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63 就任、そして婚約のご挨拶


 会場に着くと、多くの来賓が待機していた。

 心の準備を整える間もなく、二人で壇上に上がると――視線が一斉にこちらに集まった。

 うわあ、とても緊張する。


「皆様、グラスは行き渡りましたでしょうか」


 私は黙って横で微笑んでればいいけど、リオネルは大変だなぁ。


「本日は、私、リオネル=リシュパンの伯爵就任を祝うこの場にお集まりいただき、心より感謝申し上げます。国王より賜ったこの地の繁栄をさらに発展させるべく、皆様のお力を借りながら全力で努める所存です。――そして、ここで皆様にご報告がございます」


 リオネルが一瞬、私を見て、私も彼を見上げて微笑み合う。そして彼は、再び会場へと目を向けた。


「私とここにいる姉、マルリースですが、婚約いたしました。血の繋がりこそありませんが、長年共に育ち、彼女は私の人生において欠かせない存在です。共に歩むことが私の望みであり、決意でもあります。皆様、どうか温かい目で私たちを見守っていただければ幸いです。」


 私なら絶対、舌を噛んでいるなこれ……。


 そして私達にたくさんの視線が集中していて、なんか恥ずかしい。

 前の婚約発表パーティの時は、心持ちが違う。

 こ、こんなこと……なんでもなかったのに。


「これからは将来の妻・マルリース、そして皆様と共にこの領地の未来を築き、繁栄へと導いていくことを誓い、この杯を掲げます。シルヴァレイクの発展と、皆様の幸せを祈って――乾杯!」


 将来の妻……なんだかくすぐったい。

 私、本当にリオネルと結婚するんだなぁ。

 現実のような気がしないのは、壇上に上がって緊張してるせいだろうか、それとも幸せでフワフワしているせいだろうか。


「乾杯!!」


 会場が乾杯に沸く。


 私にとって、一番大事なパートが終わった。

 私は立ってただけだけど!!


 あとは個々で会話したり、ダンスしたり、食事したりのフリータイムだ。


 壇上から降りてリオネルに、私からもおめでとうを伝える。


「リオネル、おめでとう。立派だったよー」

「ありがとう、マルリース。さて、今度は挨拶まわりだよ~」

「ああ、そうだった! 忘れてた。食事に行くところだった!」

「ふふふ」


 音楽も始まり、早速踊り始める人達もいる。

 歓談している来賓客のところへ行き、挨拶して回る。


 ほとんどのお客さまが、リオネルが剣聖の称号を得た時の、ウィルフレドさんとの試合の話を聞きたがった。

 あとは、王家やその他上位貴族の縁談を断った話とか。


「いえ、本当にギリギリでだったので。おまけで勝たせてもらったようなものですよ」


 また、リオネルに対して、貴婦人たちからのダンスの申し込みが殺到。

 私という婚約者が目の前にいるっていうのにー!!


 キラキラ王子の前では、そんな遠慮は吹っ飛ぶようだ。

 まあ、これは仕方ない。

 リオネル格好いいから。うん、格好いいからしかたないな。


 でも……これは他のパーティでも、私、ヤキモチ焼いてしまいそうだなぁ。


 わ、私のツガイが私以外と踊るなどー!


 くう、我慢我慢。忍耐だ。


「リオネル、一度私達踊ってこようか。そうしないと令嬢たちのダンスの申し込み受けられないでしょ」


 1番に踊るのは婚約者や配偶者でなければならないという、謎の暗黙ルールが貴族の世界にはある。


「駄目。まだ踊らない」

「え、なんで」


「マルリース。気づいてる? マルリースと踊りたそうにしてる令息がチラホラいるの」

「へ? でもそんなものじゃないの?」

「駄目だよ。……前の婚約者はひょっとしてマルリースのこと放置してたの?」

「放置? よくわからないけど。クレマンと踊ったあとは適当に誰かと踊ってたよ」


 リオネルが額を抑えた。


「……やっぱり、まだ踊らない。この無自覚美人め……」

「何を言ってるの。令嬢ってそんなもんでしょ?」


「マルリース……」

「!? リオネル、なんで怒ってるの!?」


「僕以外と踊ったら許さないからね……」

「なぜそんな、ドス低い声を!? 招待客に求められて踊らないとか失礼では!?」


「駄目ったら駄目。踊ったら許さないからね」


 ……な、なんなんだ。

 たまにリオネルのほうが、ツガイ級に執着をしている気がする。

 でも、そのふてくされた顔は可愛いな!


「しょ、しょうがないな。わかったよ」


 とは言ったものの。

 やはり、主賓としてはサービスもしなくてはならない。


「今日だけ、今日だけだからね!?」


 自分以外と踊るなと言ったリオネル本人が、貴婦人たちの群れにさらわれていった……。

 私と一度踊ったあとではあるけれど。


 ただ、たくさん群がってくるぶん優先順位がつき、踊ると良くない相手……未婚の令嬢などは逆に断りやすいようだった。

 既婚女性とばかり踊っている。


 ……それでも、やはり、嫌だ。

 ……私のツガイがー!! 私のツガイ持ってくなぁああ!! 取り返したい!!


「くぅ……っ」


 しかし、ここは妖精ルールを発動してはならない場所だ。そして私達は主賓だ。サービス提供側だ。

 我慢しよう。我慢……!



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