――最低でも一人は死ぬ。
デスゲームだと、機械音声は言った。
それに俺たちは抗えない。
今見せつけられた超常的な力が自分に行使されるのが、怖いだからだ。
ギャルが宙に浮いた。
ギャルの服が弾けとんだ。
別に、裸にひん剝かれるのが嫌だって話じゃない。それも確かに嫌だが……。
恐怖の根底は、その力が、今度は俺たちの肉体に作用するのではないかというところにある。
もし弾け飛んだのが服ではなく、腕や脚だったら?
頭だったら……?
……見せしめで殺す必要はない。奴の行動は、十分に抑止力と成り得た。
それに、どの道これから始まるのデスゲームで、一人は死ぬ……。
ギャルが命を繋いだことには確かに安堵したが、これから間もなく、犠牲者が出てしまう。
その救いようのない未来に、俺は、心を狂わせずにいられるだろうか……。
『ではまず最初に、四人グループを作ってください。その後でデスゲームのルールを発表します』
「は? 四人グループって、チーム戦なのか!? この中で死ぬのは最低一人って言ってただろ!」
たまらず聞き返す。チーム戦になるなら、ゲームに負けた場合、チーム全員が負けることになる。
四人グループなら、最終的に、最低でも四人死ぬってことだろ……!?
『はい。最低でも一人は死にます。言っていることに間違いはありますか?』
「屁理屈だろ、そんなん……!」
それに……んん? 四人グループ?
おかしい。この場には、確かに40人いるからグループ自体は作れるが……それは、俺も換算した場合だ。
女子は39人。
グループは十組つくれるが、一組は三人しかいなくなる。運営サイドの計算ミス……というわけではないだろう。
まさかこれ……。
「おいおいおい、まさか、俺もゲームに参加するのか……?」
『渡辺テルヒコくん。当たり前です。あたなと39名の女性方の親睦を深めるためのオリエンテーションなのてすから』
ゾッとする……。
てっきり俺以外のみんなで、俺を取り合うためのデスゲームなのかと確信めいていた。
だって男性は俺だけ。出口の扉に貼られた『セックスしないと出られない部屋』のルールではこうある。
『・この場合のセックスとは、生物学的な異性同士でのみ適用される』
言い換えれば、『俺だけは助かる』ということだ。
だけどデスゲームへの参加者には、なぜか俺も含まれている……。
このデスゲームで、俺も、死ぬ可能性がある……?
『そんなに青い顔をしなくても大丈夫ですよ、渡辺テルヒコくん。デスゲームであなたが死ぬことはありません。単なる、このレクリエーションの盛り上げ役です。なのであなたは気軽に楽しんでください』
俺の死への不安は、すぐに杞憂だと説明された。
……いや、だからといって、安心なんてできるかよ。
自分が死なないからって、気軽に人殺しのゲームに加担できるわけがないだろ!?
「……仮に、俺がゲームの敗者となって、本来のデスゲームのルール上では死の采配が下る状況になった場合、その処理はどうなるんだ?」
『回答します。その場合は繰り上がりでゲームの失格者を選定します。順位のつくゲームならばあなたよりも一つ上の方。順位がつかないゲームでも、こちらで一番優位にいなかった者を定め、失格とします』
やっぱ、そうなるか……。
そしてゲームはこの一回だけじゃなく、これから何度も行われるとも暗に示している。
そして毎回、必ず殺す……。
俺以外を……。
『チーム戦ならば、あなた以外の、あなたが所属しているチーム全員が失格となります』
「なっ!」
最悪すぎるだろ!
もし俺の、取り返しのつかないミスで、チームが負けた場合……。
いや全力で戦って勝ったとしても、結局は他の子が犠牲になるだけ……!
「くそっ!」
『渡辺テルヒコくん。他の皆は、もうチーム分けを済ませたみたいですよ。あなたも早く加わってください』
気が付けば、俺と運営の問答の最中に、既にチームは作られていたらしい。……抵抗できないのだ。早くしろと言われれば、その通りにするしかないか……。情けないが、俺も従おう。
一つのだけ三人のチームがあるはずだが……。
「ナツキさん……」
「えへへ、が、頑張りましょうね……」
いた。三人だけのチーム。
ナースのナツキさんと、ナツキさんにべったりのモサパジャマのサナちゃん。
そして、格闘少女ヒトミちゃん……。
彼女たちが余るのは、申し訳ないが、残当だなと思える。
ナツキさんはともかく、見るからに引き篭もりで、頼りないサナちゃんが、命を預けるチームの輪に入れないのは仕方が無い。
そして、乱闘に率先して参加していたヒトミちゃんも、皆を散々殴ったのだ。ハブられるのも納得してしまう。
当人もそれを自覚しているようで、青白い顔をして、かなり落ち込んでいた。
「わ、私も、微力ながら、頑張るよ……」
言葉にも覇気がない。あんなに快活な少女だったのに、自業自得とはいえ、いたたまれないな……。
別にヒトミちゃんが暴動の火付け役だったわけでもないし、あれは起こるべくして起こったのだ。どうかあまり気に病まないで欲しい。
「あ、あ、あ、わた、私も! げ、ゲームは得意だし! 力に! なれ、なれるよ! 頑張ろうね!」
相変わらず声のボリュームがバグってるサナちゃん。
あまり他人と会話なんてしてこなかったんだろうと分かってしまう。おっぱいがでかい。いや今それは関係ない。
……スレンダーなヒトミちゃんを見た後だから、ギャップがそう思わせてしまっただけだ。これは誰彼構わず酷く傷つける話なので、心の内に留めておく。
『無事にチームが出来ましたね。それでは、デスゲームの内容とルールを説明いたします』
機械音声が話を進行する。主導権は完全に向こうだ。
俺たちに、心の整理をする猶予すら与えちゃくれない。
『まあデスゲームも初回ということですので、最初は簡単なものから参りましょうか。そうですね――【腕相撲】なんていかがでしょう?』
うで、ずもう……?
おいそりゃ、どう考えても、個人競技じゃないか?
チームに分けた意味がない。みんなも意味が分からないとざわめきだした。
『では、ステージ・オン!』
俺たちの疑問何てつゆしらず、機械音声がそう告げると、途端に、十台の机が音もなく出現した。
うおっ! また超能力かよ……。何の変哲もない、学校にあるような学習机のようだが、どんな仕掛けがあるんだ?
これでどうやって……?
――俺たちは、十組のチームに分けられた。
出現したテーブルの数も十台。
嘘だろ……? それは、余りにも……残酷すぎやしないか!?
『今回のデスゲームは【腕相撲】となります。まず四人チーム内で、1:1の勝負を二回行って下さい。次に【負けた者同士】で再度戦い、最後まで【負け残った者】が次のステージへ進みます』
「え!? 待って、どういうこと!? チーム戦じゃないの!? チームの中で戦うの!?」
今の説明でようやく状況が飲み込めた誰かが驚き、たまらず質問する。
機械音声は無機質に回答するだけで、また説明を始めた。
『その通りです。私は共闘するためのチームとは一言も言っていません。気の合う方々と組んだのかもしれませんが、今、あなたの一番近くにいる方は、ライバル同士です。気を引き締めていきましょう』
「ひっ! そんな……!」
……外道め。
俺たちで、遊んでやがる。
『話を戻します。チーム内で【負け残った者】は、また、各チームの【負け残り】とトーナメント形式で対戦していきます。そこでも【負け残り】形式でトーナメントは進み、最終的に、【全敗した者が失格】となります』
全員が絶望に苛まれる、史上最悪の腕相撲大会の開幕である。