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6:セックスしないと見せしめが執行される部屋

「ふざっけんなっ!!!」


 怒声一発。……いや、二発。

 俺が放った咆哮とハモって叫ぶ黄色い声があった。振り返ると、金髪の学生服姿をした……!


「ギャル!」


「いや属性で呼ぶなし」


 自己紹介の時に彼女は下戸山アスナと名乗った。でもギャルなんだもの。ついそう呼んでしまう。お酒好きそうなのに、苗字に下戸なんてつくのも、イメージと合わないし。


 ……先ほどの乱闘で、ギャルは左目を負傷して、包帯を巻いている。治療が終わると、はあとため息をついて「マジ、サイアク。髪型変になるじゃん」と言っていた。最悪ってどういう意味だっけ。


 声を上げてくれた、気持ちは分かる。それに自分以外にも抵抗してくれる人がいるのって、すげー嬉しかった。

 だけど、そこまでにしておいてくれ。

 犯人は、俺たちの人権なんて意に介さないイカレ野郎だ。逆鱗に触れて、どんな制裁が下るか、わかったものじゃない。


「ギャル。ありがとう、でもあまり目立つようなことはするな。後は俺に任せろ」


「はあ? いや無理。言ってやらなきゃ気が済まないから」


「ダメだって! 何されるかわかんないだろ!」


「うるせーな! ビビってんじゃねーよ!」


 ビビるに決まってんだろ! お前殺されるかもしれないんだぞ!

 ただでさえお前……喧嘩すげえ弱いじゃん!?

 さっきもめちゃくちゃ一方的にやられてたんだろ!? ほっそい腕でさぁ! 胸の肉付きはいいくせに、不健康な体つきしやがって!

 いや実際、相手が銃とか、武器持って殺しに来たらどうにもできないけどさ、でも最低限の護身すらままならないのがお前なんだぞ! どうにもならなくなる前に、下手な挑発はやめとけって!


「おや、元気がいいですね。下戸山アスナさん」


 ほら目をつけられた! もう黙ってろお前!


「は? キモ! フルネームで呼ぶとかコミュ障っぽいの、陰キャのオタクくさくてマジムリなんですケド」


「挑発すんなって!」


 死にたいの!? それともまだいけるとか思ってる!?

 一人で勝手に暴言チキンレースしてんじゃねえぞ!?


「本当に元気がいいですね。……このままでは少々、あなたの存在は、進行に支障がきたすかもしれませんね」


「すまない! 黙らせる! すぐ黙らせるから! 何もするな!」


 抑揚のない電子音は、しかし苛立ちを含んでいることが伺えた。もうチキンレースは終わりだ。ギャル、お前、前輪飛び出してる。もう落ちる寸前だから!

 俺は即座にギャルに飛びつき、その口を塞いだ。


 だが、手で口を覆ったくらいでは、ギャルは止まらなかった……。

 じたばたともがいて、俺の手を振り払い、更なる怒りでもって、小馬鹿な態度をとってしまう。 


「はぁ? だったらなに? なんでも自分の思い通りになるとか思ってんの? バカじゃん! そんなこと本気で思ってるの、バカか小学生だけだよ? 頭大丈夫? てか大丈夫ならこんなキモいことしてねーよな! ごめんごめん! ただのバーカ! 死ねっ!」


 ギャルは完全に、崖から落ちた。


『はやり、ここまで反抗的な方がいると、進行に支障がでますねえ。……よって、下戸山アスナさんを、処分いたします』


 ――背筋が凍り付く。処分ってなんだよ、まるで物か家畜みたいに、人をそのように呼ぶ奴がいるか?

 そしてその言葉を電子音性が放った瞬間……ギャルは、宙に浮いた。


「は?」


「え? ……え? え? なに、これ? どうなってんの!?」


 急にふわりと空中に浮かび始めたのだ。俺の目の前で、一メートルくらい浮き上がる。

 ギャル本人も何をされているのかわからないといった様子で、浮き上がった事実に、ただただ驚愕と、ただならぬ恐怖を感じていた。


「うそ、ヤダ、なにこれ、降ろして! 降ろしてってば!」


「やめろ! 俺がよく言い聞かす! だから処分はやめてくれ!」


 信じられない。人が空中を浮くなんて、あり得ない。

 だけど現に目の前で起こっている異常性。そして間もなく起こるだろう、悲惨な結末を予想して……誰もが息をのんだ。

 俺が必至で食い下がるも、もはやこれは、誰にも覆せない……。


「やめろ! おい! もうこいつに文句は言わせないから、早くおろせ! おい! 頼むよ!」


『これは決定事項です。下戸山アスナさんの処分を開始します』


「ぐあっ……! く、くるしぃ……! い、痛、い、よぉ!」


 ギャルが途端に苦しみだした。何をされているんだ? くそ……! 俺は、何もできない!

 超能力。心霊現象。魔法……。そんな言葉が頭の中を駆け巡り、そんなどれに対しても、俺は、抗う術を持ち合わせてはいなかった。


『執行』


「いやあああああああああああああああああ!」


「やめろおおおおおおおおおお!」




 ――バチュン。


 何かが千切れる音がした……。

 俺は、訴えることしかできず、目の前の状況に……目を逸らす。

 誰も、何も言えない。

 無機質な音声のみが、淡々と響いた。


『これは見せしめであり、皆さんへの警告です。今後はこのようなことにならぬよう、言動にはくれぐれも注意してください』


 ふざけるな……!

 ふざけるなふざけるなふざけるな!

 どうしてこんなことをするんだ! 俺たちが……何をしたっていうんだ……!


 怒りの訴えは、心の中に留めるしかできない。

 そして、ついに、この状況に耐えられなくなって、一人の悲鳴が、体育館を震わせたのだった……。




「いやあああああああああっ! な、なんで!? 服が弾け飛んだんですケド!? きゃああああああああああヘンタイ! ヘンタイ!!!」


 悲鳴の主であるギャルは、怒りと羞恥心に、泣きながら叫び散らすのだった。


 よ……。


 よかったあああああああああああああああ!!!

 殺さないんだ!? 服だけでいいんだ!? よかったああああああああああああああ!!!

 マジでほっとした!!!


 ……いやしかし、俺があのまま反発し続けていたら、俺がこうなったのか……。

 マジで、今後口答えは、できる限りやめておこうかな……。俺の服がはじけ飛ぶなんざ、公然わいせつが過ぎる。


『さあでは、気を取り直してオリエンテーションといたしましょう。さあ、楽しい楽しいデスゲームです。――この中で最低でも一人は、死んでもらいますので、みなさんは覚悟を決めておいてください』


 こうして不吉に始まった、オリエンテーションという名のデスゲーム。

 ほかの親切な女子たちがギャルにそれぞれ衣類を貸してくれて、ギャルは泣きべそ顔になっていた。

 マジでお前、今後調子に乗った発言は控えるように。

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