「おー、リオネルは攫われたか」
「ウィルフレド閣下」
表向き笑顔で内心ではジェラシーしていたところ、ウィルフレド閣下が話しかけてくださった。
「そんでマルリース嬢はフリーか? それならオレと踊ってくれるか? オレも一曲も踊らないで帰るのもなんだし」
「え、いいんですか? ウィルフレド閣下なら踊りを申し込みたい貴婦人もたくさんいるんじゃないですか?」
「いやー。オレはほら、山男のような容姿だからな。やっぱ貴族の女性にはモテんよ」
そう言ってウィルフレド閣下は苦笑した。
多分、謙遜されてる。
リオネルがいなくなった私のガードをしてくれるつもりなんだろう。
「いや、そんなことないと思います。頼れる紳士として心強く感じますし! お髭でお顔が一部隠れてらっしゃいますけど、ハンサムなのわかりますし!」
閣下は髪と髭には気を配ってらっしゃらないところがあるから、それを整えたら、きっと貴婦人にはモテると思うんだけど。
ひょっとしたらモテたくなくて、わざとそうしてるのかもしれない。
「そうかぁ? だが、褒め言葉はありがたく受け取っておこう。まあ、なんだ。オレと踊っとけば他の令息は寄ってこないだろう。男避けとしてこのオジサンはあなたの役に立てますかな?」
軽くウインクして手を差し出された。
正直助かる。ウィルフレド閣下なら、リオネルも怒らないだろうし。
ウィルフレド閣下が傍にいれば、酔ったふりして絡んでくる令息とかも来ないだろうし。
「とっても有り難いですよ! じゃあ、行きましょうか!」
「おう」
私はウィルフレド殿下にエスコートしてもらい、ダンスホールに足を踏み入れた。
背が高く堂々とした彼の姿は、踊る貴族男性の中でも、良い意味で目を惹かれるようだった。
何人か頬を染めて見てる令嬢がいるのを私は見た。
ほら、やっぱ。モテるじゃないですかー。
◆
踊りながら閣下と話す。
豪快なステップを踏みそうだと思っていたら、しなやかで洗練されている。
うーん、これはギャップ萌えで落とされた令嬢が今までたくさんいると見た。
そんなウィルフレド閣下は、リオネルが彼に勝負を挑んだ時の話をしてくれた。
「いや、リオネルは強かったよ。度肝抜かれた。属性も俺が光だろ? 光属性が、風属性に負けるなんて思わないだろ。いや。属性が有利でも立ち回りで全然違うものと知ったよ。オレはいつも威力任せな実戦ばかりだったから」
確かに。
光属性はもう、光属性というだけで既に強い属性だものなぁ。
王族以外で持ってる人ってあまり見ないし。
「リオネルを褒めてくださりありがとうございます。リオは、父が騎士をしていましたので小さい頃から父に鍛えられてました。祖父も父も剣の腕は立つ方ほうでしたので、血筋かもしれません。だから試合形式は閣下より場馴れしていたかもしれません」
「なるほどなあ。うらやましいこった」
「でも、何でも有りの実戦なら勝てなかったかも? 実際に試合を見たわけじゃないので想像しか出来ませんが」
「ああ、確かに実戦ならオレもリオネルに勝てる余地は感じるなぁ」
「わわ、お手柔らかに……!!」
「ははは。リオネルは仲間だからそれはないから安心してくれ」
「味方でよかった!」
「しかし、リオネルも運が良すぎだろー。こんな美人で可愛い嫁さん、もらうんだろ? しかも両思いときた」
「び、美人で可愛いなんて」
「いや、自信もってくれ。マルリース嬢は、妖精のように美しい。生まれた家に血の繋がってないこんな美人の姉がいるとかリオネルは運良すぎだ」
「恐縮しすぎて踊れなくなりますよー!」
「ははは。ではここまでにしよう。 だがリオネルは本当に運が良い。希望した土地も貰いやがったし」
「確かに、リオネルは運が良いかもしれませんね」
私が祈り、願いまくってるせいかもしれないけど。
「――でも閣下も辺境伯という名誉ある爵位を授かってらっしゃいますよね」
「名誉だけはあるよなー。ここだけの話、愚痴だぞ? もう防衛とかかったるいわ。爵位返上して旅にでたいよ、オレは。もうがんじがらめでそう言うわけにもいかんのだよなぁ。剣振るっていたいだけの男が、デスクに座らされて領地の勉強させられるんだぜ? 失敗したよ」
リオネルには、戦うのが好きだから辺境伯でいい、と言ってたみたいだけど、やっぱり嫌だったんだな、辺境警備……。お気の毒だ……。
「下位貴族からしたらとてもうらやましい立場なんですけどね。でも、私も貴族から平民になったタチですからわかります。平民も生きる辛さは同じですが貴族のような気遣いなどは要らないので……なんか気楽です」
「おー! やっと意見がわかるヤツがいた。だよな。貴族生活は堅苦しいわ。オレはすぐにでもどこか旅に出たいわ」
おっと。二度目の『旅に出たい』を頂きました。
にこやかだけど、これは相当ストレスたまってそう。
そういえば、領地の外に出たら出たで、ボニファースにストーカーされてたんだっけ……。
「跡継ぎが早めに継いでくれれば自由になれるかも……って、お子様は?」
「それがいないんだよな。そろそろ妻も産めなくなる年齢だし、養子でももらっと、下世話な話だった」
「あ、すいません。余計なことを聞いたようで」
「いやいや、全然構わん。あちこちでぼやいてることだからな! オレには貴族みたいな話し方しないでくれや。平民経験者としてマルリースは貴重な仲間だ」
ニカッと豪快な笑顔を浮かべる。
見た人を安心させる笑顔だな、と思った。
「平民仲間、いいですね!」
「おう」
そんなふうに話していると、ノルベルトさんやマダム・グレンダと話しているような気楽さが出てきて、ウィルフレド閣下とのダンスは緊張せずとても楽しかった。
ちょっと休憩しようかとドリンクしていると、父がやってきた。
「娘ぇ~。お父様とも踊ってよー」
と情けなくいってきた。
「お父様、ウィルフレド閣下に挨拶してください!?」
「あっ! これは申し訳ありません!!! マルリースの父のアーサー=リシュパンと申します。リオネルがお世話になっているようで」
「いや、こちらこそお世話になっている。この間リオネルのおかげでストーカーが1人減ったしな」
……ストーカー。
……ボニファースのことかな。
「思い当たった顔してるな? マルリース。そう、おまえさんのストーカーでもあったボニファースだよ」
そこで初めてリオネルが学院でボニファースに白手袋を叩きつけた話を聞いた。
リオネル、私のために学院でそんな事をしてくれてたんだ……と、一瞬じーん、とはしたものの。
あれ以来、ボニファースを警戒してたんだよね。
余計な心配してた、教えてよ!?
「アイツ、なにやってんだ……。お父様聞いてないよ」
これは父。相変わらずリオネルに対しては私より辛辣である。
「ははは。自分の大事な女を守るための決闘なんですから、いいじゃないですか。それに彼ももう大人なんですし」
「まあ、それもそうです」
「お父様ってリオネルに辛辣なようで過保護なとこありますよね」
「ち、ちがうもーん。私は私の家門に影響でないか心配なだけなんだからね!」
父、ツンデレだった。本当はリオネルが心配なくせに。
そんな話をしたところで、パーティ終了の鐘がなった。
「お、そろそろ終わりか」
「あ、終わりの挨拶をしなくちゃ。このあと、ご挨拶できるかわかりませんので……ウィルフレド閣下、本日はどうもありがとうございました。これからもリオネルと懇意にしてやってください」
私は丁寧なカーテシーをしてその場をあとにした。
そしてリオネルと合流し、終わりの挨拶をし、解散し、お客様の誘導を行う。
宿泊客は、用意したお部屋へご案内!
全てつつがなく本日の行程は終了!
パーティ成功おめでとう! リオネル!