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68 妖精の店員さん

 それから一ヶ月くらい。気がつけば2月中旬が近づいている。

 外は寒いというのに、毎日バタバタ忙しい。


 店舗拡張のための、敷地はあっさり買えた。

 買い手が他にいなかったらしい。

 けど、問題はどういう建物にするかだった。


 今の店は、前の住人が残したものを、そのままそっくり買ったかんじだ。


 私は工房でデスクに向かい、新しい敷地建物のデザインを考えたが、良い案がまったく浮かばない。

 建築してもらう業者は決めたけど、デザインは一度は自分でしたい、と言ったところ後悔した。行き詰まった。


「マルリースがまた死んでるー。起きろ起きろ。がんばれー」


 ハルシャにツンツン、と髪を引っ張られる。


「きゅー」


 リージョまで!


「大丈夫だよー。ちょっと頭使いすぎただけだから。それにしてもハルシャが来て、家中に妖精の粉を巻いてくれるから、体力気力回復速いよ。すごいね、妖精の粉」


 ふと思えば、オスニエルがピクシーを捕まえてたのも妖精の粉狙いがあったのかも。

 妖精の粉、身体に良い。

 さらにいうと、錬金術の材料や、魔術の媒体にも用途がある良質の高級材料だったりする。

 最近私は、ハルシャが撒き散らした粉を掃除する時にかき集めて小瓶に詰めている。

 お家で高級材料の採取ができるとか最高である。


「そうなの? あんまりアタシは気にしたことなかったけど。でもそれならタダ飯食らいじゃないね!」


 タダ飯食らいとか、そんな言葉どこで覚えた……あ。この間のレナータさんの会話聞いてたな。


「タダ飯くらいだなんて思ってないよ! 大切な家族だよ!」


「ホント!? 嬉しい。マルリース大好き!」

「きゅうにゅーう」


 小妖精達に抱きつかれる。可愛くて癒やされる。

 君たちは可愛いが仕事だよ。対価はじゅうぶん、よし、頑張ろう。


「うーん。人を雇うなら……工房は勿論として、彼らの休憩室や着替え、場合によっては寝泊まりできるところ……シャワー室……。資料室も必要だよね。それと倉庫か……。これだけあれば十分かな?」


「デザインに悩んでるって言ったけど、こっちの家と似た雰囲気にすればいいじゃん。そしたら同じ敷地の建物だってわかりやすいんじゃないの?」


「ああ。ハルシャの言う通りね。そうしよう。……あとはもうやっぱ、プロに投げよう。他にもやること山積みよ」


「アタシは、なにか手伝える?」

「にゅ。きゅ」


「いや、いいんだよ。リージョとハルシャはそんなこと気にしなくて」

「うん、でもさ。前から思ってたんだけど。アタシ、店番やろうか?」

「え。でも」


幻影イリュージョン店番でいいなら、ホラこうやって妖精の粉をふわ~っと使って……ちょっと魔力を混ぜると」

「えっ!!」


 目の前にハルシャに似た人間の女の子が現れた! ……美少女だ!!


「幻影だから触れられないけれどね。化けてみたってやつ。応用で姿も消したりできるんだよ。ただ、丸一日とかの長時間は化けてられないんだよね」


 へえ、そんなことできるんだ。

 オスニエルの屋敷では魔力を封じられていたようだったから、そういうこともできなくて、逃げられなかったんだね。


「わあ、すっごい。そういえば変身スクロール作成材料に妖精の粉も選択肢の1つにあったな……。でもピクシーが化けるとこって初めて見た!」


 イリュージョン美少女はニッコリ笑った。


「ふふふ。化ける時なんてバレないように隠れてやるしね。ね? どうせお店って人があまり来ないから、マルリースへの取次くらいでしょ? さっきもいった通り、連続で長時間は無理だけど、たまに私やったげるよ! 近所の子供ならいつもの私でも対応できるし」


「わあ、お店にいてくれて用件聞いて取次してくれるだけで、すごく助かる! 手を止めたくない時とかもあるから……。ハルシャありがとう!」 


「うん。それに人が増えるなら、隣の敷地とかにお手紙とか運んであげるよ。連絡のやり取り必要でしょ?」

「きゅうきゅう」


 それなら自分にもできる! とリージョも小さな手で挙手した。


「二人共、ありがとう。それじゃあ、あなた達が安全に隣と行き来できる通路も作らないとね」


「うんうん、よろしく! じゃあさっそく。マルリースは自分の作業をしてるといいよ!」


 それ、とっても助かる……なんてことだ、思わぬところでお店番さんが見つかった!

 ほんの一手間のお手伝いが助かるんだよねえ。

 彼らにもお給料を考えないとなぁ。


「よし、頑張る!」


「うん! ねえ、マルリース。アタシ、あんたが大好き。リージョもだよ。ここに来られてとても幸せ。元に住んでた野原に帰ろうかなって思ったこともあったけど、あそこに帰ると思い出しちゃうこともあるから、ここにいたい。ずっとアンタ達のそばにいても良い?」


「何言ってるの、勿論だよ! ハルシャがいると家が明るくなるよ! むしろ、いなくならないで!」

「きゅうきゅう!!」

「ホント? 嬉しい。私もじゃあ家族として、手伝えることがあったら言ってね」


 そんな。

 ピクシーなんて、いてくれるだけで可愛い癒やしなのに。

 くうう、ハルシャっていじらしい。

 彼女だけでも、本当に助けることができてよかった。


「うん! じゃあ遠慮しないよ~?」

「わ、なんか急に図々しくなった!!」

「にゅっ! きゅー!!」


 それから数日、店員さんをしてもらったところ、本当にすごく助かった。

 私が家の中で、どこで何をしていようと、まずハルシャが代わりに応対してくれるのだ。


 ハルシャは、可愛らしいその容姿とハキハキした挨拶で、お客様の反応も良かった。

 予定外の買い物までついしてしまう客が出るほど、営業力もあった。


 ……できる!!


 適材適所って本当、あるもんなんだなぁ。



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