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第22話【三人の仲間】

 ◆


 翌朝、片倉が朝食を取っていると、端末に通信要求があった。


 瑞樹だ。


「おはようございます。ちょっとお話ししたいことがあるのですが、今日お時間ありますか?」


 何かあったのだろうかと片倉は短く答える。


「大丈夫です。いつでも構いません」


「ありがとうございます。それでは、昨日と同じ場所でお会いできますか?」


「了解しました。では後ほど」


 約束の時間を決め、通信を終える。


 ──少し暗かったか? 


 片倉には瑞樹の口調が少し気になったが、少なくとも自分が言えたセリフじゃないなと苦笑した。



 ◆



 新宿の喫茶店に到着すると、瑞樹は既に席についていた。


 瑞樹は少し疲れた表情を浮かべている。


「お待たせしました」


 片倉が声をかけると、瑞樹は顔を上げて微笑んだ。


「いえ、こちらこそ急にお呼び立てしてすみません」


 二人は注文を済ませ、静かな店内で向かい合う。


「それで、何かあったんですか?」


 片倉が尋ねると、瑞樹は深い息をついた。


「実は、もう一人の仲間と連絡が取れなくなってしまって……」


「連絡が取れない?」


「はい。メッセージも通話もブロックされているみたいで。何があったのか全くわからなくて」


 言葉のわりには瑞樹は冷静そうで、そこが片倉には少し気になった。


「それは心配ですね。何か心当たりは?」


「特にはありません。でも、このまま二人で探索に行くのは少し不安で……」


 瑞樹の不安は理解できる。ダンジョン探索は命がけだ。


「それで、どうするつもりですか?」


「あと一人仲間を募集してから行こうかと考えています。今日中に募集して、明日までに見つからなければ、今回の探索は中止しようと思います」


 片倉は頷いた。


 無理をする状況ではない。


「わかりました。その方が安全でしょう」


「ご理解いただけて助かります」


 瑞樹はほっとした表情を見せた。


「ところで、沖島さんは余り慌ててないというか……ある程度は想定内という様に見えるのですが、勘違いだったらすみません」


 片倉が軽く頭を下げた。


 瑞樹は慌てて「頭をあげてください!」と言い、僅かに苦笑しながら続けた。


「片倉さんの言う通り、まあ私は……なんていうかこういうのには慣れてるんです。ほら、私って詮索するような力を持っているじゃないですか。だからチームを組んでも長続きしなくって。まあ多分、もしかしたらですけど……片倉さんが私の力に気付いた様に、これまでの組んだ人たちも敏感な人がいたのかなって……」


 さもありなんと片倉は思う。


 PSI能力者を羨む探索者は多いが、彼らにも彼らなりに苦労はある。


 特に、ダンジョン時代黎明期は差別の対象にすらなったわけで、特に精神干渉系のPSI能力者への見方はいまでもまだ厳しいものがある。


 まあ、と片倉は僅かに苦笑する。


「俺は最初こそ脅すようなことをしてしまいましたが、なんといいますか、勝手に抜けたりはしませんから……」


 慰めにもならないだろうが、と片倉は無難な事を言うと、瑞樹は少し嬉しそうに「はい、お願いしますね」と言った。


 ◆


 翌朝、片倉の端末が通知を告げた。瑞樹からの通話要求だ。


 出てみると──……


「おはようございます! 募集に三人も応募がありました!」


 瑞樹の興奮が伝わってくる。


「三人も?」


 探索チームは四人、もしくは五人が良いだとされている。


 余り多くても邪魔になってしまうし、少なくても戦力に不安が出る。


「はい! ただ一応一緒にダンジョンに行く前にておきたいので、トー横ダンジョンの近くの休憩所で会う事にしています。あそこは他の探索者も多いから出来ればもう少し静かな場所がよかったんですけど…… "出来ればトー横ダンジョンの近くがいい" らしくて。それで、本来の予定である今日の探索はどうするんだって事になりますけど、良かったら明日に繰り延べできませんか? ……あ、なんだったら片倉さんも来てほしいんですけど……あっちは三人ですから……」


 トー横ダンジョンの入口付近に小さな休憩所がある。


 ゲーム風な言い方をすればキャンプ地点とかそういう感じになるだろうか。


 といっても野戦キャンプの様な感じの場所ではなく、かなり広めのカフェラウンジで、この辺はトー横ダンジョンの客層というか、探索者層に合わせた形だ。


 探索者たちの装備や武器を置くスペースも用意されている上に、簡単な軽食が取れたりもする。


「大丈夫ですよ、時間はどうしますか?」


「ありがとうございます! 今から2時間後でお願いできますか?」


「わかりました。では後ほど」


 ◆


 待ち合わせ場所に到着すると、瑞樹と三人の若い男女が待っていた。


「片倉さん、こちらです!」


 瑞樹が手を振る。近づくと、瑞樹は三人を紹介した。


「こちらがカイトさん、アヤさん、そしてMIRUさんです」


 カイトは短髪で精悍な顔立ちの青年だ。


 アヤは長い髪をポニーテールにまとめているが、どこか婀娜な気配がする。


 MIRUは色々といわゆる地雷系ファッション。雰囲気はなんというかダウナーな感じだ。


「初めまして、片倉です」


「よろしくお願いします!」


 三人は元気よく挨拶を返す。


「それでは皆さん揃いましたので、休憩所へ行きましょうか」


 ・

 ・


 休憩所にはいくつかの探索者グループが散見されるが、中にはソロの者もいた。


 基本的にソロ探索者は力の求道者的気質がある者が多く、片倉の本来の目的を考えれば出来るだけ交流を持っておきたい所だが──


 ──あの男、装備は高級そうだが余り圧はないな


 圧というのはまあ雰囲気的なものだ。


 探索者として優秀な者は言ってしまえば生物的強度に優れているという事にもなるので、優秀な者からはそれなりに何か雰囲気というか気迫というか、圧の様なものを本能的に感じたりする。


 ただ、その辺の雰囲気を誤魔化そうと思えば誤魔化す事も難しくはないため、余りアテに出来る感覚でもないのだが。


「あ、お兄さん、あのおじさんと目を合わせちゃだめだよ」


 お水な気配のするアヤが片倉の腕にさりげなくボディタッチをして、声をひそめて言った。


「あのおじさん毎日ああして寄生先探してるんだから。装備だって借金して無理して買ったやつだって噂だよ。若いやつなら騙されるだろうって。若い探索者の女の子狙いのクズだよ」


 探索者界隈でもそういう問題はある。


 ただ、一般人のそれとは違ってそこまで大きな問題に発展することはないが。


 というのも、本来は被害者となるであろう女もまた探索者であるため、一方的に食い物にされるというケースはそこまで多くはないからだ。


 探索者同士が争うとなった場合、本来の性別による力の差は誤差に等しい。


 ・

 ・


 席につき、各自が自己紹介を始める。


 カイトは今風のイケメンだ。近接戦闘を得意としている。


 得物は安物の脇差。


「俺は主に前衛を担当できます。体力には自信があります!」


 アヤは見た目はキャバ嬢といった感じで取り回しの良い手槍を扱う。


「よろしくね」


 MIRUはPSI能力者で、攻勢の起点作りを担当。


「簡単な事しかできないけど……」


 片倉は3人の話を聞きながら、自分の経験を簡潔に伝えた。


「片倉だ、よろしく」


「なんか渋い感じでイイね」


 アヤが流し目を片倉へ送るが、片倉はそれを適当に受け流し、瑞樹をチラと見た。


 瑞樹もPSI能力者で、相対する人間の害意の有無をざっくりと調べるというものだが、どうやらその能力は使っていないようだ。


 ──あのMIRUという子はPSI能力者だ。使わないほうが賢明だろうな


 ともあれ、少なくとも片倉の目からはそこまで問題がある様には思えなかった。


 瑞樹も同様の様で、やや硬いものの一応の笑顔は浮かべながら三人と談笑をしている。


 ◆


 トー横ダンジョンについての情報共有や、戦闘時の連携について話も詰め、そういった事が大体話終わった頃には午後を大分回っていた。


「じゃあ探索時はカイトさんたちが指揮する感じで……戦闘の時には主に片倉さんが指示をしてください。それでは、明日の探索に向けて準備を進めましょう」


 瑞樹が締めくくると、全員が同意する。


「集合時間と場所はどうしますか?」


 カイトが尋ねる。


「明日の午前十時にトー横のダンジョン入口でいかがでしょうか?」


 瑞樹が答えた。表面上のリーダーというか代表者はあくまで瑞樹なのだ。


「了解です!」


「装備や物資は各自で準備してください。不明な点があれば連絡をお願いします」


 瑞樹は手際よく話を進めていく。


「それでは、明日よろしくお願いします」


 全員で挨拶を交わし、その場は解散となった。


 ・

 ・


 帰宅した片倉は、明日の探索に備えて装備の点検を始めた。


「あの時の俺たちと同じくらいか……精々足手まといにならないようにしなきゃあな」


 ◆


 翌朝、集合場所に向かう途中で瑞樹からメッセージが届いた。


「おはようございます。皆さん、遅れずに来られそうです!」


 瑞樹は何かにつけて事細かく報告をしてくる。


 ホウレンソウをしっかりしてくれる点は片倉にとってはありがたかった。


「わかりました、俺も向かっています」


 片倉は返信し、足を速めた。


 ・

 ・


 ダンジョン入口に到着すると、他のメンバーは既に集まっていた。


「どうもー! 今日はよろしくお願いします」


 カイトが笑顔で手を振っている。


 アヤとMIRUはちらちらとダンジョンを見て、すぐにでもダンジョンへ向かいたそうだ。


 そして瑞樹は少し離れた場所で三人を見ていた。


 その探るような視線が妙に片倉には気になって仕方がなかった。


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