しばらく黙って私達を見守っていた父が、ちがう話題を切り出した。
「ところで、彼……ウィルフレドだったか? そろそろ起こしていいかい? 彼の心蝕汚染を治せる妖精も呼んで、いま治療してもらってる」
父の言葉を聞いて、ウィルフレド閣下を見ると、気絶している彼の傍に、いつからいたのか美しい妖精がいた。
その妖精は、純白の羽とサラサラとした長いストレートの銀髪、そしてその頭の上には金色の光輪を持ち、まるで天使のような姿をしている。
そしてウィルフレド閣下に自分の手をかざし、キラキラと光る魔力を注いでいる。
あれは……聖属性?
「彼女は数百年前に存在した人間の聖女の魔力から生まれた妖精だ。聖女のマネごとができる」
「すごい!?」
そして美しい……私はその光景に見とれていた。
しかし。
「治ったで。ほな、ウチは帰りますわ。グラナート、またの~」
「!?」
言葉が! 見た目の印象と違う!!
私とリオネルが同時に口をあんぐり開けた。
「あ……彼女は……。方言が強い人間世界地域に遊びに行ってから、あんな風に……」
グラナートお父様が遠慮がちにそう言った。
方言が伝染ったのか!
「そ、そうなんだ。西のほうに遊びに行ったかな……って! ちょっと待ってください!!」
ついでだからリオネルも治してもらおう!!
私は天使さん(仮)を呼び止めた。
「? なんや」
「この子も治してください!!! この子も『夜影の花』の影響でちょっと心がおかしいんです!」
私はリオネルを指さした。
「え!? 僕!? 正常だよ!? マルリース!!」
「大丈夫だよ! リオネル。おかしい時って自分でわからないものだからね!」
リオネルは困惑している。だよね、自分じゃわからないよね!
だって、明らかに私への執着が……前からそうだったけど、夜影でさらに輪をかけて執着してると思うの!
「ほえ。……何言っとるかわからんけども。えー……。この人間は夜影の影響残っとらんで」
天使さんは、リオネルを
「そんなはずは! だっておかしいんです! 彼は私のツガイなんですけど! 何言ってるのかわからないかもしれないですが、妖精側の私ならともかくってな感じで……つまり、彼は人間なのに私への執着というか思いが非常識にすごすぎるというかヤバイんです……!」
支離滅裂になりつつも、私は病状を私が感じたままに熱意を持って伝えた。
ちゃんと、治してもらわないと!!
――ブチッ!
ん? なんの音だ。
「マルリース……」
「リ、リオネル……?」
振り返ると、リオネルが青筋立ててる。ヤバイ。しかし夜影の影響はなくしておかないと!!
「もう一度言うで。夜影はもう全症状、そいつは治っとる。……そいつがおかしいっていうなら、それは元からの性質やろ」
……。
「えっ……」
「マルリース。ボクもそう思うよ。ツガイの愛情を疑っていることになる、それは良くないよ。リオネルに謝りなさい」
おとうさま……?
すぅ、と冷たい空気……というか、
「うっわぁ……」
私と対面している、天使さんの顔が青ざめた。
なに! 何を見たの!? 天使さん教えて!?
「ほ、ほな、うちは帰るでの。ははは、ばいなら~。まあ、がんばりや~」
天使さんは、ぽふって音をさせて、その場から消えた。
「マルリース……」
そっと、リオネルの手が肩に乗せられる……ひっ……。
「どうしたの? 震えてるの……かな?」
耳のすぐ横で低い声がする。怒ってる! これ、怒ってる時の態度だよ!!
「り、リオネル、怒った……かな?」
「ははは。怒ってないよ。でも、僕の愛を疑うなんて、僕を信じきれてないのかな……?」
乾いた笑いが怖い!
「そ、そんなこと、な、ないよ……。お、おねえさまは、とても大事なひとが心配で、必死でですね、えー、ええっと……」
……ま、まさか正常だったとは……。
え、いや、ごめんなさい。
「あんな深い愛で私を包んでくださってるとは、私の想像を超えておりまして、その、嬉しいのですが……わ、私としては夜影のあとでしたので、そちらの影響を心配しておりましてその」
しどろもどろに説明する。リオネルは、低く優しく……ゆっくりした声だ。怒ってるおおおおお!!
「そう、いいよ。心配してくれたんだもんね……」
――《帰ってから、ゆっくりこの件は話し合おうね……》
ひぃい!! 脳に直接、低い声が!!
「そ、そぉですね……」
おかしい! ツガイって普通、人間側より妖精側が相手側より執着が強いはずですよねえ!?
――そんな話をしていたところ、
「う……」
そんな話をしていると、ウィルフレド閣下が目を覚ました。
「あ! 閣下!!」
リオネルが、すぐさま駆け寄った。
ひ、ひとまず、助かった……!