いよいよ年末が近づいてきて、寒さもだんだん増してきた。
姉上の家で暮らすのは楽しかった。
リージョとハルシャもいて賑やかだし、何よりここには、いつでも姉上がいる。
領地をもらわずに、ずっとここで暮らすのでも良かったな、とたまに思ってしまう。
「わあー。マルリース、リオネルー!! 雪が積もってるよおー!!」
ハルシャが窓から外を見て騒いでいる。
姉上から羽をつけてもらってから、すっかり元気になった。
どうせバレるし、とハルシャのことは新しい家族としてご近所には紹介したようだ。
ピクシーのいる店として評判が広まりつつある。
最近はハルシャ目当てで子どもたちが来るようになったので、姉上は安い駄菓子なんかも販売し始めた。
なかなか商魂たくましい。
「きゅ! きゅうー!!」
リージョも一緒に騒いでいる。小さい二人が騒いでいると、可愛いな。
今年の冬は厳しそうだ。
例年より寒い気がする。
年末には姉上を領地に招待する。ここよりもう少し寒いけど大丈夫かな? とか考えつつもとても楽しみだ。
「ひゃー。雪は楽しいけど寒いよねえ」
姉上が自分で編んだショールと大きなカーディガンで
寒いの苦手なんだね。そういえば、昔も実家でよく
「ねえねえ! 外出ていい!?」
「こんなに寒いのに!?」
「きゅう! きゅう!」
「ああ、もう。中庭にちょっとだけよ!」
「わあああい。行こう! リージョ!!」
「にゅう! きゅう!」
ハルシャは、リージョの頭にちょこん、と乗って行った。
たまに飛ばないでそうしてる。
多分リージョに乗っかるのが好きになったんだろう。
リージョもハルシャを乗せて移動するのが好きみたいだ。
片側が喋れなくてもあんなに仲良くなるものなんだなぁ。
「よし、ついでだから薪割りをしてくるよ」
「よし、ついでだから薪割りするかー!」
「「……」」
走る殺気。
姉上と僕の間で唯一殺気が走る言葉かぶり。
「ハッピープリン!!」
「ハッピーぷry ……ああああ!!!」
「僕の……勝ちだ!!」
「くそう! くそう……!!」
「お言葉が汚いですよー。姉上。僕が薪割ってる間に、プリンでも作っててよ」
「うーむ、こればっかりはしょうがない」
まあ、僕が負けたのは過去1回だけなんだけどね。
こうして姉はプリン作りにキッチンへ、弟は薪割りへ庭に出るのだった。
◆
庭にでると、小さな震える雪スライムが2つ出来上がっていた。
「むごごごご……」
「にゅにゅにゅきゅにゅ……」
「君たち大丈夫? その遊びは危ないよ。雪玉つくってそれのぶつけ合いにしなよ」
どうやら、お互い動けなくなるまで雪を掛け合ったようだ。
小さいからすぐ埋もれた模様。
「にゅ……にゅにゅ……!」
雪を取り払うと、すっかり冷えたリージョが僕のタートルネックの内側に入り込んできた。
「冷たっ!?」
「いいなぁー。さすがにレディとしては、男性の懐には入れないわ。でもあったかそう」
「じゃあ、ポケットに入る?」
僕はコートの胸ポケットを指さした。
「わーい、入るー!」
小さいズにモテモテになってしまった。
「薪割るから、ちょっと動くよ」
「大丈夫ーがんばれー」
「にゅーきゅー」
小さいズに応援されながら、薪を割る。スパパパパン! と。
「剣聖ってすごいわねー。斧の扱いも上手なのねー」
「まあね。叩く壊す切る、だいたい得意だよ」
「言い方、怖っ!?」
「あはは。でも戦うことに特化してるのは本当だからね」
「物騒ねぇ。……あ。そういえばさー。あんたってマルリースのツガイなの?」
「……え?」
僕は、薪を割る手を止めた。
「ツガイ……?」
「どう見ても、マルリースのツガイって感じするんだけど。マルリースは教えてくれないのよねー。ツガイの話禁止、とか言われちゃったし。アタシ、口堅いのに信用ないのかしら」
……それは口が堅いとは言わないんじゃないかな。
僕にはそういう新情報は助かるけれども。いや……それにしても……。
「え、ツガイってあの、妖精や魔物が一生に1人だけっていう伝説の恋人みたいなやつ?」
「そうよ~。あれ、でもあんたが聞いてないってことは違うのかな。それにツガイって、見つけたら告らずにいられないほどの強烈さがあるって聞いてるから。マルリースはずっとだんまりだし」
ピン、と来るものがあった。
彼女は半妖精だ。
そして、イチョウ祭りの日を境に、僕に対する態度が変わった気がしてた。
それは僕に取って好ましい反応ではあったが、どこか不思議には思ってはいた。
やっと連絡が取れたという妖精の父親とのことで何かあったのだろうか?
それがきっかけ?
いやでも、運命というならば、子供の時から、気がついてるはず……?
「それって、子供の頃から気がつくもの?」
「うーん、子供時代がある妖精もいるだろうけど、そうじゃない妖精もいるからなぁ。わかんないや」
「そっか、ありがとう」
確かに。妖精は多種多様だもんね。
しかし、ハルシャに口止めするってことは……。
やはり、それは『当たり』なのではないだろうか。
もしそうなら、彼女の思いは僕と同じかそれ以上に強いかもしれない……そう思うと胸の奥にじわりとした温かさが広がっていく。
確認すらしてないこの状況で、期待しては駄目だ……と自分に釘をさすものの。
最近感じていた確信が、さらに固まっていくような感覚。
そこへ、勝手口のドアが開いた。
「ねえ、ちょっと卵足りないから買ってくるよー。留守よろしくー」
「あ、うん。行ってらっしゃい。気をつけてね」
「商店街いくー? 私も行くー!! 商店街賑やかだから好きー!!」
「あ、ハルシャ」
もっと詳しいことを聞きたいのに、ハルシャは飛んで姉上について行ってしまった。
「……」
静かになった庭に、雪がひらひらと舞い落ちる。
「……姉上も、半妖精だから……ツガイが……?」
それが僕だ、という確証はない。
けれど、それが本当なら、僕は彼女の運命の相手ということだ。
鼓動が早くなる。
どうしよう、今すぐ聞き出したい。
帰ってきたら問い詰めてしまうかもしれない。
「ぬゅ~~~~~~……」
にょき、とリージョが、タートルネックから耳を出した。
「ん、リージョ。外にでる?」
「きゅ」
リージョは、服から飛び出して、雪積もる地面に飛び降りると、小さな手で僕のスボンの裾を引っ張った。
「え? なに?」
リージョは僕を誘導するように姉上の部屋へ連れて行った。
「リージョ、流石に僕は、勝手に入れないよ……。ドアは隙間を開けてあげるから、1人で入ってくれる?」
「……」
リージョは無言で僕を見上げたあと、姉上の部屋に入っていった。
それを見届けて立ち去ろうとすると、カタ、ガタンという音がして、何かが落ちる大きな音がした。
うわ、仕方ない。
「リージョ、大丈夫!?」
僕が扉を開くと、リージョは床に落ちた机の引き出しの上に乗っかって、手紙を僕に差し出していた。
「……え、何?」
「きゅう。きゅ! きゅきゅ!」
リージョは僕に手紙を押し付けると、引き出しをもとに戻すようなジェスチャーを伝えてきた。
僕はとりあえず引き出しをもとに戻した。
「いや、リージョ。手紙は勝手に読めない……って」
――リオネル=リシュパン様
「え、僕宛……? でも、渡されてもないのに」
「きゅ、きゅ」
僕が、引き出しにそっと手紙を戻そうとすると、リージョは耳をブンブン振ったあと、僕の引き出しに触れた手をペシペシ叩いた。
「……読んだほうがいいの?」
リージョは耳を立てに振った。
「……。しょ、しょうがないな」
僕は仕方なく手紙を開けた。
よく見ると、僕以外が開けると燃え落ちる封印が施してあった。
そんな重要なことが書いてあるのか……?
姉上に心で謝って封を切り、手紙に目を通す。
「…………」
――これって……。