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50 恐ろしい夢、驚愕の朝 (※残酷な描写有り)

 グラナートお父様とリージョの話は、リオネルには、本当に簡単に説明した。


 リージョを通じて、今まで話せなかったお父様といきなり話せるようになった、とだけ。

 まだ挨拶程度しか私も話をしていないから、そんなに話すことはなくて……と。


 ちょっと怪訝そうな話はされたけれど、一応は納得してくれて、グラナートお父様と話ができるようになったことを、喜んでくれた。


 ごめんね。全部話したいけど……細かく話すと色々ボロがでそうだから……。




「じゃ、おやすみ。姉上」

「うん、おやす……!?」


 リオネルが頬に、ナチュラルに、私の頬におやすみのキスをして自室に行った。 


 はああああう!!!


 私は、自室に入るとベッドに突っ伏した。ぷしゅーって音がでた気がする。


「顔真っ赤だけど、あんた、大丈夫……? もう一度聞くけど、弟なんだよね?」

「きゅ。きゅ」


 ハルシャが、呆れた目で私を見ている。

 リージョは何を思ってるのかわからないが、耳をゆらゆらしてる。


「アタシ、ツガイ見つけた妖精の様子なんて見たことないけど、なんかあんた見てると」

「わ、私達も寝ようね!!」


 私は、リージョとハルシャのかごを手にし、自室へ向かいベッドに入った。


 この部屋の廊下を挟んだ向かい側で、リオネルが寝てるのかと思うと、ドキドキしたし、嬉しくて眠れそうにない。

 昼間あんなに怖いことがあったのに。

 ツガイが傍にいるってこんなに幸せなの?

 結ばれなくてもツガイ最高じゃない……?

 良い夢も見れそう……。



 しかし。


 ――その夜、私は恐ろしい夢を見た。



 夢の中、私は暗闇を歩いていて、そのうち明かりが見えた。

 その明かりの中には、牢屋で苦しんでいるオスニエルが見えた。


 ぼんやりと見ていると、悪夢が始まった。



 ◆

 ◆

 ◆



 ――――◆オスニエルSIDE◆(以下しばらく残酷描写)



 ――簡易トイレと堅いベッドだけがある小さな独房。 そこでオスニエルは胸を押さえて息を上げていた。


 「馬鹿な……、あのタイミングで、あいつが死ぬなんて……! うあっ……!!」


 その日の夜に浮かぶ月は、いつもなら歓喜の声を上げて晩酌するような美しさだが、今のオスニエルにはただの風景だった。


「なぜだ……。計算上、アイツはまだあと数年はもったはず……!」



 ――バカだ。


「……あ?」



 ――うん、バカだね。


 誰もいない独房に自分をさげすむ複数の少女の声がした。


「……っ!?」


 ――自分の病気が悪化してるんだから、そりゃツガイの寿命の減りも早いわなー。

 ――ばーか。




「なんだと!?」


 オスニエルは苦しみながらも、その自分をあざける声に、怒りをもって反応した。


 ――怒ったよ。

 ――怒ったね。

 ――こっちのほうが怒ってんのにね。


 目の錯覚だろうか。

 薄暗い牢屋の中に、白い服を着た少女が、1人、また1人と姿を現す。


「……っ! バンシー……!!」


 オスニエルは苦しみ息継ぎしながらその正体を声にする。


 ――さすがオスニエル

 ――すぐにわかったね。さすがオスニエル。

 ――わかったってことは、もう、わかるよね? お前は、あと数日で死ぬ。


「なんだと……!!」


 ――お前と、お前の最初の妻のせいで、私達一族は妖精王から罰をくらった。


 ――お前とお前の最初の妻のせいで一族みんな、これより100年、ボロボロの服を着た老婆の姿をとらなくてはならなくなった。


 ――その間にツガイが現れたら。


 ――老婆なんて好きになってもらえないわ!! 最悪!!


 ――最悪! 最悪! 普通の恋だってできないわ!


 いつの間にか、狭い牢屋いっぱいに詰まるほど現れたバンシーたちは、口々に苦情をあげる。


「うるさい、うるさい、うるさい!!! おまえらなんか若かろうと、年寄だろうとツガイなんか得られるものか……っ!!」 


 ――うるさい、お前が黙れ。

 ――まあ、こいつはもうすぐ黙るよ。死ぬし。

 ――普通に死なせるの面白くない。呪いかけようよ。

 ――いいね。あと数日だけど、瞬きする度にいろんな死に方する悪夢見るとかどうー?

 ――ええねぇ。私はもとからそのつもりだったでぇー。


「お、おまえら!! くそっ!!」


 心臓の苦しみに耐えているオスニエルだったが、それでも立ち上がり、バンシー達を殴ろうと起き上がったが、複数のバンシーに蹴られ、そのまま床に突っ伏す。


「……がっ!?」


 バンシーが、1人、また1人とオスニエルを踏みつける。


 ――やったな~というか、やろうとしたな~。この!

 ――やったれー!

 ――この妖精の敵がー!

 ――しねーい。


 ドスドスドスドス……。


「……っ。……ああっ、き、さまら……ぐうっ!!」


 これは既に呪いの悪夢が始まっているのか。それとも現実なのか。

 何度も何人にも踏みつけにされている間に、オスニエルはわからなくなった。


 それは……ずっと続いた。



 ◆

 ◆

 ◆


「……」


  その夢をまるで観劇するかのように立ち尽くして見ていた私は、非常に怖くなって手探りで触れた何かに、ぎゅ、抱きついた。


  ――温かい。


 見ると抱きついたのは、リオネルだった。

 傍にリオネルがいた。


 あ、良かった。

 リオネルも一緒だった。


 ――リオネル。

 怖い夢だね。


 私がそう言うと、リオネルは大きな手で私の頭を撫でてくれた。


 安心する。

 そして嬉しい。

 こんな怖い夢がちっとも気にならなくなる。


 大好き。私のツガイ。




 ◆

 ◆

 ◆




「……姉上、起きて下さい……」


 ペチペチと頬を叩かれた。


「うん? うーん」


「あ・ね・う・え」


「ウン……?」


 ん? リオネルが私をお越しにきてる。


 なんだ。……寝坊したかな?


 リオネル……ん?


「……マルリース」

「……」


 マルリース、と呼ばれて私は目を開けた。


「……起きた?」


 目の前には寝間着姿のリオネルが真っ赤な顔してベッドで横たわり、私がガッツリ抱きついている。


 ……んっ!?


「ん!?」


「……ん? じゃないよ……。そろそろ、起きて……その、離してほしいんだけど……」


「ぎゃーーーーーーーーーー!? わっ!?」


 私は事態を把握し驚き、後退り、ベッドから落ちそうになった。


「あ、ちょっと! 姉上!!」


 間一髪で後頭部を床に落としそうになったところを、リオネルに支えられた。


 私とリオネルは、ベッドの上で正座した。


「こ、これは一体」

「言っておくけど、僕が寝てる姉上を拉致ってきたわけじゃないからね……?」

「え、つまり?」


「えー(コホン)。……昨晩、ふと気配を感じて目を開けたら、ドアの前に姉上の気配がしたんだ。どうしたのかなって思ったらそのまま僕の部屋に入ってきて」


「え……」

「どうしたのって声かけたけど、そのまま、すーっと僕のベッドに入ってきて……」


「ええ……」

「僕に抱きついて……そのまま、寝ました……朝日昇るこの現在ときまで……」


「……」

「……」


 私はベッドに手をついて土下座した。


「……申し訳ありません!?」


「いや、別にいいんだけど……よくないというか、僕は眠れなかったよ……うん」


 リオネルが顔を赤くして、目を逸らして話している。

 うう、こんな時なのに可愛いと思ってしまう。


「さ、昨晩、こ、怖い夢見たからかなぁ!?」


「確かにね。怯えてうなされてたから、僕もそのままにしてしまったんだけど。……怖い夢みたら家の中を彷徨さまようの……? 病院行って検査をしたほうが」


 おまえ、すぐ病院連れて行こうとするな!


 しかし、すぐとなりの部屋でツガイが寝ているからといって!

 うう、まさか、フラフラと入り込んでしまうなんて!! 理性飛んでる!!

 怖い! 自分が怖い!!

 いや、見た夢も怖かったけど!


「い、いや。今まで自分のベッド以外では寝たことはないから……多分……リオネルがいるのわかってたから……無意識に安心して……き、来ちゃったのかも!?」


「ホントかな。こんなんでよく、今まで一人暮らししてたね。ますます心配になったよ。怖い夢みたら街を徘徊して知らないおじさんのベッドとかで寝たりしないでよ……」


「しないよ!?」


 これは多分、リオネルがツガイのせいだからー!!


「……はあ」


 リオネルに、ため息をつかれた!!


「姉上。僕はおかげで一睡もできてないんだ。今日は午後から講義があるから、少し寝るよ。悪いけど……出てってくれる……。さすがに寝不足は僕もきついから……」


「ああ……すいません。寝て下さい。起きたら軽食つまめるようにしておくね……」


「うん。それは助かる。お願い。」


 そう言うと、リオネルはガバっと頭から布団をかぶって横になった。


「ほんと……ごめん……」


 私は小声でそう言うと、足音をたてないように、ドアの音をたてないようにリオネルの部屋を出て、そのまま自分の部屋へ入った。


「あ、おかえりー」

「きゅ!」

「え、えっと……」


「昨晩はびっくりしたわよ。アタシ、寝れなくて月を見てたら、あんたが急に起きあがって、無言で部屋出てっちゃったもんだから」


「……やっぱ自分で部屋出てったんだ……」


 私はその場で顔を隠してしゃがみこんだ。

 ハルシャが不思議そうに首をかしげる。


 ああもう。ツガイ、日常生活に支障がありすぎる……!!



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