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88 墓参り

 数日後。


 リオネルと私は、心配をかけてしまった両親に会いに行った。

 2人とも、まだ目が赤くて、胸が痛んだ。



「そうか。それじゃあ……マルリースは人間では完全になくなってしまったが、日常生活に支障はないのだね」

「はい」


 アーサーお父様はため息をついた。


「はあ。ほんとに一時はどうなるかと思った。そこのそいつは、マルリースが危ないかもって時に、壇上でニヤついて寝っ転がってたし……」


「死ぬ直前だったんですけど!?」


「あの時はもう回復してただろう!? いつまでも寝っころがって、ニヨニヨしよって!! どうせろくでもない夢なんだろう」

「まあ、それなりに良い夢を」


 気になる!!

 どんな夢を見たのか尋ねようとする前に、お母様が立ち上がってリオネルを抱きしめた。


「……なんだっていいわ。リオ、無事で良かった……!」


 お母様はポロポロと涙を流した。


「あ……。ごめんなさい、母上。心配をおかけしました」


 リオネルはすこし赤くなって、パウラお母様を抱きしめ返し、目を伏せた。


「私も心配した、抱きついていいぞ」

「父上は蹴ったからノーカン」

「可愛くない!?」

「あはは……」


 父上は咳払いをし、すこし目を逸らしながら、


「まあ、リオネル。心配したのは本当だ。……マルリース、お前がいてくれてよかった。リオネルを助けてくれてありがとう……そして、お前も無事で……二人共が無事で本当に、良かった」


 父が、近寄ってきてリオネルに抱きつく母親ごと、全員を抱きしめた。


 こんな事、子供の頃以来だな……。


「お父様、お母様。私はあなた達に拾われて、とても幸せです。今まで育ててくださってありがとうございます。……これからもよろしくお願いします……愛してます」


 私は誠心誠意お願いした。


 私もだ、私もよ……、とギュっと抱きしめてくださった。


「あれ……? どうして僕は、その輪からはずさてるのかな!?」


 あれ! そういえばリオネルが、その輪に、気がついたらいなかった。


「だってお前可愛くないもーん」

「あなたは、本当にリオネルいじりが好きねえ。そのうち本当に嫌われるわよ」


 リオネルに手を伸ばしながら、お母様に怒られるお父様に、青筋たてるリオネル。

 我が家らしい光景だな、と思った。

 昔は当たり前の風景だったのに、何故かいまはとても眩しい。


 こういったことが、きっとかけがえのない幸せだと言うのだとおもう。


「ちょっと、父上。たまには剣の手合わせとかどうですかね~」

「はっ。いいだろう。気魄オーラは使うなよ!」


 小付き合いしながら、部屋を出ていく2人。

 なんだかんだで仲が良い。


「ふふ。2人になっちゃったわね」

「ですね。そうだ。お母様はお父様のどこが好きなのですか?」

「まあ、恋バナね! 懐かしいわ。お茶でもいれてゆっくり惚気あいましょ!」


 私もお母様と女子会を楽しみ――その翌日は、4人で私の実母の墓に挨拶へ行った。


 共同墓地にたくさんの花を贈り、祈った。

 リージョが、しばらく花の周りをウロウロして、しょんぼりしたような態度をしていた。


「リージョ、おいで」

「きゅ……」

「リージョはお母様と過ごしていたんだよね」

「きゅきゅ」

「……お母様は、お父様を愛してた? ツガイにならなかったことを――後悔してなかった? 幸せだった?」


 リージョは、全ての私の問いに、耳を縦に振って肯定した。


「……私のこと、愛して、た?」

「きゅー!!」


 勢いよく耳を縦に振ってくれた。


 その時、ふとグラナートお父様の声が聞こえた。


 《そうか、リージョにも聞けばよかったね……。。リージョを通じて、僕は全てをわかったつもりでいたけど……やっぱり、誰かから彼女の話を聞けると――安心した》


 お父様の声が少し震えている。涙声だった。

 ツガイを失った悲しみを、彼はずっと抱えていくのだと思うと私もつらい。


 これからはできるだけ、妖精界を訪ねよう。彼が少しでも笑顔になれるように……。


《グラナートお父様。私も、お母様はお父様のことをとても愛してたと思う。でも、自分の生き方も捨てられなかったんだと思う》


 私だって、例えばリオネルに錬金術をやめろと言われたら、きっと悩むだろうし……。


 ともあれ――


「ありがとう、リージョ」


 お礼を伝えると、基本表情の変わらないリージョが、嬉しそうな顔をしたように見えた。


「きゅうきゅーう!」


 リージョのおかげで、お母様の気持ちが、少しわかった。

 思い出もなく……顔も知らない。けれど、私の大事なお母様。

 どうか、安らかに。




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