家につくと、まずリージョ達に声をかけようと、姿を探した。
ハルシャはリージョのかごベッドで横たわって眠っており、泣いた後がやはり痛々しかった。
リージョはかごベッドもたれ、どこで採ってきたのか、一輪の花を手に持ちプラプラ揺らして遊んでた。
「ただいま、リージョ。あら、ハルシャにベッド貸してあげたんだ、やさしいね」
ウンウン、と頷くようにリージョは縦に耳を振った。
「リージョ、ただいま。お留守番ご苦労さま。今日から僕もここで住むからよろしくね」
リオネルが人差し指でリージョの頭を撫でた。
「きゅきゅ」
気持ちよさそうに頭をリオネルに預けるリージョ。
「ふふ。お留守番ありがとう。リージョ達のぶんも、お昼ご飯買ってきたよ。おてて洗っておいで」
「にゅ! きゅー!!」
リージョはリオネルに言われて、手を洗いにいった。
私はハルシャにできるだけ優しい声で話しかける。
「ハルシャ、起きて」
「ん……あ。おかえりなさい。アタシ、寝ちゃってたんだ」
「うん。寝かせてあげたかったんだけど、私達はお昼食べるから一緒にどうかなって」
「ありがとう。でも食欲、ないんだ」
「だよね。でも果物やサンドイッチとか……食欲ないと思うけど食べれそうなものあったら、チャレンジしてみて」
「あ……うん。そうだね、そうする」
「リージョみたいに手あらう? はい、乗って? 洗面所連れてってあげる」
「ありがとう、ごめんね」
私はハルシャを手に乗せて、洗面所につれていった。
手のひらにのる美少女かわいい……!!
ただ、やっぱり切られた羽が痛々しい……。
ハルシャは、りんごを切り分けるとそれを食べてくれた。
「……オスニエルが食べないと怒るから、無理矢理食べてはいたんだよね。でも、なんか味がしなかった。でも、このリンゴは美味しいよ、ありがとう」
「良かったわ」
「そうだね。よかったらパンとかも切り分けるからね。ちょっとリージョ」
ちょうどパンを切り分けていたリオネルが言った。
その横でリージョが小さな両手をだして、ちょうだいちょうだい、している。
それを見て、ハルシャがくすっと笑って言った。
「そういえば自己紹介していなかったわ。名前はもう伝えてあるけれど改めて。アタシはハルシャ。コスモスの花から生まれたピクシーよ」
「可愛い名前だね。私はマルリース=ポプラ。父はカーバンクル。母は人間よ。この子はリージョ。父のブレスから生まれた妖精なの」
ハルシャに説明した時、リオネルが一瞬、ナニソレ知らない、聞いてないって顔でこっちを見た。
うん、ごめん。言ってないよね。
あ、あとでちゃんと言うよ!!
「僕は、リオネル。彼女の弟だ。僕も今日からこの家に住むんだ。同居人としてよろしくね、ハルシャ」
「よろしくね……え、弟?」
ハルシャが首をかしげた。
「うん、そうだよ」
「……仲が良いから、てっきりツガ」
わああああ!! 私は慌てて言葉を被せた。
「にっ 似てないでしょ!! ほら、私、人間の家で育てられて、そこで、ほら、血のつながってない弟っていうか!!」
「ふーん??」
ハルシャはそういうことじゃないんだけどな、といった感じで少し首をかしげたが、頷いてはくれた。
せええええふ!!
「つが……?」
リオネル!! それは忘れてくれ!
「そうだ! 果実水飲む!? ハルシャ!」
「あ、飲むー」
「リオネル!! 悪いけど取ってきてくれる!?」
「うん、いいよ」
リオネルがキッチンの方へと向かった隙に、ハルシャに言う。
「ご、ごめんけど。ツガイとかってワードを……リオの前でその言葉を出さないで……くれ、る?」
「……?? え? うん、わかった……」
私の鬼気迫る雰囲気に、ハルシャが少しビクっとした。
ごめんね!
そうか、他の妖精から見たら、ツガイかな? と勘付かれたりするんだ……!
ひええ……。
話題かえよう、話題。
「……あのオスニエルはね、私の子供時代の家庭教師で、私が半妖精だということを黙っている代わりに研究のために家庭教師期間が終わっても何度か会う約束をしていたの」
「そっか、それであの地下に」
「オスニエルは私を捕まえようとしてたから、どっちみち地下には連れて行かれたと思うけど、あなたを感じ取って走っていったのはリージョだよ。リージョは喋れないから、どうしてあそこへ走っていったかはわからないけど、窮地に陥ってるあなたのことを感じ取ったのは確かだと思う」
「きゅ~。にゅ」
リージョはウンウンと頷いている。やっぱそうだったんだね。
「そっか、ありがとね。リージョ」
「きゅうきゅう」
ハルシャはリージョの頭を撫で、リージョは気持ちよさげに目を細めた。
◆
食後、片付けようとしたら、リオネルに座らされた。
「ほら。さっき氷漬けにもなったんだし座ってなよ。こんな簡単な片付けは居候の僕がやるよ」
「え、もう元気だよ。聖属性で治してもらったんだから、ピンピンだよ!!」
「じゃあ、夕食後の片付けは姉上お願い。それよりハルシャの寝床とか考えてあげたら?」
「あ、そうだね。部屋は早く作ったほうがいいもの」
「アタシ。鳥かごでいいよ?」
「いや、オスニエルの思い出は捨てよう? リージョとおそろいのバスケットがまだあるから、それにクッション詰めてあげる」
「ホント? さっき使わせてもらったけど、とても気持ちよかった。わわ、楽しみ」
やっとほころぶ笑顔が見れた。
うんうん。
心のケアもしてあげたい。
しかし……。
「……うーん」
私はハルシャを見ながら、顎に手をあてて考えた。
「マルリース、どうしたの?」
ハルシャがキョト、と首をかしげる。
くう、かわいい。
くそ、オスニエルめ。こんな可愛い生き物をよくもあんな目に……。ますます腹が立つ……!
「ああ、うん。ええとね。あなたの羽なんだけど、根元は残っているから……。なにか別のもので代わりの羽を取り付けたら、飛べるのでは……? と思って」
そこへ片付け終わったリオネルが帰ってきた。
「ああ、成る程。それは良い考えだね。……あ、それこそ『O're』で作ってみたら? たしか濡れても平気だったよね? 弾力もあるし……。薄くしても平気なら、だけど」
「それだ!! リオネル偉い! 『O're』って練ればかなり伸びるから、薄くしてかなり軽くすることもできると思うし……弱くない。そして水に濡れても平気だから雨でもいけるし……リオ、完璧だよ!」
「お褒めに預かり光栄です、店主殿」
「そういうわけで、ハルシャ。何度かは失敗するかもしれないけれど、挑戦してみていいかな!」
「……え! そんなことができるなら、お願いしたいわ」
「よし! がんばってみる。羽ができるまでは、ここにいなよ。できてもいてもいいけど。リージョ、ハルシャが移動したいとき、頭の上にでも乗っけて上げてくれる?」
「きゅ!」
快諾のようだ。
「いいの? 大変じゃない? ……って、わわ」
リージョがひょい、とハルシャを耳と耳の間に乗っけて、そのあたりをピョンピョン跳ねた。
ハルシャは最初怖がっていたが、5分も経たないうちに楽しそうに笑い始めた。
「あはは、なにこれ最高ー!」
「きゅっ!」
「なんだか賑やかだね」
「うん、家の中が活気づいた気がするよ」
リオネルも穏やかな笑顔だ。
なんだか、急に家の中が――居心地のよい賑やかさになった。