「で、何の話してたの?」
夕食時にハルシャが興味津々に聞いてきた。
「あ、いやそれは」
私が言いあぐねていると、リオネルがサラッと答えた。
「ハルシャが、ツガイの話しをしてくれたでしょ? その話。やっぱり僕はマルリースのツガイだったよ。ありがとう」
「あ、なんだ。そうだったんだー!」
無邪気にケラケラ笑うハルシャ。だが。
「ハルシャ、おまえもか……!」
リージョだけかと思ったら、リオネルにツガイのことがバレた原因は、ハルシャにもあったんだね!?
私はハルシャの持っていたさくらんぼを取り上げた。
「ああ!? ごめん!! 喋ったつもりではまったくなかったんだけど!!」
「ははは、まあまあ。マルリース。良い結果になったでしょ。……まさか違うとは言わないよね」
リオネル、怖いから段々声のトーン落とすのやめて!
「それは……そう、だと思うけど」
私は目の片隅でリージョを見た。
「きゅ……きゅ……」
すまなそうに、たまに小さく鳴いてる。
そして、さっきから食卓に近寄ってこない。
私は、軽く息を吸って声をかける。
「リージョ。ご飯だよ」
「きゅー……」
「……怒ってないから。でももう約束を破るのは二度とやめてね」
「……」
リージョは耳を上下に振ってウンウンした。
「おいで」
私が微笑んで手招きすると、
「にゅ!!」
リージョが元気を取り戻したような声で鳴いて、食卓へやってきた。
「リージョ。それでも僕は有り難かったよ」
リオネルがリージョの頭を指先で撫でた。
「にゅー……」
気持ちよさそうにスリスリするリージョ。
そういえば、リージョはリオネルにも昔からよく懐いてたな。
……そうか、リージョはずっと私にもついてまわってるけれど、リオネルのことも家族だと思ってるんだね。
幼い頃は、遊ぶ時は3人一緒だった。
何も言えないリージョだけど、リオネルが家を出て私達が離れ離れになった時、悲しんでいたのかもしれない。
リージョはきっと、私がリオネルに打ち明ける事を望んでいたんだね。
◆
「マルリース、ちょっと」
食後、リオネルにまたソファへ座らされた。
なんだろう。
さっき、全部話せるだけ話したと思うけど。
なにか質問かな。
「ん?」
「ちょっと、額の石見せて」
「いいけど、どうしたの」
私はサークレットを外して前髪をかきあげた。
「んー……。今まで石に対して探りをいれたことがなかったから、ちょっと」
リオネルに両手で両こめかみを包みこまれてジロジロと、石を見られる。
う……!?
リオネルは真剣に額石を眺めてるけど、私はなんだか恥ずかしい。
リオネルは額石にすこし触れたり撫でたりしてなんかやってる。
「わ……」
なんだかくすぐったい……!!
「え、触るとなんか痛かったりする?」
「いや、そうじゃなくて」
「あー、うん。恥ずかしいんだね」
「いや、そんなことは」
「いやいや、顔赤いし」
そこまで言うと、リオネルは笑顔で私を開放した。
「ふう……」
私はそそくさと、前髪とサークレットを戻した。
「うん、やっぱ何かが通ってるのを感じるね。その石。その脈の流れみたいなのは掴んだ」
「まあ、心臓みたいなものってグラナートお父様は言ってたから、何かしらはあるかもね、とは思ってたけど。脈があるのかー。血管でも通ってるのかな。でも、それを調べてどうするの」
「手紙に人間じゃなくなったら割ってって書いてたじゃない」
ゾクッ。
「あ、あああ。そうだね」
額石を割る、その言葉を聞くと、まるでとても高いところから、地面を見下ろしたような寒気。
「できるだけ、傷つけないようにというか、ついでにマルリースの頭を割ってしまわないようにしないと、と思って……」
「怖い!?」
さらに、心臓に杭打ちますね、と言われたような恐怖が襲ってきた。
望んでいることとはいえ、怖い……!
でも、確かにリオネルなら、私の首から上を霧散させるなど朝飯前……怖い!
「怖いね。でも大事なことだから。それに僕は、できたらその石を割りたくないんだ」
「そりゃ、私もそうだけど……」
「だから、できれば石は残して、石の中に流れる『気脈』を断つ方向性を考えたくて。妖精竜になるのだってきっとその石を中心に起こる現象だと思うから」
「なるほど……絶対、竜にはなりたくない。怖い……」
私は石を守るようにサークレットの上から額を手で隠した。
「うん、気をつけようね……というか、間違ってうっかり告白してツガイ成立しても、何でもなかったらいいのにね」
「その可能性もあるけれど……グラナートお父様のようになったら人間界には居られないから」
私はグラナートお父様がオスニクルの屋敷で姿を
あれは、確かに人間界にはいられない。
「そうなったら、約束通り、石は割るようにはするけれど……。もしも僕が割れなかくて竜になってしまったら、僕はマルリースと一緒に妖精界へ行くよ。でも一生かけて人間に戻れる方法を探すよ。見つかるのが、例え人生の残り一日だったとしても諦めないから」
「リオ……」
思いあっていても、ツガイとして成立していないから、まだツガイの儀式の話はできない。
ごめんね……。
リオネルは私の肩を抱き寄せ手をとり、キスをした。
「絶対諦めない。約束するよ」
私は胸が震えた。また泣きそうだ。
こんなに思ってもらえるなんて、果報者だよ。
「私は、竜になったら一緒にいてもらえないと思ってた。妖精界なんてどんなところかわからないし」
「そう思うのは普通だと思うよ。でも僕も普通じゃないんだよね。ツガイの強烈な思いがどんなものかは知らないけど――僕の思いはそれ以上だと思う。ふふ。僕のマルリースへの執着は……半端じゃないよ? なんなら貴女がどこかに嫁いでその家での義務を果たしたあとに結婚申し込むのでもいいと思うくらい」
「……」
いや、つい今、果報者だなあ、と感じていたけど………え、まさかそこまで?
「いまちょっと、引いたよね?」
「えっ。そ、そんなことないよ」
「ほんとかなー。まあいいけど。とりあえず、もう貴女は僕のだから」
リオネルはそう言うと、私の額石にキスを落とした。
「……っ」
僕の、と言われて――胸の奥が熱くなった。
私もこの愛に応えたい。
「リオ……。私、リオがツガイで本当に良かった。私、リオが」
しかし、手で口を塞がれ最後まで言わせてもらえなかった。
「ごふぉ!?」
「……それ以上、いけない」
「もふぉー! もふぉー!」
私は口を塞がれたまま、手をすこしブンブンして、抗議の意をあらわした。
「こーら。暴れない。今、禁句を言いかけたでしょー? ホントにもう、貴女のうっかりは油断も隙もない」
確かに、私も好きだよ、みたいなこと言いそうになりましたけども!
だからといって、毎回こんな事されたら、良い雰囲気も台無しですよ!!
やっぱどこか変な気がするよ! この恋人関係!!