今日はノルベルトさんの商店まで『O’re』寝具のテスト品を持っていった。
ノルベルトさんの商店は、大きな倉庫をまるごと店にしてしまったような作りだ。
彼の性格が現れているのか、種類豊富な品物数に対して、整理整頓がきっちりなされて陳列されてスッキリしている。
外国の柄デザインが珍しいカーペットや、家具類・芸術品も置いていて、ちょっとした博物館のよう。
そのせいかウインドウショッピングしにくる人も多い。
「ノルベルトさんいるー? 試作品持ってきたよー」
「おう」
商店のスタッフルームにお邪魔して、試作品を彼に見せた。
「ほーう。いいんじゃないか」
「ちょっと持ってくるのが遅れてごめんなさい。ちょっと、色々あって」
「あー。大丈夫だ、知ってる。大変だったな。氷漬けにされかけたんだろ? もう大丈夫なのか」
「ありがとうございます。いえ、もう全然元気ですよ! ってなんで知ってるんです!?」
ニュースにも、私の名前はでてなかったはずなのだが! しかも、氷漬けのことまで!!
「いや、街でお前に似た容姿の娘がさらわれた、と噂が流れていたから気にしてはいたんだよ。そしたら、お前の
「はい!? なんでリオがここに!?」
「何故かはわからないが、最近よく、雑談しにくる」
「何となくそう思ってましたが、仲良くしてくれてるんですね。ありがとう~。ご迷惑かけてないですか?」
リオネルが、私以外で、こんなに仲良くしてる人を初めて見た。
学院にもこういう友達いるのかな。
「……いや、べつに(内容の大体が、お前に関する恋愛相談や惚気だがな!! お前らの情報が筒抜けでオレは辛い。早くくっつけお前ら!!)」
どうやら、表情的にノルベルトさんもまんざらではないようだ。良かった良かった。
「それじゃ、あと何回か持ってきますね。寝具はかさ張るから1回じゃ運べなくて」
「ああ、寝具を運ぶのは大変だろ。今から、オレも取りに行くわ。事前に言えば最初から手伝ったものを」
「おお、ありがとう~。でも、配達も大事な仕事ですから取引先にご迷惑おかけするなんてできませんよ」
「ほーん。良い心がけだな。 だが、効率を考えるとだな。……ほら、行くぞ(そこ気にするくらいなら弟なんとかしてくれ)」
「ありがとうございます。じゃあ今回は甘えますねー」
そうやって、ノルベルトさんに促され、雑談しながら我が家へと向かう。
「そういえば、リオネル卿は今日はいないのか? 彼がいれば、こんなの一瞬で運べるだろ。喜んで手伝いそうだ」
「リオネルは、今日は自分の領地に行ってます。あの子はあの子で自分の仕事、もうあるんですよー。実家の領地へもたまに足を運んで、勉強してるみたいですし」
「なるほどな。領地2つは大変だな。領地は離れてるのか?」
「いえ。領地をいただく時にお願いしたそうです。実家の子爵家と近い場所でと。そうしたら地続きのところに、頂ける場所があったらしくて。子爵家を継いだあとは領地を1本化するつもりかと」
店が見えてきた時、ノルベルトさんが言った。
「……もしもだが」
「ん?」
「もしも、お前とリオネル卿が結婚したら、お前はあの店どうするんだ?」
「……えっ」
私はカーっと赤くなって、その場で固まった。
わあ……困ったな。
もしもの話を言われただけで、こんなふうになってしまうなんて。
鋭いノルベルトさんには私がリオネルをどう思ってるか、気づかれただろうな。
「(あ、しまった。失言だったようだ)……いや、例えばだ、例えば。お前も結婚することはあるだろうと思って。そうしたら店を続けられるのか、とふと思ってだな。例えばリオネル卿みたいな御仁と結婚したら、その領地へ引っ越さないといけないだろう?」
「あ、ああ。そ、そういうことですね(カクカク)」
「……(完全にビンゴだなぁ。リオネル卿も一緒の家に押しかけて住むほどの行動力あるならとっとと告れよな……)」
――その時、大きな声がした。
「その告白、ちょっと待ったぁ!!」
「あ?」
「ふぇ?」
私とノルベルトさんは、声がしたほうを同時に見た。
「マルリースさん……!! お久しぶりです!!」
「……あ。あなたは……えーっと」
オスニクルの屋敷で会った、剣聖ウィルフレドのストーカー。
そして幼い頃、私の足に怪我を追わせたリオネルの同級生、ビルヒリオ=ボニファース子爵令息!
彼は、花束とカゴにいれたワインを持ち、顔を赤くしている。
「知り合いか?」
「弟の同級生ですね」
「……じゃあ、お貴族様だな」
ノルベルトさんの顔が引き締まる。
モードチェンジした!
「ビルヒリオです……。その!! 昔、あなたの誕生日パーティで追い回してしまったこと、まずそれを謝りたくて……!! これ、その!! お詫びの花束と、我が家で作ってる最高級ワインです!! そしてっ! その男の告白を受けるくらいなら、ぜひオレと付き合って下さい……!!」
ちょっと待って。勘違いを含んだ情報が混じっていますよ!
何故、ノルベルトさんが私に告ってると思った……あ。 私が頬を染めていたからか?
そして10年以上前の謝罪にいきなり花束とワイン? さらに交際申し込み!?
なんでワイン? ……ああそいういえば、ボニファース家はワイナリーが主な事業だったな。
どうでもいいけど、謝罪ならば、金をください。金を。あ。その高級ワイン売ってもいいですか? と俗世にまみれた私はそう思った。
それに、花を貰うならやっぱり、リオネルから貰いた……いや、何を考えてる私。
今はそんな場合ではない。
それにしても、名前でさっき呼んでたな……この間はリシュパン子爵令嬢と呼ばれたから……さては私が平民になったこと調べてきたな。
しかも、帰り道である、この道に現れたということは、私の住まいがバレているということだ……怖!