数日後。
リオネルと私は、心配をかけてしまった両親に会いに行った。
2人とも、まだ目が赤くて、胸が痛んだ。
「そうか。それじゃあ……マルリースは人間では完全になくなってしまったが、日常生活に支障はないのだね」
「はい」
アーサーお父様はため息をついた。
「はあ。ほんとに一時はどうなるかと思った。そこのそいつは、マルリースが危ないかもって時に、壇上でニヤついて寝っ転がってたし……」
「死ぬ直前だったんですけど!?」
「あの時はもう回復してただろう!? いつまでも寝っころがって、ニヨニヨしよって!! どうせろくでもない夢なんだろう」
「まあ、それなりに良い夢を」
気になる!!
どんな夢を見たのか尋ねようとする前に、お母様が立ち上がってリオネルを抱きしめた。
「……なんだっていいわ。リオ、無事で良かった……!」
お母様はポロポロと涙を流した。
「あ……。ごめんなさい、母上。心配をおかけしました」
リオネルはすこし赤くなって、パウラお母様を抱きしめ返し、目を伏せた。
「私も心配した、抱きついていいぞ」
「父上は蹴ったからノーカン」
「可愛くない!?」
「あはは……」
父上は咳払いをし、すこし目を逸らしながら、
「まあ、リオネル。心配したのは本当だ。……マルリース、お前がいてくれてよかった。リオネルを助けてくれてありがとう……そして、お前も無事で……二人共が無事で本当に、良かった」
父が、近寄ってきてリオネルに抱きつく母親ごと、全員を抱きしめた。
こんな事、子供の頃以来だな……。
「お父様、お母様。私はあなた達に拾われて、とても幸せです。今まで育ててくださってありがとうございます。……これからもよろしくお願いします……愛してます」
私は誠心誠意お願いした。
私もだ、私もよ……、とギュっと抱きしめてくださった。
「あれ……? どうして僕は、その輪からはずさてるのかな!?」
あれ! そういえばリオネルが、その輪に、気がついたらいなかった。
「だってお前可愛くないもーん」
「あなたは、本当にリオネルいじりが好きねえ。そのうち本当に嫌われるわよ」
リオネルに手を伸ばしながら、お母様に怒られるお父様に、青筋たてるリオネル。
我が家らしい光景だな、と思った。
昔は当たり前の風景だったのに、何故かいまはとても眩しい。
こういったことが、きっとかけがえのない幸せだと言うのだとおもう。
「ちょっと、父上。たまには剣の手合わせとかどうですかね~」
「はっ。いいだろう。
小付き合いしながら、部屋を出ていく2人。
なんだかんだで仲が良い。
「ふふ。2人になっちゃったわね」
「ですね。そうだ。お母様はお父様のどこが好きなのですか?」
「まあ、恋バナね! 懐かしいわ。お茶でもいれてゆっくり惚気あいましょ!」
私もお母様と女子会を楽しみ――その翌日は、4人で私の実母の墓に挨拶へ行った。
共同墓地にたくさんの花を贈り、祈った。
リージョが、しばらく花の周りをウロウロして、しょんぼりしたような態度をしていた。
「リージョ、おいで」
「きゅ……」
「リージョはお母様と過ごしていたんだよね」
「きゅきゅ」
「……お母様は、お父様を愛してた? ツガイにならなかったことを――後悔してなかった? 幸せだった?」
リージョは、全ての私の問いに、耳を縦に振って肯定した。
「……私のこと、愛して、た?」
「きゅー!!」
勢いよく耳を縦に振ってくれた。
その時、ふとグラナートお父様の声が聞こえた。
《そうか、リージョにも聞けばよかったね……。。リージョを通じて、僕は全てをわかったつもりでいたけど……やっぱり、誰かから彼女の話を聞けると――安心した》
お父様の声が少し震えている。涙声だった。
ツガイを失った悲しみを、彼はずっと抱えていくのだと思うと私もつらい。
これからはできるだけ、妖精界を訪ねよう。彼が少しでも笑顔になれるように……。
《グラナートお父様。私も、お母様はお父様のことをとても愛してたと思う。でも、自分の生き方も捨てられなかったんだと思う》
私だって、例えばリオネルに錬金術をやめろと言われたら、きっと悩むだろうし……。
ともあれ――
「ありがとう、リージョ」
お礼を伝えると、基本表情の変わらないリージョが、嬉しそうな顔をしたように見えた。
「きゅうきゅーう!」
リージョのおかげで、お母様の気持ちが、少しわかった。
思い出もなく……顔も知らない。けれど、私の大事なお母様。
どうか、安らかに。