中に足を踏み入れた。

「さっきの二人を連れて来ました」

 男がそう言うとベットで身体を起こしている老婆が男に続いて部屋に入ってきた二人に目を向ける。

 「あーお嬢ちゃん達、さっきはすまんことしたねぇ」

 老婆は朗らかな笑みを浮かべる。

 すぐに男は二人分の椅子を用意し、二人に座るよう勧める。

 二人は礼を言うと椅子に腰掛ける。それを確認した老婆は口を開く。

「わたしゃ村長のアルフィと申します」

「申し遅れてすまない。ウレッグだ」

「どうも美少女です」

「インフェリアイです」

 先ほどからアルフィとウレッグは美少女のことをチラチラ見ているので、美少女は先に説明しておこうと更に俯き口を開く。

「さっき村長さんが倒れたのはわたしのせいです。わたしと目が合えばもれなく全員卒倒してしまいます」

「ああ、村長の話を聞いても半信半疑だったが、さっき見た時すぐに理解したよ」

「ちなみにこっちのインフェリアイの目つきが悪いのは目が悪いからです」

「あんれまぁ、これは何本かわかるかい?」

 そう言うとアルフィはインフェリアイに向かって指を数本立てる。

「二本ですね」

 インフェリアイが即答するとアルフィは目を見張る。

「そんなに目が悪いとは思えねえけんどな」

「すみません村長さん。目が悪くてもその指を立てるやつはわかるんです」

「そうなのかい? そりゃすまんことをしたねぇ」

「いえ、お気遣いなく」

 二人のやりとりが終わると、アルフィは二人に向き直り、再び頭を下げる。

「わざわざこっちに来てもらったのにお茶も出さねえですまんねぇ。それに色々誤解しちまったみてぇだし」

「詫びと言ってはなんだがうちの村の宿を使ってくれないか? もちろんお代はいらない」

「そう言うことなら、使わせてもらいます。相部屋で」

「ありがとう、それじゃあ早速手配するよ。しばらくしたら向かってほしい、さっき通って来た通りの正反対の通りにある、見たらすぐにわかると思う」

 そう言うとウレッグは部屋から出て行き、それを見送るとアルフィは口を開く。

「そういんやぁ二人は旅してるんかい?」

 そうしてしばらくの間話をするのであった。




 役所でアルフィとしばらく話をした後、宿に向かうため、二人は来た方向と真逆の通りを通った。

 いずれの通りも裏口からの景色とそう変わらなかったが、宿に続く道は村の入り口に通じているらしく、しばらく歩くと人通りや店が増えている。

 それに伴い通りにも高さのある建物が増え、道幅も広くなっている。

 辺りを窺う様に歩いている美少女はインフェリアイの前を歩きながら宿を探す。

「見たらすぐわかるって言っていたけど……」

「私にはわからないわね、見えないもの」

 軽口を叩きながら歩く二人だが同時に足を止めた。

 目に入った建物を見上げると二人は感嘆の息を漏らした。

「……これはすぐわかるね」

「ええ……見えるわ」

  二人の前に立つ建物はここが村であるとは信じがたいほどの大きさの建物だった。

 他の建物と同じく、木組みの建物には変わりないが、所々に彫刻が施された建物になっている。

 『宿屋』と書かれた看板と、ベッド、スプーンとフォークなどの絵が描かれた看板を睨みつけたインフェリアイは微苦笑する。

「凄く親切ね」

「うん、入ってみようか」

 美少女は役所よりも高級感のある両開きのドアを開き、二人は中に足を踏み入れる。

 中は役所と構造はあまり変化無く、ただあるもの全てが役所と比較にならないほど高級感が増している。

 そしてその中、二人を待っていたのかウレッグが二人を出迎えた。

「待っていたよ」

 そう言うとフロントカウンターに向かい、少し話した後、なにやら布を持って二人の前にやって来た。

「この頭巾を使ってくれ、ずっと顔を俯かしたままだと疲れるだろ?」

「わあ、ありがとうございます」

「ぐふッ」

 のけぞったウレッグをインフェリアイは素早く支える。

「ありがとう、インフェリアイさん。ということです」

 ウレッグは宿屋の店員に振り向く。フロントカウンターにいた数人の店員もカウンターにひれ伏しながらグッドサインを出している。

 頭巾を使い、極力顔の露出を減らした美少女は顔を上げる。

 顔を上げるも目をそらしている美少女に視線を引き付けられながらウレッグは二人に鍵を渡す。

「部屋は四階のこの番号の部屋だ。宿の説明を書いたものは部屋に置いてあるからそれを見てほしい。それじゃあ俺はこれで」

「わかりました。ありがとうございます」

 それぞれ鍵を受け取った二人は頭を下げ、階段へ向かう。

 四階に来た二人は手元の鍵を見る。

 各階には約十五の部屋があるそれぞれ三桁の番号が振られており最初の番号は各階の番号となっている。二人の場合は四階のため四から始まり、その後一から十五の番号が鍵に書かれている。

「四一五……一番端っこだね」

 美少女はそう言うとインフェリアイの手を引き、廊下を進んで行く。

「本当に人がいないわね」

「そうだねえ、わたし達も後で行ってみる?」

 そうこうしているうちに二人は部屋に着き、ドアを開いて中に入る。

「おお、すっごい」

 靴を脱いだ美少女は頭巾を取ると、二人が一緒に寝ても余裕があるベッドに一目散に飛び込む。

「こ う は ん ぱ つ!」

 部屋の鍵を閉めたインフェリアイも靴を脱ぎ、美少女にジト目を向けながらドアの近くにある机に向かう。

 椅子に腰かけると机に置いてある冊子を手に取り、中を覗き込む。

「これがさっき言っていた説明みたい」

「なんて書いてるの?」

「二階は食堂、三階はお風呂、だけどこの部屋にはお風呂が備え付けであるみたい」

「それだけ?」

「まだまだあるけれど……」

 インフェリアイは冊子に一通り目を通す。

「注意書きとかが多いわね。美少女も読む?」

「読まない」

「……そう」

 冊子を机に戻したインフェリアイは息を深く吐くとベッドに向かう。

「ぎゃうッ」

 鈍い音が響き、右足を押さえながらベッドへ飛び込む。

「高反発!」

 ベッドで数回バウンドしたインフェリアイはそのまま脱力しベッドに深紅の花を咲かせる。

「もうやだ今日は動きたくない」

 美少女は苦笑しながら体勢を変える。

 宿に泊まれる日数に指定は無かったため、二人は四日ほど滞在するつもりだ。

 美少女は手繰り寄せた掛け布団を適当にインフェリアイに掛け、ベッドから降りて反対側にある浴室へと向かう。

 脱衣所もシンプルながらも綺麗に整頓されており、扉を開くと浴室はテントの風呂より小さいが二人で入っても十分な広さがあった。

「なんかわたしのテントよりも高そうなものばっかりな気がする」




「寝るならせめて着替えろー」

 風呂から上がった美少女は布団に包まっているインフェリアイを指でつっつく。するとくぐもった声が聞こえてきた。

「う……ん……」

「寝るな!」

 勢いよく布団を引っ張ると、丸くなっているインフェリアイが現れた。

「布団を掛けてくれたじゃない……」

「その場のノリで掛けただけ、まさかそのまま寝るとはね」

 呆れ顔になる美少女を一瞥したインフェリアイはゆっくりと身体を起こし、軽く身体を伸ばす。

「少しすっきりしたわ」

「それじゃお風呂にでも入ったら?」

「でも、さっき入ったばっかりだし……」

「入りすぎても死ぬわけじゃないのに?」

「確かにそうね。ただ着替えが――」

「着替えなら備え付けの服を着ればいいよ」

 そういう美少女は浅縹色のロングシャツを着ている、脱衣所の籠に入っていたものだ。

 ちなみに着ていた服はインフェリアイが寝ている間に自身のテントに入れておいた。

「あら、そうなの。それならお風呂に入ってくるわ」

「ごゆっくりー」

 インフェリアイを見送ると美少女はベッドに寝転ぶ。

 布団の中で大きく伸びをすると自然と大きな欠伸が出てしまう。そしてその瞬間、今まで意識していなかった疲れが身体を襲う。

 生まれて初めて自身の生まれ育った国から出たのだ、この疲れは仕方ないのだろうと納得する。

 目を閉じて深く息を吐く――そして次に目を開けたのは次の日の昼だった。

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