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89 1年後

 ――1年後。


 私は予定通りリオネルと結婚し、王都の店と、シルヴァレイクの街でオープンさせた店を忙しく行き来する生活をしていた。

 それに加えてちゃんと伯爵夫人業務もこなしてます! 忙しいよ!


「マルリース様、ご依頼の『O're(オーレ)』を採取して倉庫にいれておきました」


「あ、ありがとう。ウィルフレド! いつも急に頼んでるのに、対応してくれてありがとう」


「いえいえ。ダンジョン関連の採取ならまかせてくださいや」


 ウィルフレドは、数ヶ月前にリオネルが私のために雇ってくれた元冒険者。

 私の商売で必要な採取を引き受けてくれる使用人だ。

 奥さんも冒険者だったらしく、2人でいつも、欲しい素材をいっぱい取ってきてくれる。


 珍しい光魔法の使い手だから、こんなところで働いてないで王都でもっといい仕事ありそう、と言っても、


 『リオネル様とマルリース様にオレは一生忠誠誓ってるんで、追い出さないでくだせぇや』


 と、すごく謙虚だ。

 しかし、どうして私達にそんなに忠誠を誓ってるの!?

 なにかそんなに恩を売ったっけ?

 不思議な人だな。


 リオネルに騎士団に入らないか、とは言われてるけれど、それは断っているようだ。

 堅苦しいのが苦手みたい。


 いやー、でもすっごく貴重な人材! 話もしやすいし!

 もう王様が寄越せって言っても渡しませんよ!



 レナータさんは、リオの卒業式で私をボックス席まで送らなかったことにしばらくずっと落ち込んでいた。


 けれど、それをバネにして、ますます訓練に励んだらしく、リオネルのシルヴァレイク騎士団であっというまに近衛隊長にまで出世した。

 いまや、騎士団のなかで5本の指に入る強さになったらしい。……すごいな!? ホントに元町娘とは思えない。推し活ってすごいんだね。(※実際の推し活とは異なります)


 そんな彼女は今や私の護衛騎士だ。

 もともと、その予定で雇われた彼女だったし、リオネルの卒業式の時に、彼女が私の無茶なお願いを聞いてくれたのもあって信用できる。

 それにあの時、彼女が私を壇上へ運んでくれなかったら、ツガイの儀式すら間に合わず、リオネルが死んでいたかもしれない。

 ――とても、感謝している。


 最近、彼女は、ハルシャとよく話してる。

 何を話しているのかは知らないけれどとっても楽しそう。

 私も混ぜてほしいんだけど、リオネルに怒られるからって教えてもらえない。


 なにその禁断の遊びみたいなの。

 私も教えて欲しいなぁ。リオネルに言ってみようかな、と言ったら、


「やめてください。解雇されます。リオネル様はだいたい、本当はあなたの護衛の属性を風属性よりテレポートできる闇属性にしたいようですし……非常に危険です!」


 と真顔で言われた。

 ハルシャなら口が軽そうと聞いてみたけれど、


「あー。教えてあげたいんだけどね。リオネルが怖いし、レナが解雇されたらアタシもやだし」


 ……なんとハルシャがお口チャックだと……!?


 くそう……でも解雇は困るので、探るのは我慢している。



 それにしても。

 護衛とかつけてもらっちゃってるけど。

 私はもう実体は妖精竜なわけで。


 妖精竜になってからは、あいかわらず、属性はないのだけれど、素の魔力と体力に溢れている。

 錬金術のアイテム作成で、魔力を使うことは結構あるのだけれど、時間が許す限りいくつでも精製や生産ができるようになった。

 そして疲れない。


 ちゃんと人間の生活はしているけれど、数日寝なくても食べなくても平気だと感じる。

 ダンジョンもたまに行くけど、魔物が、私を見たら逃げる。


 こ、怖いかなあ!?


 グラナートお父さまは、他にも色々できるみたいなんだけど、私は妖精竜としては彼の足元にも及ばない。

 いちおう、慣れてきたら魔力を扱うことはできるようにはなった。

 まだまだ教わることは多いけれど、彼と同じように運命の糸を視ることはでき――たまに見かける。


 いつか、助けたいと思った人間がいたら、導くのかもしれない。


 ――でも。


 できれば、やり直す必要のない人生を、と私は祈るのだった。



 ◆



「よぉ、マルリース。久しぶり」

「お久しぶりでございます、蒼薇卿そうびきょう


『O'reの嫁』の権利は残念ながら人形師に譲渡してしまったのと、薬草クリームはもう売買ルーチンが出来上がってしまったので、最近『マダム・グレンダ』に会うことは少なくなったのだが、夜会などで『蒼薇卿』と会うことは増えた。


 それでも、話題は彼の娼館の話しや相談が多いのだけど。


「それでな。ちょっとそういうクリームが欲しくてな」

「なるほど。ちょっと素材を考えてみましょうか……」


 しかし、私と蒼薇卿が真剣に話し込んでいると必ずそこにはリオネルが割り込んできた。


「……なんの話をしているのかな? 蒼薇卿はまた、僕のマルリースにあやしげな商品を作らせようとか……してませんか?」


 笑顔が黒い。


「怪しいとは心外だな。真面目な悩みだぞ」

「そうだよ、リオネル。娼婦さんたちの一助となるアイテムに私達は真剣に」


「……で、どういう悩みかな?」


 リオネルの顔の闇が深くなった!?


「……それは」

「その、娼婦さんたちの、やる気にならない相手と仕事する時のクリームを……」


 言いあぐねる私と蒼薇卿。いや、これは真面目なビジネスのはず、なんだけど……。

 リオネルの圧が……恐ろしい。


「却下」


「うぉ」

「うぇ!?」


 そして一刀両断される私と蒼薇卿。 


「絶 対 却 下 だ!!」


 旦那様が私と蒼薇卿のアイテム作りに対して厳しい!!


 ――結局は作ったりアイデアは出していいが、私や私の工房で作ってはならないとなった。


 うーん、仕方ないとはいえ、ちょっと悔しい。


 どうやら、振り返れば結構楽しかった、娼館アイテム作りも、足を洗う時が来たようだ。



 ◆



 私達が結婚する頃に、ちょうどノルベルトさんも結婚された。


 私達も結婚式には招待されたので、参列してきた。

 奥様とは幼馴染だそうで、あんな幸せそうな顔のノルベルトさんは初めて見た。


 そしてリオネルが自分のことのように、号泣していた。

 ほんと、ノルベルトさん大好きっ子だな!



 ――そして、今日も。

 カランカラン、と店のドアが開きノルベルトさんがやってきた。


「あ、ノルベルトさん、いらっしゃい」

「よう、久しぶり。今日はいたんだな。近くの店の相談ついでに寄ってみたんだが」


「はい。最近はシルヴァレイクと行ったりきたりで。久しぶりに会えて嬉しいです!」

「おう。オレもお前が元気そうにやってるのを見て、安心した」


 王都の工房は、拡張工事も終わって、従業員も雇えた。

 いくつかの学校でアルバイトを募集して、錬金術師の卵さんを雇うことに成功した。


 これはノルベルトさんの案だ。


 錬金術師をやり始めたばかりの学生なら、数年は雇えるだろうし、あっちも勉強になるだろうから、と。

 なるほど、ウインウイン(win-win)だね!


「あー、それで。『O're』の寝具だが、また注文が増えそうだぞ。原材料が枯渇しないか?」

「それなら大丈夫です。シルヴァレイクにまさに『O're洞』!といった場所が見つかったので!」


「ほーん。まあそれなら大丈夫か。この調子だと更に店舗拡張できるかもな」

「そうですね。その時はまた、相談乗ってください!」


「いいけどな。本当にまだオレが相談に乗ってていいのか? 伯爵夫人にもなるお前だ。平民のオレよりもっと有能なアドバイスできるやついるだろ」


 ……おや。

 ノルベルトさんにしては珍しい物言いだな。


「え、ノルベルトさんってそういうの気にするタイプだったの!? 意外!!」

「お前はオレをなんだと思ってるんだ」

「何にも同時ない沈着冷静タイプ」

「頼むから、お前の中のオレに人間性を与えてくれないか」


「あはは。ノルベルトさんはノルベルトさんですよ。そしてですね。私は、商売相談に乗ってくれるのはやっぱりノルベルトさんがいいです。あと、私よりもリオネルがノルベルトさんを放しませんよ。大好きですから」


「あー、なるほどな。まあ、これからもご贔屓に」

「こちらこそ!」


 ノルベルトさんは私やリオネルに会う時、ちょっと面倒そうな顔してたけど、実はまんざらでもなかったのかな?


 この話をリオネルにしたら舞い上がってしまい、ノルベルトさんの商店に、かなりの寄付をしたらしく、後日ノルベルトさんから私に、


「ありがたいが、怖いからやめてくれ」


 と、ちょっとツンデレかな? という態度で苦情が来た。


 これからも私達と仲良くしてね!



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