「飽きた…もうこの生活飽きたわ」
体を持たぬ意思だけの存在……思念体として魔界を生きるも早数千年。
もーそろ体欲しい。うん。
「あぁぁぁぁ!受肉したぁぁぁい!!」
思いっきり叫ぶ。
「うるさいですよ、ヴァイサー様」
隣で我を咎めるのは長年付き添ってくれている配下、ユーリ。
「だかな、ユーリよ。こんな何もない空間で下界を見下ろす生活は味気なさすぎるとは思わないか?」
そうなのだ。
本当にこの魔界には下界を眺めるぐらいしか娯楽がないのである。
「確かにそうですね……あっ」
そう何かを思い出したかのような様子を見せるとユーリは下界で使われている『スマホ』という機械を取り出し、我にその画面を見せてきた。
「急にどうしたのだ……?」
そう言いつつ、我は差し出されたスマホの画面を見る。
そこにはこう書かれていた。
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ふむふむ……。
「ユーリよ、このVTuber?とやらはなんなのだ?」
えっ、知らないんですか?みたいな顔されても……。
我は本当に知らないのである。
下界を眺めているだけであるからな。
「はぁ、本当に知らないんですね」
「VTuberというのは、自分の姿を映さず、代わりに立ち絵…つまりイラストを画面に映して配信業をする人たちの事です」
「そして、この【Magic Monster Live】は人外の者たちを集めたVTuber事務所なんですよ。まぁ、立ち絵だけで中身はみんな人間なのでしょうけど」
うむ……でもまだピンと来ないぞ。
「あー、実際に見てもらう方が早そうですね。それ、貸してください」
そう言われたので、我はユーリにスマホを返す。
ユーリが画面に何かを打ち込み、そして再度我に見せてくる。
「これです。これがVTuberです」
ユーリのスマホの画面には『雑談配信』と書かれ、次々に流れていくコメント。
そして、画面の半分を占めるヴァンパイアの女の子のイラスト……いや立ち絵か。
『ほんとにね、やばかったの!もうあのわんちゃん可愛くてさ〜!欲しい!もう連れて帰りたい!血ぃ吸わせて!ってなったよね』
なんて、楽しそうに話している。
「分かりましたか?これがVTuberです」
「それは分かったぞ、ユーリ。しかし、何故これを我に勧めるのだ?」
よくぞ聞いてくれました。と言わんばかりのニンマリ顔を浮かべ、ユーリは話す。
「なんとですね、下界ではVTuberとなる事を『受肉する』と言うそうなのですよ。どうです?ヴァイサー様にぴったり…」
「本当か?!ユーリ!ならばこのオーディション申し込まなければだな!!」
ユーリが言い終わるより早く、我はその考えを口に出していた。
「はい、そうですね。では、私も応募するとしましょうか」
こうして2人揃ってオーディションに応募する事となったのであった。
【受肉】
普段霊体である悪魔や天使が現世に顕現する際、より安定化を図るために用いる手法。
かつては生物の魂を100万集めることで受肉の儀を執り行うことができたのだか、昨今の「魂使って受肉はコンプライアンス的に……」という風潮から現在は魂を用いた受肉はタブーとなっている。