リオネルの領地で両親と共に新年を迎えた。
新年のお祝いを4人と使用人たちとで祝い、そして新年二日目には両親は、自分たちの領地ロザンティアに帰っていった。
彼らもこれから、あちこちの新年パーティへ出掛ける予定があるのだ。
私達もそう。
しかし、出席するパーティは被ったので、結局は行く先々で遭遇してた。
参加したパーティでは、リオネルと私が婚約したことや、就任パーティを終えたことを話題にして伝えた。
「これでもう釣書もこないかな」
「そうだね。それでも諦めきれない令嬢やその家門はあるだろうけど」
リオネルに近寄れない令嬢たちの視線が痛い。
前の婚約者の時にはなかったことだなぁ……。普通に祝福されていた。
世の中上手くいかないものだな。
リオネルはパーティで私から一切離れないでいてくれた。
多分リオネルがそうしてくれなかったら、私は令嬢たちに何かされてたかもしれない。
それぐらい嫉妬が見て取れた。キラキラ王子様の婚約者も楽じゃない……くわばらくわばら!
そして私の短くて忙しい冬休みは終わった。
◆
「いやー。忙しい冬休みだったね」
「お休みが終わったことに、リラックスを感じるなど……」
「私達は楽しかったよねー」
「きゅうきゅう」
工房のソファーでもたれあって私達は
小妖精たちは元気だ。
「なんだか、この工房に帰ってくると不思議とホッとするよ」
「それはアタシもそう思う。この家好きよ」
「そ、そうでしょ? この家、ホッとするでしょ!?」
私はこの家が相当気に入っているので、そんな風にやすらぎを感じてもらえると、とても嬉しい。
そして、リオネルが服をくれたものの、今日はまた着ぐるみスタイルになっている。モコモコ落ち着く。
「うん、ここの暮らしも好きだよ。日はまだ浅いけど」
そう言うとリオネルはギュ、と私を抱き寄せた。
「ぬいぐるみー」
なんだろう、犬か猫のようにモフられている気が。まあいいけど。
「はいはい。ところで、しばらくはパーティはないよね?」
「うん。次は卒業パーティまで何もないはず。それで……まだ結婚式の予定を話してなかったんだけど」
「あ、うん」
ちょっとドキリとする。
私、本当に結婚するんだな、とか思ってしまう。
「春はもう準備が間に合わないと思う。マルリースも仕事が忙しくなってきてるしね。僕も春からは、しばらく王宮務めだし」
「じゃあ秋頃にする? 夏は汗だくになるし……」
「そうだね、イチョウ祭りよりは前にすると、季節的にちょうどいいかもね」
「うん! 楽しみ。準備がんばる」
そんな会話をしていると、店のドアベルが鳴った。
「あけおめー」
ノルベルトさんの声がした。
「あ、ノルベルトさんだ!」
「えっ!! ノルベルトさん!?」
2人でバタバタと店へ出ていく。
リオネルの顔がキラキラ笑顔で……仕事から帰ってきたご主人を迎える犬のようだ!?
「よう、あけおめー、マルリース」
「あ、ノルベルトさん、あけましておめでとうございます~」
「あけましておめでとうございます!!」
「よお。リオネル卿もあけおめ」
ノルベルトさんも、そんなリオネルにもう慣れたのか普通に接している。
もはや貴族への配慮みたいなのもない。
多分リオネルがやめてほしいって頼んだんだろうけど。
私達は冬休み中にあったことをノルベルトさんに伝えた。
「へー。じゃあ、婚約パーティも同時に済んだ、?……二人共おめでとう! 良かったな!! 何かお祝いを贈らないとな!(やった……これでもうリオネル卿の恋愛相談に乗らないで済む……!!)」
「ノルベルトさんから贈り物を頂けるんですか!? 僕、一生の宝物にします……!」
ノルベルトさんの手をとって尻尾パタパタするリオネル。
なんだその懐きよう。ちょっとジェラシー沸くわよ。
「はは。お貴族様に贈るには粗末なものしか贈れないぞ」
「ノルベルトさんに貰えるならその辺りに落ちてる木の棒だって良いです……!!」
「リオネル……懐いた相手にはひたすら尻尾振るタイプだね……」
私が薄目し呆れた感じでその様子を見ていた時、
ガタッ!
外で物音がした。
リオネルの顔つきが変わり、ノルベルトさんの手を離すと、ものすごいスピードで、外に飛び出す。
そして次の瞬間、
「きゃー!!」
と悲鳴が聞こえた。
しばらくすると、リオネルが1人の女性の首根っこを猫のように捕まえて、店内に戻ってきた。
ん? ダークローズの髪色に背は高めのこの女性、どっかで見たような……。
「……こないだから
「わ、私はスパイじゃありませええええんうう。怪しいものでもありません!!」
「怪しいよ。ずっとノルベルトさんと僕の会話を最近盗み聞きしてただろう。そろそろ話をしようかと思って捕まえた」
ふと見るとノルベルトさんが手を目にあてて上を向いてる。
「……リオネル卿、そいつは宿屋の娘のレナータだ」
「……あれ? 宿屋の娘さん?」
「そーだ。……ちょっと変態だが、ただの一般人だ」
「……変態?」
変態、という言葉に宿屋の娘さんこと、レナータさんはキッ! と顔つきをきつくした。
「変態はないじゃないですか!? 私はちょっと男性と男性の恋愛絡みを妄想してるだけですぅ!!」
「大声で言うな!? なんでそんなオープンなんだよ!! まったくマルリースといい、おまえといい……」
ノルベルトさんが珍しく声を荒げて言った……って、どうして私まで!?
そして、レナータさんも負けてはいない。
「好きなことも好きって言えないこの世の中とかつまらないでしょう!?」
……!!
私はハッとした。
でも、そうだよね。好きなことも好きっていえない……そこは同感だ。
「……」
リオネルがふいに、力が抜けたかのように手を放した。
「げぶぅ!!」
レナータさんが、顔から床に落ちる。
「り、リオネル。……あの、レナータさん、大丈夫? リオ、謝りなさい」
リオネルが女性を床に落っことすなど、レナータさんの発言に私と同じで胸に来るものが合ったのかな。
……やっぱり、私から好きって言えないこと、引っかかってるんだよね。ごめんね……。
私はレナータさんに駆け寄って打った鼻を見た。
「あ! すみません。レナータさん」
リオネルはあわてて謝罪した。
「マルリースさん、ありがとう! ら、らいじょうぶれすぅ!」
「マルリース、大丈夫だ。そいつは自分の趣味の為に戦場も走り抜け、無事に戻って来るような女だぞ……」
「ええ!? 戦場!? いまこの国、戦争してませんよね!?」
「遠方の国へ出向いていますうー。推しカプの片割れが戦場に行ったら、そりゃ追うでしょう! そして無事に戻れるように補佐しないと、彼の帰りを待つ彼の最愛が悲しみますぅ!!」
「外国までチェックしてやがる……。だめだ、こいつ……!」
「……すごい人だな」
ノルベルトさんはキレ顔で、リオネルは呆れ顔だ。
私は軟膏を取ってきて、彼女の鼻に塗った。
「私が作った軟膏だよ。結構よく効くんだ~。あまり売れないけどね」
「ああ、マルリースさん、お気遣い無く! あ、でもこれスッと馴染みますね」
「ふふ、そういうの得意なの」
私はこれまた自作の傷テープをペタリと彼女の鼻に貼った。
「はう。優しい看護師さん、推せる!!」
びし! と指さされる。
……テンション高い人だな!?
「それで……どうしてマルリースの店を張ってたんですか?」
「リオネル卿、聞かないほうが――」
「あ、はい。リオネル伯爵様とノルベルトさんをウォッチしてましたあ!! 次の絵物語に描きたくて!!」
「……」
「……」
「……」
「え、それってつまり、リオネルとノルベルトさんが恋人同士の話を描くってこと??」
「マルリース! 聞くな!」
「そうですぅ!!」
「絶対やめろ! オレには来年結婚する相手がいるし、コイツらだって婚約者同士、そして来年の秋挙式だ!」
ノルベルトさんがきつくレナータさんに言い放った。
「ええ!? そんな!! てっきりノルベルトさんは一生独身で、マルリースさんは、お姉様なだけだと思っていたのに!! リアル解釈違いですううう!!」
レナータさんが突っ伏してして泣いた!!
そんな、泣かれても!?
「人を勝手に独身にするな! いい加減にしろよ、レナータ。昨年から気がついていたが、オレはそのうち自分からやめてくれないかと思い、放置してた。……が、こうなった以上は、この件は親父さんに言うからな。これはオレたちに対するセクハラ。プライバシーの侵害。そしてリオネル卿に対しては不敬罪にもなるぞー。場合によっては別の罪を加算できるぞ。オレとやりあうか?」
ノルベルトさんの目が剣呑だ!!
「もぉ、わかりましたよぉ! ふん! ウォッチできるイケメンたちは探せばこの世にいくらでもいるんですからね!!」
レナータさん強いな……。
しかし、私もリオネルは私の大事な人だから、いくらノルベルトさんでも……その、想像の中でも他の人の恋人同士にはなってほしくはな……――あれ?
さっきからリオネルがなんか考え込んでる。どうしたのかな。