その後、周りの貴族に私達が、
――私が妖精竜であることを。
最初はその件で社交界が荒れたけど、そのうちシルヴァレイクは妖精竜が住まう聖地とされるようになった。
ツガイの件は話せないので、リオネルのことは、「妖精竜の最愛だから、私と同じ時を生きるのだー」と、かなりぼかして誤魔化した。
ゴリ押しである。
よって、引退後も私達はずっとシルヴァレイクで過ごしていたが、たまに海外へ2人で旅に出たり、妖精界を探検したりと、スローライフよろしくすごした。
なお、私は錬金術を続けており、旅は新しい素材探しも兼ねている。
人間として過ごすには、とても長い時間だけど、意外と世界は広くて、リオネルと色んな場所へでかけた。
そのうち、私達が現役だったころの王国は消滅し、新しい国が生まれたりもした。
でも、シルヴァレイクは、その新王国内にあって独立色の強い領地となった。
少なくとも私とリオネルがいるうちは、シルヴァレイクは不滅だろう。
長い時を生きていると、子どもも、子孫も……そして知り合いや友人も、増えてはいなくなる。
見送るときは寂しいけれど、けれど、ひとりひとりを大切に思い、一緒に過ごした時は宝物だ。
私達は彼らをずっと愛している。
――そのなかで、たまに生まれ変わりじゃないかって子も現れる。
もうすぐ領地を次ぐ跡取り子孫がそうだ。
「ご先祖様たち、また旅に出るんですか? たまには領地のこと手伝ってくれませんかね」
眼の前で私達に文句を言いたそうな、ダークブロンドの子孫は、ノルベルトさんの面影がある。
名前はノルティス、今年12歳になる。
私達が名付けたわけじゃないのに、両親は似たような名前を付けたもんだ。
もう遠い昔。
私達の子どもとノルベルトさんの子が結婚したからその血筋から生まれたのだろうけど、本当そっくり。
口うるさいとことか、使えるものはリタイア先祖も使おうとするあたり、ノルベルトさん気質だわ。
「ええー」
「でもそれってノルティスの仕事だよねー?」
「はあ……?(青筋) あなた達が旅に出るたびに事業が増えて大変なんですよ!」
「領地が潤うから、よくない?」
「これ以上は、御免被ります」
私達は困った祖先のように振る舞い、ノルティスをからかう。
私達にとっては、とても懐かしい思い出を感じさせる子だ。
ノルティスは今、次期当主として領地経営を学んでいるが、とても優秀でもはや親たちよりこの子が領主なのでは? と思ってしまうくらい優秀である。
「次はいつ帰ってくるんですか?」
ノルベルトさんにそっくりな、淡々とした顔とジト目で言う。
「ノルティスー、そんな目してたらその顔で固定されちゃうよー?」
「元からこんな顔です。マルリース様」
可愛くない感じなのに、どこか憎めないところがまさにノルベルトさんぽい。
「えっと、君が結婚して……子どもが生まれる頃かな!」
リオネルは、この子がとても好きだ。
でも、ノルベルトさんはノルベルトさんで、この子はこの子、という線引きはちゃんとしているようだ。
「そんなに屋敷をあけるんですか!? ちょ……、待ってくださいよ!!」
うんうん、シルヴァレイクは、事業盛りだくさんにしてしまったから、大変だと思う。
けど、私達もこなしてきたことだし、がんばれ! 子孫!!
「そろそろ行こうか、マルリース」
「うん!」
「にゅう、きゅー!」
「ごーごー!!」
リオネルが私を抱き上げ、風で浮かべた剣に乗せてくれる。
そして、私の肩にはリージョとハルシャ。
ハルシャは、一度寿命が来たのだけれど、私と使い魔契約を交わした。
使い魔は、事故や病気は除けば主人と同じ時を生きる。
ちょっとツガイの契約みたいだね。
――そして、私達はシルヴァレイクの空に浮かび上がった。
地上では、ジト目のままのノルティスがやれやれとこっちを見上げている。
そんなに人手がほしいのかな? とも思うけど、あの子は私達に懐いてるから、きっと居てほしいんだろうな。
ツンデレさんめ。
――リオネルが起こした風でふわりと、ノルティスの前髪が持ち上がると、そこには小さな石。
「……」
石のある子が、生まれたのは初めてだ。
彼もいずれ……ツガイを見つけるかもしれない。
私たちが助け船をだすことがあるとしたら、その時だろう。
諦めたように私達に手を振り見送るノルティス。
私達もにっこりして手を振り返した。
――視界に広がるのは、澄み渡る青空と美しい雲の海。
昔から変わらない、この輝く愛おしい景色。
もう何度目の旅かわからないけれど、まだ未知の場所がたくさん残っている。
世界は広い。
その全てを、リオネルと小さな友達2人と共に見に行く約束を今回も果たす。
リオネルが私をしっかりと支え、私は彼にギュッと抱きつく。
頭の上にはリージョが乗っかり、その上にハルシャもバランスを取っている。
移り巡る周囲と違い、私達だけは変わらず、いつまでも一緒だ。
「じゃあ行くよ、しっかり捕まってて、マルリース」
そう言って、リオネルが私の頬に優しくキスをした。
今でも、彼に名前を呼ばれるたびに胸がドキッとする。
――嬉しくて、愛おしくて。
彼の愛情はずっと
それはきっとこれからも、変わらない。
私も彼にそれを返せているかな?
「うん、リオネル」
風が沸き起こり、私たちを優しく包み込む。
剣は走り出し、雲が筋状に流れていく。
剣は青空を切り裂くように空を駆け――私達は風となって、その先へ――彼方へと、飛び去っていく。
遥か遠く、まだ知らない場所へ。
――そして。
空の彼方で私達は消え、穏やかな青空だけが残った。
『半妖精の錬金術師ですが、どうやら弟が運命のツガイのようです。』
――FIN――